デジャブ
基本、エマはアメリアで食事を行う。
船で食事を行うと、アメリアで何らかの食事を抜かなければならない。アレはエマの変化に敏感なため、そんな気付かれるような違和感を与えるわけには行かない。
その為、エマはアメリア国で食事を取ることにしていた。
よって、エマは巨大な烏賊ゲソを食す事が出来なかった。エマは皆が烏賊を食す事が出来て羨ましく感じた。だが、どうした事かエマが訪れる度に船員達の元気がなくなってきている。もしかして懐郷病もしくは食中毒に罹ったのかもと心配になってきた。
「エマ様、ご相談したいことがございます」
「どうしたの?」
(もしかしてプロポーズの返事!!!!)
期待に胸をドキドキと弾ませるエマに対してロイの相談は烏賊ゲソについてであった。思わぬ感情の変化を余儀なく行うこととなり、一瞬だけ無の極地に入り込んだ。
「エマ様?」
「だ、大丈夫よ。烏賊がどうしたの?」
船員達は昨夜の烏賊ゲソパーティー後も三食烏賊ゲソを食したが、それでも未だに1本の烏賊ゲソに苦戦しており、他の烏賊ゲソは手付かずの状態であった。
そして船員達は賊ゲソ続きの食事に飽きてしまい次の食材として使えず、消費できないで冷凍室に入れたままになっているらしい。
エマの収納には巨大烏賊の本体があるため、まだまだあることを告げると船員達は口を抑え首と手を横に振る。どうやら本当に限界らしい。エマならお好み焼きやパスタ、唐揚げなど様々な調理で提供出来るけど今の船員達は烏賊と聞くだけで拒否反応を起こしている。
エマが冗談で「如何?」等と言うだけでビクッと反応する者がいるほどであった。
エマは烏賊ゲソを本体と同様に収納すると島の浜辺に瞬間移動した。島の人達に巨大な網棚を作ってもらい、その上に持ち帰った烏賊ゲソと烏賊の三角のヒレ部分を置く。
此で上手く行けば巨大な烏賊ゲソとヒレの干物が出来上がる。
「エマちゃん!」
エマを呼び止めたのはマリアお母様であった。両方で旅に出ているエマは久しぶりにマリアお母様に会う。
エマはマリアお母様に挨拶を行おうとすると、マリアお母様はエマの事を抱き締めてきた。
「お兄様が外に出られるようになったのはエマちゃんのお陰よ。お兄様を救ってくれてありがとう」
叔父様は名を変えられ、マスクを被ってからは人が変わったかのように積極的に表に出られるようになった。島の開拓にも取り組んでくれている。また、あの時に渡した薬との相性も良かったようで航海士として乗船を依頼したら二つ返事で了承を得ることが出来た。
「お母様、私は切っ掛けを作っただけです。勇気を出されて外に出られたのは叔父様の力です」
「その切っ掛けが大事なのよ。今まで誰もその切っ掛けを与えられなかったのだから」
「・・・」
魔道具〔ベル〕が鳴る。今は船旅の方だからとマナーモードを解除したのが悪かった。
親子の感動的なシーンに無情にも鳴り響く魔道具〔ベル〕の音。何て空気読めないのだろうかと言う思いに対し、さっきまで何事もなかった船に何が起きたのかとエマはマリアお母様に別れを告げ急いで船に戻ることにした。
「何があったの?」
エマの問い掛けにゼクトは応答することなく、海に向けて指を指している。
なんだろうか、何故かデシャブを感じるもゼクトが指差す方を見る。
「・・・」
海の中でから無数の吸盤がついた脚が船に襲い掛かろうとしている。本当に見たことある光景だが、本体のフォルムが違う。本体は尖ってなく丸みがある。
今回、襲ってきたのは巨大なタコみたい。烏賊の次はタコとはこの世界の海には軟体動物しかいないのかと思ってしまう。
タコの足が船に絡み付く。
船員達はタコの足を見て烏賊をフラッシュバックのように思い出し、皆が膝から崩れ始めた。
これは不味いと慌ててエマはタコの本体を収納し、絡み付いた足も無理矢理剥がし全て収納することが出来た。
問題解決・・・とはいかない。船員達のモチベーションはかなり下がり切ってしまった。
元気なのはデッキで自身の不甲斐なさに憤慨しながら剣の素振りをしているマックだけであった。
エマはリナと相談し、次の食事は胃に優しい物をと思い厨房に訪れる。厨房にある食材を使ってウドンを作る事にした。マックは久しぶりにリナの手料理が食べられると更に元気になる。
船員達は久しぶりに烏賊以外の食事であったため、涙を流しながらウドンを啜っている。そして、胃に優しいウドンによって船員達の状態も良くなっているように思える。
「エマ様、ありがとうございます」
ロイが礼を言ってきた。私も言わなければいけないことがある。だけど、この場で今告げて大丈夫だろうかと心配で戸惑う。
「どうしましたかエマ様?」
ロイは私の異変に直ぐ気付いてくれる。そんなロイが側にいるだけでホッとする。アメリアの旅にもロイやリナにも一緒に来て欲しいのだけどそうも行かない。
マックは・・・元気で何よりね。
折角、ロイが問い掛けてくれたのでエマは勇気を出して聞いてみることにした。
「さっきのタコだけど、今夜はタコパーティーにする?」
皆が口を抑え手と首を横に振る。




