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10 成長と早めに村を出て行く決意

 ラネ15歳。空が澄んで高くなってきた秋。

 俺は柱に新しく今の背の高さを父に刻んでもらった。

 それを確認して知らずに笑みが零れる。

 ここ一年で俺は一気に背を伸ばした。霊薬の素の効果のせいで一年間分くらい身長が止まっていただろうから実質的に14歳の身体なんだろうけど、もう三男と同じくらいの背丈になった。肩幅が大きいので体重は断然三男の方が重そうだが、身長は直に抜き去るだろう。


 俺はまだ実質的な肉体年齢が14歳なのでさらに伸びると思っている。

 村を出て行った長兄は背が高かったのであれくらいが目標だけど、あそこまでは届かない気がする。でも父や次兄にはもうすぐ届くだろう。

 これでようやく大人として通用する身体のサイズになったと思う。

 ちなみに母は女性の割に少し大柄で俺や三男と同じくらいである。

 

 身長を一気に伸ばしたのは成長期ということもあるが、伸ばす努力も怠っていない。

 昨年から動物性たんぱく質は積極的に摂っているし、食事が少なかったら粉ミルクをお湯で溶いて飲んでいる。さらに各種サプリメントで栄養を追加している俺に栄養的な死角はないのだ。

 身長を遺伝子の限界まで伸ばす。それが俺の一年ほど前からの一番の優先課題だったのだ。


 遺伝子ってのはアレだ。

 男がふと自分の息子が隣の男の顔に似ていると気付いて妻の浮気を疑ってしまう。親子で似てたり似てなかったりして揉め事を作り出すアレ。

 若い頃の祖母ちゃんとそっくりだと言われて、若い娘が否定したくなるアレだ。


 話を戻そう。


 ここ一年、なぜそこまで身長を伸ばすのに必死になっていたのか?

 答えは簡単。小さいと舐められるからだ。


 気にしすぎ?

 人はそこまで他人の背は気にしないのではないか?

 もちろん前世の持論ではそうだった。

 しかし、この村ではそんなことはなかったのだ。現にあの恩知らずの嫌な奴(コナン)にチビチビと嫌がらせを受けていた。

 

 この前なんて俺が狩りのために森へ一人で入って木の枝に止まっている獲物を見つけて狙いをつけていると、

「おーい。チビ弟。こんなところで、なーにしてんだ?」

って遠くから大声出して邪魔しやがった。

 狙っていた鳥は音に反応したのか、俺の気配に気付いたのか瞬時に飛び立った。


 弓で狙いつけているんだから、狩りに決まってんだろ。あれワザとだよ。


 あいつは俺のこと命の恩人だとわかってんのかね?

 そりゃあギフトの力を隠しているのは俺だもの、わかっているはずもないよね。

 全く以って、チビという言葉にはうんざりしている。 



 そして、あの日に俺は決意したのさ。身長促進3カ年計画を実行することを。


 栄養あるものを飲んで食べて、ジャンプと適度な運動とストレッチ、もちろん剣術の練習もするし、弓の練習もする。そして一日の締めくくりは十分な睡眠。

 ジャンプをすると背が伸びるってのは迷信じゃないかって?

 いいんだよ。俺の授かったギフトなんて前世のそこいらの迷信より超非科学的なんだからさ。

 気休めでもやらない後悔よりやった後悔なの。

 

 それに加えて十分な睡眠確保のために木製の耳栓まで作った。

 イライラしていると兄たちの寝息でも寝られなくなるし、兄たちの夜更かしに俺の睡眠を少しでも妨げられたくなかったのだ。

 それは俺自身がイライラし過ぎだからで兄たちのせいじゃないかって?

 俺も思春期だから、何かとイライラするお年頃なの。兄たちと違って、イライラしても俺は相手を小突けない。だから耳栓でもして耐えるのさ。

 

 一年の成果がこの柱の新しい傷。

 努力の甲斐があったのだろう。随分と身長が伸びてきている。

 これからも同じように背が伸びるのなら、あと一年後には父の背丈を抜いているだろう。

 順調だ。

 

 


