エマ復活
リナが息を引き取ったとされる日が過ぎ去った。エマも安心してかリナリナ病も収まり今までと同様に出歩くようになり、島にも訪れる事になった。久々に島に訪れたエマが最初にしたのは謝罪であった。
だが、痩せ細ったエマの姿を目の辺りにした者達はエマに何も言えない。
それどころか、再びエマが訪れた事で島はお祭り騒ぎとなった。
そして、漸くエマが島に訪れる事が出来たため長らく先延ばしとなっていた第二回代表者会議が開かれることとなった。
議題は島の開拓の進捗状況と島の経済流通についてであった。
エマが不在の間の進捗状況を各分野の代表者を説明する。どの分野もエマが掲げた課題を越える成果を見出だしていた。報告はホーミン先生の番になった。私はホーミン先生にある魔道具の開発を依頼していた。
ホーミンは自身の番になると魔道具を取り出し、テーブルの上に置く。
「ホーミン様、そちらは何で御座いましょう?」
「此方はエマ様に頼まれていた魔道具〔映像記録〕で御座います。この魔道具の録画ボタンを押しますと、このレンズ越しに捉えた映像を記録する事が出来ます。そして記録した映像をこちらの魔道具〔映写機〕にこのようにして繋ぐと記録した映像を写し出すことが出来ます」
「頼んでおいた映像は大丈夫かしら?」
「はい。事前に頼まれていたものは既に録画してあります。見ますか?」
「いえ、後にしましょう。先にロイに頼んでいた事を皆に報告して頂戴」
ロイは玄武様から教えて頂いた遠い大陸に人が住んでいる事を皆に話をした。
「次におかあ・・・マリア婦人、報告お願いします」
「エマちゃんたら、別にお母様でも構わないって言ったのに~」
「マリア婦人!お願いします」
「エマちゃんに言われた通り大型船が完成したわ。今は港に停泊させてあるから後で見に行きましょ。ただ、この島がどこにあるか解らないのよね。島から海を観察していても船らしいものは一隻も通らなかったから近くに人が済むところはないと思うわ」
「カディア王国では、どのように貿易を行っていたのですか?」
「カディアではアメージア大陸との取引として各国に港があるわ。それと、カディア王国から真っ直ぐ北にいくとアジエアと言う島国があって、そことも貿易を行っていたわ」
「どうやって航海されているのですか?」
「皆さんも知っている物よ」
マリアお母様が取り出したのは魔道具〔マーカー〕であった。この魔道具〔マーカー〕はエマが生まれる前からある魔道具の中でも最も有名で最も重要視されている魔道具であった。この魔道具は王都や領都だけでなく各領主や王家が重要としている場所に設置してある。
それだけではない、アメリア国だけでなく他国も同様に設置している。それほど安価で製作可能であり、大量に作れる魔道具であった。
この魔道具は主要場所の入口に設置される事が多い。この魔道具を街に設置されている魔道具に接触させるだけで、その場所をマークする事が出来る。
遠出をした時に帰りの方向が解らなくなった場合、この魔道具を起動させると最後にマークした場所を光で指し示してくれる魔道具であった。
気を付けなくてはならないのが、この魔道具は上書きされてしまうのだ。その為、旅が不慣れなものはこの魔道具が不足がちとなってしまい、マークができなかったり、上書きしてしまい帰り道に迷子になってしまうトラブルが起きる。ベテランの冒険者ほど自身で設置してくる事も考え余分に持ち歩いている。
「これをアジエア国にも設置しており、このマークを元に航海を行っているのよ」
「その魔道具がない時はどうされていたのですか?最初に訪れる時はマークはなかったかと思います。カディア王国に最初の航海について語られてたりしませんか?」
「勿論、カディア王国では有名な話だから語られているわよ。アジエア国を知り得た切っ掛けは一隻の漁業船よ。嵐に遭遇して梶が壊れて漂流していたところ、運良くアジエア国に辿り着いたそうよ。最初は言葉が通じず苦労したらしいけど、どうにか船を直し帰ることが出来た漁師が当時のカディア国王に報告したらしいわ。しかも、その漁師はアジエア国にマーカーを設置してきたので特使をアジエア国に送り友好関係を結んで貿易が行われるようになったの。ほの漁師は褒美として男爵の爵位と自身が住む漁場の領地を授かった事で物語として語り継がれているわ」
「マリア婦人、アジエア王国は貿易相手としてどうですか?」
「難しいわね。私も一度お父様に連れていって貰ったことがあったけど何もない国よ。聞いた話では、あの国は一年の殆どが雪に覆われた国で決して豊かとは言えないわ。カディア王国ではアジエア国で取れる鉱石を主に輸入しているけど、この国には必要ないでしょ。それに貧しいから観光客としても難しいんじゃないかしら」
マリアお母様の報告により新しくアジエア王国について知ることが出来た。個人的には一度訪れてみたいと思うエマであったが、あまり貿易相手には向いて無いようであった。そこで、エマは先ほどホーミン先生に頼んでいた映像を皆で見る事にした。
映像には夜空が映り出されていた。エマの指示で早送りをすると夜空の星が弧を描くように流れて行く。
1つ目の映像に成果を得ることが出来なかったエマは2つ目の映像を見る事にした。2つ目の映像も夜空が写し出されていた。
「あったわ」
エマの呟きに一緒に映像を見ていた者達は何の事か解らず映像を見返していた。エマが指差したのは1つの星であった。その星は早送りした映像の中でもポツリと微動だにしていなかった。
「この星がどうかしたのですか?」
「この星を目印に航海をするのよ。微動だにしない星は目印として最適だわ」
チームマリア(お母様が集いし船大工の専門家達)により大型船が完成していた。いよいよ大航海が始まろうとしていた。
「誰か星を研究されている学者とかいないかしら」
エマの問い掛けに皆が沈黙した。どうやら、この世界には天文学がないことに残念に思っていると、お母様から「あっ!」と言う何かを思い出したかのような声が聞こえた。
「お母様、どうかしましたか?」
「いるのよ一人だけ、カディア王国で貴族が集まる中で星空についての研究を発表したところ、皆の笑い者となって貴族社会から消えてしまったわ」
「だ、誰ですか?」
「お兄様よ」
「はい?」
「エマちゃんも知っているでしょ、私のお兄様なの」
お母様にお兄様がいることは聞いたことがある。だけどお兄様には後継ぎと慣れない理由があったためお母様が一時は後継者候補として育てられていた。
そう、確かお母様のお兄様は・・・
「たしか、お母様のお兄様は・・」
「ええ、その発表会がトラウマとなって対人恐怖となってしまい、今も邸に引き込もっているわ」
翌日、エマ達はカディア王国にいた。




