死を恐れないと言う貴方が一番の恐怖
アメリア国内の旅も終盤を向かえつつあるが、船旅は未だに成果が得られていないままであった。
もし、今回の航海で成果を報告するとすればイカとタコだけである。
高台から魔道具〔望遠鏡〕で遠くの覗くも島らしきものは見えなかった。もしかしたら方角を間違えたのかも・・・嫌、ゼクト叔父様を疑ってはいけない。
「エマ様、もしかしたら方角が少し間違えていたかもしれません」
ロイの発言により船員が動揺し始める。
ゼクト叔父様は航海士の己を差し置いての発言に渋い顔をしてロイを見る。
ここで、ただロイを叱るだけでは船員の不安が残ったままなので、ロイのいい分を聞いてみることにした。
「ロイ、その発言は何かしらの根拠があっての発言かしら」
「根拠と言いますか、私には玄武殿はどこか大雑把な所があるように思えるのです。玄武殿が示した方角は確かにこちらの方向でしたが、そもそも玄武殿はそこまで細かく方向を覚えておりますでしょうか?」
(あっ!)
玄武には〔方向感覚〕と言うスキルがあり、自身がいる場所や一度訪れた事がある場所は、どんなに遠く離れていようと位置を把握する事が出来る。また、朱雀が訪れて来た方角もこのスキルによって、間違えることなく指し示すことが出来る。
だが、エマ達はその事を知らない。
よって、エマも玄武様が指し示した方角に疑問に感じてしまった。
(玄武様が指し示した方角を元に出航したけど、そもそも最初から方角がずれていたとすれば・・・)。
エマは少しずつ今回の航海が失敗に終わるのではと不安な気持ちが混み上がって来た。この不安を払拭させるには専門的知識がある者に聞くしかなかったため、エマは航海士のゼクト叔父様の確認してみることにした。
「ゼクト、目指す角度が少し違うとズレはどれくらいになりましょうか?」
「安心しても良いと思いますよ。まだ目的の場所まで辿り着いていないものとすると、かなり大きいズレになると思いますが、人が文明を築く程の大陸を見通す程のズレる事はないと思います。最低でも島の端などに辿り着くはずです」
「どうしますか、エマ様?」
もしかしたらゼクト叔父様の言葉は私への気休めかもしれない。既に人が住む大陸は過ぎ去った後かもしれない。玄武様に確認をしようにも、次に目覚めるのは数か月後となってしまう。ここは一度引く帰す事が正解なのでしょう。
でも・・・
「航海士のゼクト叔父様は安心しても良いと言っているわ。ロイ、航海の有無については航海士のゼクト叔父様に任せるべきだわ。私達が乗組員を不安にさせるような事はしては行けないわ」
エマは航海を継続することに決めた。だが、今の下がったテンションを引き上げなくてはならない。その為、エマは船員に向かってスピーチを行う。
「皆さん!私達が開拓している島は玄武様に見守られていたとしても全く人の気配が1つもない島でした。あれだけ資源豊富な島なら密漁するものが現れても可笑しくありません。そのような者の気配すらないと言う事は大陸から大幅に離れた場所にあるからだと思われます。ですので、大陸に辿り着くまでに今暫く時が掛かるかもしれません。
皆さんは、遭難等の心配をされているかもしれませんが、私のスキルにて皆さんを一瞬で島まで転移させることが出来ますので、安心して頂きたいと思います。
ですので、私達・・・いえ、航海士ゼクトを信じて着いて来て欲しい」
「「「おおおーーー!!!」」」
船員達は皆、右手拳を挙げ雄叫びを挙げながら私の意見に賛同してくれた。
ロイが私とゼクト叔父様に余計な発言をしたことに申し訳なさそうに頭を下げて来た。私が「切り替えて行きましょ」とロイに伝えるが、ロイは萎れた花のように頭を垂れてしょんぼりとしている。よくよく考えれば、私がロイに叱責するのは初めてかもしれない。
このままでは、他の船員にも移るかもしれない。こう言う時は無駄に明るいあの人に頼むのが一番じゃないかとエマは思い付く。
「マックはいる?」
「エマ様、ここにいます」
「ロイが元に戻るように貴方に任せたわ」
「おう!ロイよ!振られたくらいでクヨクヨするな!よし、稽古して全てを忘れよう!」
「振られていません!!」
「そうだっけか?悪い悪い」
態とね。
いつも以上に明るく振るまって、場の雰囲気を変えようとしているわね。流石はロイが師匠と慕うことだけあるわ。
「エマ様、そろそろ戻られる時間のようです」
「ありがとう。リナは二人が無茶するようなら間に入ってね。あまり怒りすぎるとマックの方が今度は項垂れてしまうかもしれないから気を付けてね」
「はい。また何か変化が御座いましたらベルにて知らせたいと思います」
エマはアメリア国へと戻る。少し早く戻ってしまったエマは気晴らしに外の空気を吸おうと部屋を出ると、廊下の奥の方から話し声が聞こえる。エマは音を立てないように浮遊しながら話し声の方へと近付く。
「危険でございます、未踏の地なのですよ、何が起こるか解りません」
「だが貴様も聞いただろう。エマの能力なら谷底に降りる事は可能なのだ」
「しかし、彼女は貴方様の婚約者ではありませんか。婚約者のご令嬢をそんな危険な場所に行かせるのですか?」
「ふふ、エマは柔な其処らにいる令嬢とは違うよ。彼女は死なんて恐れないさ」
「しかし・・・」
「もう良い。このような場所で長話をしていれば誰かに聞かれる危険がある。この話の続きは城に戻り陛下にも判断を伺う」
「はい・・・」
男達が秘密の会談が終ると、部屋に戻るため歩き出した。歩き出した方向はエマの方へと向かっていた。
(不味い!)
今から自身の部屋に戻るには遠すぎる。エマは仕方がなく、近くの扉を収納して部屋に入り、扉を元に戻す。
話をしていた男達にエマは気付かれる事はなく、男達は自身の部屋へと戻って行った。
(今の声はレオナルド王子に間違いない。恐らくだけど、この旅が終えると次はアメージアの爪痕の谷底に連れて行かれる。『彼女は死なんて恐れないさ』だって、今回の旅で何回お前に殺されるかと恐怖していたと思っているのよ!)
「あのー・・・」
「あっ・・・」
「まさかエマさんに夜這いを掛けられるとは思いもしませんでしたわ。でも、ご免なさいねエマさん、私はそっちの気質は御座いませんの。
許して下さいね」
ここはリーサオーラの部屋であった。この状況的に私が夜這いを掛けたと誰もが思ってしまう。
私は必死に言い訳をするが、彼女の目の奥にある疑惑の光が完全に消える事はなかった。




