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第1話 小間使いは今日でおしまい

 リューリング王国のドミニオン伯爵家に嫁いでから、もうすぐ4年。


「まったくお前は、こんなこともできないなんて無能だね……親の顔が見てみたいものだよ!」

「期待していたのだが、君と結婚したのは間違いだったかな」


 そんな悪意のある言葉を投げかけられてきた。

 お義母さまも、旦那様も、私を小間使いのように扱ってくる。

 私はそれに抗うことなく、ただ頭をさげているだけ。


「はい、誠に申し訳ございません」

「そんなんで謝った気になるんじゃないよ!」

「君は向上心というものを知らないのか……頭が痛いよ」


 わざとらしくため息をつき、今日もとても煌びやかで装飾がたっぷりついた服に身を包んだ二人は、私が叱責されていた応接間から出ていった。


「見て奥様……今日も旦那様と大奥様にいびられてるわ、くすっ」

「かわいそぉ……でも、私たちも楽できるしぃ」


 メイドたちも、くすくす笑いながら掃除用具を置いて出ていった。

 残ったのは、汚れているし、布も粗末なものだし、ところどころほつれているドレスを着た私、リーラだけ。

 パタンと扉が閉まった音を確認した私は、手をぎゅっと握り……


 そして、にやりと笑った。


「あ~~、おっかし」


 リーラ・ドミニオン。

 ドミニオン伯爵家に嫁いだ元コールト子爵家の三女で、今は伯爵家の中でも一番下の序列にいる、可哀想な奥様。

 ……しかしそれは、仮の姿。


 あの姑と男たちが知らない本当の姿は、『査察官』。

 貴族たち家に知らせずにやってきては、内情を知り、中枢にいる王家の人たちに報告。

 それらの報告をもとに、王族たちは貴族の格を判断し、いろいろな理由をもって爵位を上げたり下げたりするのだ。

 とはいえ、査察官の情報をおおっぴらにすることはできないから、様々な方法で問題を起こさせる、ということになる。


「あと数日でメイドもろとも落ちぶれるなんて……可哀想ね」


 応接間のソファに座り、うーんと伸びをする。

 ここまで私が本性を出さずに悪意のある叱責を受けてきたのも、すべてはこの査察のため。


「横領に、所得隠し、はたまた詐欺だなんて、やることやってるもの。仕方ないわよね」


 この家に嫁いできてからいろいろなことを調査していたが、このドミニオン伯爵家はクロもクロ。

 教会にいる神官さんさえ頭を抱えるほど素行が悪かった。

 しかもどうやら、王国の転覆を企んでいる証拠まで出てきちゃ、庇いきれないわけで。


 そしてその報告をするのが、今度の休日が明けた日――4日後。

 これまでも少しずつ報告はしてきていて、王家のほうではもう証拠をほぼほぼ掴んでいるけれど、どうせだったらもっとちゃんとした証拠が欲しい。


「どうせやるなら、逃げられないところまで追い詰めないと」


 武骨な丸眼鏡を取り外し、これまた豪華な鏡の前に立つ。

 眼鏡越しでは黒色だった瞳が、鮮やかな紅色に。

 冴えない顔立ちは、まるで魔法のように一気に華やかになっていく。

 査察官というのも本当の姿だけど、もう一つ隠していることがある。


「だって、この国の王女に喧嘩売ったんだから」


 鏡に映った私は、口角をあげてたいそう性格悪そうに微笑んでいる。

 あの人たちに身元を明かしたときの反応がとっても楽しみ。

 どんな顔をするのか、どう縋ってくるのか、どんな絶望的な顔をするのか……


「はぁ……楽しみだわ……」


 うっとりと手を頬に置き、ほうと息をつく。

 少しの間そうしていた私は、遠くから聞こえる足音にハッとして眼鏡をかけ直しさえない自分に戻ると、るんるんと元気よく窓を掃除し始めた。



 ――そして4日後。『悪人に慈悲なき冷酷王女』という噂が、王国中に駆け巡ることになる。

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