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オクトではなくゼクト

「叔母様、突然の訪問致しまして申し訳ございません」


「大丈夫よ。ちゃんと先触れも頂いて致しね。それに子供達がエマちゃんに会いたくて今か今かと楽しみにしていたのだから」


そう告げる叔母様を隠れ家にしている二人の子供がチラチラとエマの事を見つめている。

カディア王国にもエマ商会は出店しており、今やエマは有名人であり、子供達の憧れであった。


エマはポーチからお茶を取り出し子供達にプレゼントしようとすると、子供達は大喜びで受け取りに来た。


「それで、伝書鳥には相談したい事があるとあったけど、相談したい事って何かしら?」


「天体について詳しい方を探しておりましたらお母様から叔父様の事を教えて頂きまして、是非にご協力願いたくお伺い致しました」


「オクトお兄様ね。難しいと思うけど呼んで見るわね」


~~~~~~~~~~~~~~


【オクト・グラニス】

私はグラニス侯爵家長男オクト・グラニス。私は本来はこのグラニス侯爵家を継ぐために育てられたが、継いだのは末っ子の妹であった。

兄の私が後継者として不適合者となり、長女はこの国の王と婚姻を結ぶこととなり、次女のマリアは隣国のゼニス・グレイス侯爵の猛アタックにより嫁ぐ事になり、三女の末っ子が女侯爵として、この領地を引き継ぐ事となった。


私はあの発表会の日に欠陥品となってしまった。あの発表会で私は皆の笑い者となった。私の論文を後押ししてくれた教師は侯爵と言うしゃくいを妬んでいたらしい。お陰で私は人と会うことが怖くて仕方がない。私も変わろうと努力をしてみた。だが、ドアノブまで触ることが出来るのだが、回して開けることが出来ない。

ドアから先の世界は私にとって別世界となっていた。


今日もいつもと変わらない時間が流れる。いつものように目が覚め、ベッドから起きて、ドア前に用意された食事を食べて寝るだけであった。

そんな生活を送るものと思っていたのだが・・・


今日はやけに外が賑やかで騒がしい。いつもと違う空気を感じたが私には関係ないと、いつもと同じ生活を送り続けようとしていた。

そんな私の部屋のドアをノックする音がした。

どうやら使用人のようである。使用人が言うには妹マリアの娘エマ令嬢が、遊びに来て私にお会いしたいと言っているらしい。

どうされますか?

会うわけないだろ。


私は使用人に断るよう告げると再びドアをノックする音がした。先程の使用人であった。

今度は何だろうか?


「エマご令嬢が天体について話し合いたいそうです」


天体!?

そんな人がいるのか?

私は妹マリアの娘に興味を持ったが勇気が出ない。「会って話し合いたい」と言いたいが、その言葉が喉から出掛けようとすると、あの発表会の日の事を思い出してしまい、再び言葉が喉の奥に押し戻されてしまう。


結果、私から出た言葉は「会わない」であった。折角、天体について興味を持つ子に出会いたのに・・・

会って話し合いたいのに・・・


私は諦め再び日常生活を送ろうとしていると、またドアをノックする音がした。

だが、今度は使用人ではない。ドアをノックしていたのは私が会って話し合いたいと思っていた人物であった。


「初めまして。マリア・グレイスの娘エマでございます。オクト様の論文を読ませて頂きました」


私の論文を読んだ!?

私はまた笑われるのか・・・

私は、また馬鹿にされる事に恐怖が込み上げて来た。

が、ドア向こうの女性から私を馬鹿にする言葉とは真逆の言葉が私の耳に届いた。


「『この大地を中心に星が回っているのではない、この大地自体が回っているから星が動いているように見える』『この星は丸い』と書かれておりましたが、私もその通りだと思います。その証拠が不動星ですよね。この星の回転軸となっている延長線上に不動星があるから動いていないように見えるのですよね」


ああ、なんて事だ。