 身長促進3カ年計画が軌道に乗りつつある今、最優先課題は別にある。

 ギフトの秘密に関わる懸念、それはアビーだ。


 事の発端は背を伸ばそうと誓う前に遡る。

 コナンの虫垂炎と思われる病気を治すための策としてべっ甲飴をアビーに与えたことから始まった。

 あれで味を占めたのか、あれから会う度にべっ甲飴を強請ってくるようになったのだ。


 しばらくはあの話題は無視していた。そのうちに諦めてくれると思っていた。

 しかし、アビーは諦めなかった。いや、あれはしつこかった。


「あれは樹液を集めるのが大変なんだ。だからたまにしか手に入れられないんだ。」

 そう説明を加えてやんわりと彼女のお願いを拒否した。

 相手は上級村民のご息女さん、蜂蜜だって舐める機会があるはずだし、人間関係は大事で「やらねーよ、バカ」なんて思っていても言えないのだ。

 

「じゃあ、待ってる。」

(今何て?)

 耳を疑うような返答が来た。

 疑うべきは自分の耳でも頭でもない。アビーの食欲に対する慎みの無さだったよ。

 甘味女子おそるべし。

 こちらが期待した返答は「そう、残念。」だったのに。


 野生の動物と同じで、この村の人間を餌付けしちゃ駄目なんだよ。味を知ってしまうということは恐ろしい事なんだ。

 熊に人の肉の味を覚えさせたらいけない。覚えた熊は人ばかり襲うようになるというやつ、きっとあれと同じだよ。


 その後、会うたびに「ベッコウアメ、そろそろできそう?」と催促されて、うんざりしていた俺はべっ甲飴を作って渡してやった。

 しかし、この後にあの時にはっきりと断るべきだったと後悔した。

 

 根負けしてべっ甲飴を渡した際、アビーが知ったのはこれくらいの期間を待てばべっ甲飴を再び貰えるということであり、俺が知ったのは2回もあげてしまったら、相手はまた当然貰えるものだと認識してしまうということだった。

 

 あれだけ催促するのだから要望通りに渡せば満足して大人しくなるだろうという俺の目論見は浅はかだったのだ。



 この餌付け行為が発端で、アビーは俺に好意的になってきたように思う。

 彼女にとって、毎日がべっ甲飴を欲しがる餌の時間だからすり寄ってくる。もしかしたら、俺がべっ甲飴に見えるのかもしれない。

 こちらもギフトの力を隠す時以外は彼女を避けることはしなかったから、自然と話す機会も増えた。村の噂話を交換し合う程度で何をするわけでもなかったが。


 しかし、知らない人たちから見れば、急激に距離を縮めて仲良くなった男女。積極的に話しかけているのはアビーという少女であり、相手のラネという少年は好意を寄せられている。

 きっとそう見える。俺が人生初で女の子からモテているように見える。

 でも全然嬉しくない。実際はアビーが飴で釣られているだけだからね。


 この未開なエラン村では砂糖を固めた飴一つで少女の好意を受けられるのか、そう考えると悲しくなってくる。

 大阪の飴ちゃんくれるオバちゃんたちにガキだった記憶の中の俺は何とも思ったことないのに。



 次はアビーを含めて女性への対応を間違えないようにしないといけない。

 俺だってそのうちいろんな女性と付き合いもできるだろう。

 複数の女性に惚れられて、困ってしまうということがあるかもしれない。ある気がする。

 一先ずそれは措くとして、女性に憎まれず、かつ物を集られない方法は何かないだろうか?

 人生経験が乏しすぎるせいか、何も思い付かない。


 そこで知識の泉たる前世の記憶に頼ろうと思い立つ。

 若い女性とどう向き合うべきなのか前世の記憶を辿る、さらに辿る、しつこく辿る。

 しかし前世の青年、女性の扱い方がほとんど記憶にないようだ。

 思い出したのは、さり気なく褒めれば良いとか、聞き上手であればいいとか、喧嘩したらとりあえず謝っておくべきということだった。


 この薄っぺらい知識にはちょっと文句を言いたくなる。

 前世の俺である青年が知らないだけなのか?

 それとも文明が発達しても女性の扱い方は発達していないのか?


