同郷
この夜はアルカカン帝国の王宮にて歓迎の宴が開かれる事になった。しかも船に残る者達も招待されるなど想像以上の待遇にエマは戸惑うも、折角の申し出であったため、お受けする事にした。
エマは転移で船に戻ると皆と一緒に王宮に今一度転移する。そして、直ぐに船に転移すると今度は大型船を収納した。目の前から大きな船が消える光景を見た街の人達は騒然としていたが、エマは構わず王宮に戻る。
宴の準備は進んでいるようであったが、それでも30人もの来客の料理を急遽作る事になったのだから、厨房も大慌てであった。
エマは国王陛下に我々からも料理を提供させて欲しいと伝えると了承を得られたので、その事を厨房に伝えると厨房に平和が訪れた。
私の収納から『唐揚げ』『ローストビーフ』『プリン』などを取り出す。
さー、宴の時間が始まった。
「国王陛下、1つお願いがあるのですが、この魔道具〔翻訳機〕を1つ頂けますでしょうか?代わりと言っては何ですが先程の紹介致しました魔道具一式を贈呈したいと思うのですが、いかがでしょうか?」
エマは宴の席で手渡されている魔道具〔翻訳機〕を譲って欲しい旨を国王に伝える。この魔道具を改良すれば、様々な可能性が広がる。エマの発言に言語学者のヘルメスがより一層渋くなったように思えるが気にしない事にした。
「あの魔道具を・・・勿論、お譲りしよう。ですが、それだけではあれだけのものを頂くには申し訳ない、王宮にある宝物庫の中から好きなものを持って行くといい」
「いえいえ、この翻訳機だけで結構でございます」
「それでは、我らの気持ちが収まらん。邪魔になるものでもないぞ」
「それでは、彼方にいる言語学者ヘルメスに言語の研究をさせたいので、彼に出来ればこの国を自由に歩かせたいのでご許可を頂けますか?」
「なるほど、ならば護衛に二人程兵を着けるゆえ、遠慮なく研究して下され」
翻訳機によって活躍の場を奪われたヘルメスの眉がみるみると下がってきた。漸く機嫌が良くなったみたい。
アルルカン帝国の料理も美味しく頂き、最後のデザートとしてプリンを食べるだけとなっていた。
「これがプリンなのですね。話には聞いておりましたが、食べられるとは思いませんでしたわ」
(今、王妃は何て言った!?)
「失礼ですが、此方の国でもプリンがあるのですか?」
なぜ、王妃がプリンを知っているのだろうか?
此方の国でもプリンがあると言うことは・・・
「実は我が国の英雄伝の1つに異世界人が現れた話があございます。その中に、その異世界人が妻だけにプリンを作ったと書かれております。ですが、妻だけのものにしたいと、異世界人はプリンと言う言葉と、それを見ていたものが描いた絵意外は伝えられていないのです」
王妃の言葉から異世界人と言う言葉が伝えられた。
エマは疑問から確証へと変わった。この国にエマの前世と同じ世界から来られた人がいる。
「異世界人ではないのですが、前世の記憶を持つ者がおります。このプリンはその者が記憶を元に作ったものです」
エマが告げると国王陛下から異世界人について教えて頂いた。
今の国王陛下の数世代前に異世界から男性が現れたようで、この国に様々な分野で貢献し、戦乱となっていたこの地を平和な地へと変えたそう。何を隠そう、エマが授かった魔道具〔翻訳機〕も彼の作ったものらしい。
「その異世界人はその後はどうなされたのですか?」
「この国の南方に大きな島があるのだが、その島には恐ろしい魔物の巣となっていた。時折、海を越えて我が国にも被害が及んでいたのだが、異世界人によって恐ろしい魔物は一掃された。その功績を称え、平和となった南方の島を異世界人に与え、建国することを当時の国王が許されたそうだ」
その国は今もあるとのこと。
南方の島に前世の私と同じ世界からきた男性が築いた国に行ってみたい。この国と安定した取引が出来たのならば、帰りに寄ってみることにしよう。
それからも、その異世界人について色々と教えて貰った。異世界人の妃はこの国のお姫様だそうで、その話を題材にした演劇は今でも人気らしい。
是非、この国にいる間に、その演劇を見てみたい。
エマはリーサオーラに次ぐ前世の世界を知る存在がいたことを知り、この国と南方の島国に対して、より一層興味が増した。