誰も理解してくれなかった事を彼女は理解してくれた。

私は彼女に興味を抱いていたが、ドアノブに手を掛けかる手がこの先を望まなかった。私はここから先に行く事が出来ない。

だけど・・・ドア越しなら・・・


「よく解ったね?」


「はい、微動だにしない星があることが解りました後に論文を読ませて頂きましたので理解することが出来ました。そして私はこの不動星を活かして航海を行おうと思うのですが、その専門の知識が疎く、ご教授願いたいのです」


不動星を活かした航海。

私が考えている論文と同じであった。そして部屋の片隅に置いてある星読みの道具に目がいく。

こんなに話が合うのは初めてだ。

話がしたい!

だけど・・・


「無理だ!ごめんね、僕にはこのドアを開ける勇気が出ない。僕はもう一生ドアの外に出ることが出来ないのだ」


私は諦める事にした。彼女も諦めるだろうと思った。

が、彼女は諦めることはなかった。


「成る程!このドアがなければ良いのですね」


何を言っているのだろうか?

かのじょの言っていることが理解出来ないでいると、目の前のドアが私の目前から消え去っていた。

私の目にはドアが消え去り、その向こうにいた人物の姿が目に入って来た。


子供?

こんな子が先程の質問をしてきたの?

でも・・・もしかして、これで彼女と話が出来る・・・

と、思っていた所に対人恐怖が発病し喉奥から気持ち悪いものが汲み上げてくる。

「ごめん無理だ」と彼女に伝えようとした。

だけど、そこでも彼女は諦めようとしない。


「こちらをどうぞ」


彼女から投げ渡されたのは覆面マスクと薬らしきものが入った瓶であった。


「その覆面マスクを被って下さい。そうすれば、私とオクト様は出会っていないことになります。覆面マスクはこの部屋のドアと同じでございます。それに被れば誰もオクト様だと気付かれる方はいないと思いますよ」


そんな事があるわけがない。日常生活に覆面マスクをするものなどいない。逆に皆から注目されてしまう。

だが、彼女の言う通りこのマスクはこの部屋のドアと同じかもしれないと思う自分もいる。そして私は何故か納得してしまい覆面マスクを被っていた。


「こちらの瓶は?」


「オクト様は少し神経のアンテナが過敏なのかもしれません。私共の薬師がこのような症状に効果があるとされる薬草を錠剤にしたものでございます。そちらを毎日1粒飲み続けてみて下さい」


「解った、飲んで見るよ」


「それでは改めてまして、マリア・グレイスの娘エマ・グレイスと申します。先程の不動星にて現在の位置が把握出来ると思うのです。それを元に魔道具を作りたいのですが、天体の知識が疎いため上手くいっておりません。つきましては、オクト・・・いえ、今はマスクをされてますのでゼクト様と致しましょうか、是非、ゼクト様にご教授願いたいのです」


私は彼女の問い掛けに対し部屋の隅に置いてあった道具を手に取ると彼女に手渡した。

彼女は最初こそ使い方に手間取っていたが、直ぐに使い方を理解し始めた。


「これは、もしや不動星の位置をこれで測ることによって位置を測定できると言うことですか?」


「まだ憶測だけどね」


「お願いします。是非ご協力して頂けませんか?」


正直いって怖い。

が、覆面マスクのお陰だろうか、怖いが吐き気がしてくるほどじゃない。この程度の怖さなら少しの勇気でどうにか出来そうであった。

そうだ、行くのはゼクトでありオクトではない。悩むことはないじゃないか。

そして、今度こそは声に出してやる!


「いいよ」


やっと出せた。

私はこの3文字を告げるのにどれだけの無駄な時間を過ごしてきたのだろうか。

だが、これからはゼクトとして違う世界を見ることにしよう。


「それでアリシアにはいつ行けばいいのかな?」


「あっ!いく場所はアリシアではありませんよ」


「えっ!?」

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