 ナトリウムという金属から火を起こす知識まで披露しておいて、女性には実感と具体性がない箇条書きみたいな知識。

 とにかくガッカリである。

 


 アビーとの関係において、べっ甲飴を作れるという部分からギフトの力が辿られることだけは何としても避けなくてはいけなかった。

 鼻も利くし勘も良い女である。アビーは今や要注意人物ではなく危険人物なのだ。


 そこで、べっ甲飴を作るには樹液が必要で、それは採れる量が少ないからとこれまで話してきた設定に齟齬が生じない理由をでっち上げ、皆に黙っておいてもらうことを約束させた。話した相手が欲しがったらお前の取り分はないぞというわけだ。

 これで情報の拡散を防ぐ。ギフトの力やその生成物に興味を持ちそうな人が現れる危険をアビーだけに留めるのだ。

 そうして黙っておいてもらう代わりに、べっ甲飴を頻繁ではないが定期的に貢ぐことになった。


 世に言う口止め料である。

 

 

 ここまでは何とかできたような気もするが俺自身に問題は起きた。作りたくないのだ。

 べっ甲飴はたまにしか欲しくならない俺としては、アビーに渡すだけのために作るのは面倒になるのは当然の成り行きであった。

 自分が舐めたい時についでに作るなら良いんだけどね。


 他にも甘い物や美味しいものがギフトの力で出せる俺はべっ甲飴なんて半年に一回欲しくなるくらいだから、定期的に作るのはとてもシンドイのだ。


 だから、もう作らないと決めて一度、思いっきり突き放してみた。

「あの甘いヤツはもう無いよ、アビー。もう作れないんだ。」と突き放す言葉を告げた。

 設定とか辻褄とかどうでもよかった。面倒なことはもう嫌だったのだ。


「どうせ一人でこっそり食べるんでしょ?」

 じっとりとした目で睨まれた。


 睨む視線に耐えられず、俺は目を逸らしてしまった。

 たぶん、あの目は俺が嘘を吐いていると確信している目だ。べっ甲飴を作れないなんてこれっぽっちも信じてもいない。

 しかし、もうべっ甲飴作りが面倒になっていた俺はもう作れないということで押し切った。


 その後、アビーにつけられることが多くなっていた。

 つけられていると考えるのは自意識過剰かもしれないが、頻繁にアビーと外で遭遇する機会が増えた。

 勘違いなら笑い話だけど、気を付けるに越したことはないと思い、ギフトの力を使うときは今まで以上に周囲に気を配るようになった。



 ある日、周囲に人がいないことをきちんと確認してナトリウムと粉雪で火を起こす。ココアと砂糖にいつもより多めの粉ミルクで、ホットミルクココアを完成させる。

 コップは持ってきていないので匙で鍋から掬って飲む。そう至福の時。

 目を閉じて、体の隅々に温かいミルクココアが流れるような錯覚に身を委ねていると、ふっと横に気配を感じた。目を開けて横を見ると知らぬ間に隣にアビーが居た。


「あ、アババ!?」

 びっくりして妙な声を上げてしまった。

「何これ?いい匂い。」

 そう言ってアビーは俺に横顔を向けたまま鍋を凝視していた。


 この日、ホットココアの存在がアビーにバレてしまった。目の前の香り立つこれを無かったことにはできないと覚悟を強いられた。

「あ、これね。これは茶色の木の実の粉とヤギの乳と甘い樹液。」

 俺は適当に村と森にありそうな材料に言い換えて誤魔化す。ココアはカカオの木の実から採れるし、エラン村では牛の乳はほとんど飲まないので粉ミルクはヤギの乳に言い換え、砂糖は植物の汁から作るから樹液みたいなものなので大筋では間違いではない。


「ふーん。私も飲んでいい?」

「う、うん。ちょっと待って、今匙洗うから。」

「いいよ、そのままで。」

 アビーは俺の手から匙を奪うと、ホットミルクココアを口に入れた。

「美味しい。なんで?」

 なんで?って言うのは信じられないという意味なんだろう。確かにホットココアは信じられないくらい美味しい。

「何で隠してたの?」

 違った。感嘆の表現じゃなく、俺に対する否定的な意味だった。


 残りを瞬く間に飲み終わったアビー。

「これ、また欲しい。」

 俺はべっ甲飴の時と同じ、材料が中々揃わないという言い訳を前面に出しつつもアビーの要求に屈した。

 べっ甲飴から、ホットココアに変わった。

 これをアビーの家に持って帰って飲ませるわけにはいかない。


(べっ甲飴より、もっと面倒なことになった。)


(ここで飲ませるとして火をどうしようか。火打石を使ってそれで火を起こしているフリをしようか。)


(ここをアビーにバレないように使うのは難しくなった。使うならアビーを抱き込まないと。)


