発見
「エマ様、どうしましたか?」
アメリアから船に戻られたエマの様子が少し可笑しい。その異変に気付いたロイがエマに問う。
しかし、エマからはロイに「後で話すわ」とだけ告げられ教えて貰えなかった。ロイの隣にいるリナも心配そう顔でエマを見つめている。エマはデッキにいるマックにこの場に来るよう指示する。
ロイ、マック、リナが揃うと、これから島で緊急会議を行うと告げ、皆で島に移動することになった。
【緊急会議】
「皆様、本日はお忙しいなか申し訳ございません。エマ様より緊急会議の発動依頼があり開会したいと思います」
セバスの進行にて会議が開かれる。緊急会議は初めての事であったため、皆が何事かとざわつきが止まらない。
「今日、集まって貰ったのは、今アメリア国内の旅をしてます。その道中でレオナルドと部下の密談を聞いてしまいました。内容は私を連れてアメージアの谷底を調査するとの事です」
ざわつきが大きくなった。それもそうだ。
〖アメージアの爪痕〗
アメリア国南部に大地が抉られたように深い渓谷がある。その渓谷の底を調査しようと何人もの冒険者が挑戦したが帰ってきた者はいない。
その理由の1つとして、渓谷に吹き下ろす強風が渓谷を下ろうとする冒険者を吹き飛ばしてしまう。
そのため、最も近くにある未踏の地で最も危険とされ、谷を降りる行為だけで処罰されてしまう。
そんな所に私を同行で谷底に降りると言うのだから、ざわついても仕方がない。
「あそこは未踏として調査禁止とされている地であったはずでは?」
「その通りです。彼処は法律で調査が禁止されている場所です。ですが、その禁止を決めたのは他でもない王家です。ならば同じ王家が禁止を覆せば問題ありません。そして、あの人達は平気でそれを行います。何せ、自分達が中心と思っている人達ですので」
「でも、アレはエマちゃんの事が好きじゃないの?好きな女性をそんな危険な場所に連れていくかしら」
「アレが言うには私は命知らずだと思われているようです。私が旅中ずっとアレに殺されるのを日々恐れながらいたのを全く気付いていないようですね」
「エマちゃん、今すぐアレを殺っちゃわない?」
マリアお母様は笑みを崩さず恐ろしい事を言う。部屋の温度が少し下がったのか、マリアお母様の側に座る人達が震えているように見える。
「マリア婦人、アレを殺るのはアメージア様の意思に背いてしまいます」
「エマ様は行かれるのですか?」
「王命でギルドに直接に依頼が来れば断る事は出来ないでしょうね」
「そんな・・・」
「でも、安心して下さい。私には過去誰も所有していなかった〔浮遊〕のスキルがあります。このスキルを使えば、谷に吹き下ろす風の影響もなく降りる事は難しくないと思います。それに、もしもの時は転移して逃げる事も可能ですので安心して下さい。
ですが、未踏の地ですので何が起こるか解りません。もしかしたら、この島に利となる事とも出会えるかもしれません。そこで・・・」
エマは1対の魔道具〔ベル〕を取り出す。
「このベルの片方をセバスに預けておきます。調査の状況によっては1日も休まず進む事もあるかもしれませんので、このベルが三回鳴なれば、安全の合図としたいと思います。また、5回鳴ると緊急会議を開く合図にしたいと思います」
緊急会議と言う言葉で、皆がやはり何か起こるのではと不安の顔が隠せないでいる。
「皆さん、そんなに心配する事はないと思います。私はこの冒険によって、この島が大きく変化するのではないかと期待もしています」
会議はエマの意見が全面的に取り入れられる形で承認され終えることとなった。
会議を終え、ロイ、リナ、マックだけで集まる。
「と言う訳でギルドに依頼が入ればチームとして皆も一緒にいく羽目になってしまうかもしれないわ。ですので、今のうちに・・・」
「そうですね。今のうちに沢山のお弁当を作りますね」
「俺も剣の手入れでもしておくか。島で沢山、魔物を倒していたからな。未知なる魔物、毎日の弁当、楽しみで仕方がないなロイ!」
エマはギルドで仲間登録を抜けて貰おうと思ったが、皆は行く気満々であった。
未踏の地、もしかしたら戻れないかもしれないのに何故と不思議に思う。
「エマ様、私達の中でエマ様から離れたいと思うものはいません。私達がエマ様だけで危険な場所に行かせる訳ないじゃないですか」
「おう、騎士は守るためにある。危険だから抜けますなんて奴は騎士にはいないぞ」
「そうですよ。それに私は本来ならば既に死んでおりますので問題ありません」
「駄目ですよ。また、発病してしまいます」
(ありがとう・・・)
エマは涙で視界がぼやけてしまう。ロイがエマにそっとハンカチを手渡してきた。エマは手渡されたハンカチに涙を染み込ませた。
さて、それではアメリアに戻ろうとする時にデッキの方が何か騒がしい。
今度は何の魔物が現れたのだろう?
イカの次はタコだったからもしかしてクラゲか何かだろうか?
そんな事を思いながらデッキの方に向かおうとすると、ドアがタイミング良く開きエマの鼻にぶつかる。エマは鼻を押さえながらうずくまる。どうにか鼻血は出ていない。
ドアを開けた犯人はゼクト叔父様であった。
「も、申し訳ない」
「だ、大丈夫よ。それより騒がしいけど、また魔物が現れたの?」
「違います!陸です。陸が見つかったのです!」
ゼクトの言葉を聞いて私達は慌ててデッキに出る。
ゼクト叔父様から魔道具〔望遠鏡〕手渡され、覗くと確かに陸らしきものが見える。しかも、陸には何らかの建物らしきものが見えるため、人が住んでいる陸であることがわかった。
「そ、それでは上陸の準備を・・・」
「えっ!まだよ」