 俺はそんなことを考えていた。


 きっとこれは記憶にあるミカジメ料というものである。



 ちょっと面倒臭くなってべっ甲飴を拒否したら、ホットココアが嗅ぎつけられてしまった。

 アビーに対してギフトの力で多少の融通を利かせるのは仕方ないとは思うものの、できるのならギフトの秘密からアビーを遠ざけたい。

 アビーには時間の問題でバレる気がする。


 それが今の悩みの種なのである。




・・・・・


 紅葉の色彩が深まった秋のある日。

 兄二人とコナンたち4人組がまた大物を狩って、担いできた。とても大きなイノシシだ。

 狩りのリーダーであるコナンは我が長兄までとはいかないが狩りの腕も上達している。

 この頃では狩ってきた獲物を持ち上げて見せて、今まで以上に年齢層関係なしに女性に自分の生活力と体力をアピールしていた。

 

 コナンは上背があり、毛がチラリと見える胸元、生意気そうで精悍な顔つき。

 露骨なアピールをしなくても女性にはモテそうな男である。

 長兄も恰好良かったが、自分との差が狩人とベビーシッターのスキルの違いだと思うとちょっと気が滅入る。

 記憶の知識は、スポーツ選手はモテるものだと俺に語りかけていた。

 スポーツとは美しく強く体を動かすことらしい。


 女性たちは獲物の大きさを称賛したり、肉を貰うために4人組を囲むのだが、4人の青年の中でコナンばかりに話しかけているようにも思う。

 気のせいだろうか?


 その女性たちの中にアビーも混じっているようだ。

 食いしん坊だからな、あいつ。聞きつけてやってきたんだろう。


 アビーはコナンを取り巻いていた女性陣と肉を分けながら楽しくしゃべった後、コナンに手招きされて脂の乗った肉の塊を持ってきた籠に入れてもらっていた。

「今度、何を狩ってきて欲しい?アビー。」

 コナンはアビーに何だかアピールしているようだ。

「美味しい鳥。」

 アビーは即答していた。

「任せておけ。」

 どうやら女性のオーダーは受けてくれるらしい。


 女性が群れには中々入っていけない俺は、女性たちが減ってきたら肉を貰おうと少し離れた位置で待っていた。

 するとアビーは肉の籠を抱えてこっちにニコニコしながら近づいてきた。


「ラネも美味しいもの獲ってきてよ。」

 顔を近づけてきて小声で耳に囁いてきた。

「はぁ。」

 それに対して、ため息が俺の答えだった。

「じゃあね、楽しみにしてる。」

 ご機嫌で去るアビーはため息の意味を察してくれなかったようだ。


 気付けば、そのやり取りをコナンは見てこちらを睨んでいた。

 思わずこちらを力強く睨んでいるコナンの視線から目を逸らしてしまったよ。

 今までのような嘲りや揶揄いではなく、あれが嫉妬や敵意であることくらいは本能的にわかった。


 俺が楽しそうにアビーの相手をしてると思ったのか?思ったんだろうなぁ。

 ため息が連発しそう。


 しかし、まさか自分の妹の友人のアビーを狙っているのかな。

 アビーはコナンの3歳も年下だぜ。17歳が14歳に恋愛感情とかロリコンは言い過ぎだけど、気持ち悪い。あり得ないね。


 そうは思っても、この村では15歳で結婚する女性も珍しくない。特に女性は20歳までに嫁に行ったり、婿を取ったりする。

 男女ともに15歳になれば畑を所有したり、結婚出来たりするのだ。


 コナンが男として正常なのかもしれない。記憶の世界と違って、娯楽が極端に少ないこの村で、このような恋愛脳男子はたくさんいて然るべきである。そして彼らもいずれ誰かを伴侶にと望むのだから、ませた少年なら意中の女子に粉をかけようとするのは当然であった。



 そう気づかされた後によく見れば、アビーは村の少女の中でかなり可愛い方である。青年たちが気を引こうとするのは当然なのかもしれない。

 偶々俺にはおかしな記憶が生えてきたせいで記憶の中にいた綺麗な衣装を纏った女性たちと比べてしまうから田舎娘で見劣りするように感じているだけなのだ。

 

 要するにアビーは顔形が整っているし愛嬌もある。

 しかし、俺にとっては彼女は垢抜けていない。



 アビーと村の若い男女の在り方の考察が一巡してから我に返り、そろそろ自分も肉を貰いに並ぼうと4人組の方に目を向けた。


 あれ?あれれ?

 他の女性にもアビーにしたのと同じようにアピールしている。もしかして手当たり次第に粉をかけまくっているの?

 あいつ、この村で堂々とハーレムってやつを作ろうとしてんのか?

 まさか、真の粉使いのギフト持ちはコナン?

 

 いやいやいや、あいつは単なる村の青年。

 確かにあいつは顔が少しだけ良くて、背が高くて、狩りが上手い。

 しかし、それだけの男だよ。


 それにおしゃべりも上手か。女たちがあいつの冗談によく笑っている。

 そうだ、あれだけ周囲が笑っているのだから性格も明るいかもしれない。俺には陰湿だが。

 そう言えば、ここは貧乏村なのになぜか服の着こなしも様になっているかも。

 声変わりした後は低く通る声で男らしくなったかもしれない。

 口が大きくて豪快に笑うところも好かれるのかも。

 男と女で態度がコロっと変わるところも器用と言えるかもしれない。

 あと大きな胸板とチラっと見える胸毛も女性にはアピールポイントなのかも。


 だーがしかし、たったそれだけじゃないか。コナンの良いところを上げても精々十くらいしか浮かばない。

 普通だよ。普通にちょっとばかりモテているだけさ。


 一方で俺は死にかけの人を助けられるようなチートなギフトを天啓で授かっている。

 そして戦いに役立ちそうなスキル持ちには及ばないが剣も弓も磨いてきた。だからそのうち一人で壮大な経験をする旅だってできるようになるだろう。

 このような能力や条件なら前世の記憶の中のライトノベルというたくさんの英雄伝で描かれる主人公みたいなものだ。

 あれら英雄伝の主人公は、共通して性格は欠点だらけだし、特別にハンサムというわけではない。そうであっても、綺麗どころの女性たちが取り巻くのだ。

 多くの女性に囲まれる主人公は数多いたが、そもそもその中に巨漢は一人も語られていなかったはずだ。

 この条件って正しく俺じゃね?


 数々の物語を基に公平に考えれば、ハーレムという環境はチートな能力を持った男にこそ相応しいはずだよね。


 これ、間違ってないよね?


 女性の数が疎らになっているコナンを視界に収めながら、あいつよりハーレムに相応しいのは自分だと言い聞かせて、俺は肉を貰うために次兄に声をかけながら女性後ろに並ぶのだった。

 さっき睨まれたからビビったわけじゃないよ。




・・・・・


 イノシシ肉の解体現場で睨んできた一件から、あいつはさらに嫌な奴になった。

 すっかり大人のようなデカい体格になったコナンは何かと暴力をチラつかせて高圧的に接してくるようになった。

 身体をワザとぶつけたり、俺にだけ大声で怒鳴ってきたりね。



 エスカレートしてきたコナンの行動を止めようとしない兄たちにも俺の中で何となく家族意識が薄れている感じがした。今までは兄弟間故の不満だった。しかし、今では兄たちは敵だから当然なのではないかとも思うようになっている。

 兄たちにとって、気に食わないなら小突いてきた末弟の俺がコナンに小突かれたところで特に何も感じないのかもしれないが、その感性が俺には理解できない。


 いい加減にコナンの態度にも兄たちにも嫌気がさしていた俺は、このまま剣や狩りの腕を磨いて、次の初夏まで今の状況を我慢してからこの村を出て行こうと心に決めた。


 いじめってのは人間の本能だ。どこでも起きる。理由なんて数え上げたら限がない。だから、怒らせたら怖いぞを思わせる抑止力は大事で、暴力に対しても強くないといけないと思うのだ。

 それなら剣術と弓の腕は必須なのだ。


 どうせなら長兄のように冒険者を目指そうか。それなら各地を旅できそうだ。

 当初は18歳で出て行く予定だったが、来年なら16歳ということになる。

 

 情けない話だけど結局これは、村と家族、どちらも居心地が悪いから早めに逃げることにしたのだ。


 確かにそうだけど、ギフトの力もアビーに早々にバレそうなので、旅立つのが前倒しでもいいじゃないかと自分に言い訳をしてみる。


 そんな自分の事をヘタレだなと俺は改めて思ったが、将来が開けていくような感覚に嫌な気はしなかった。




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