ここに集う
ゼバスによりエマが求める人材が集まり代表者会議が開かれる事となった。
先ずエマが求めたのは島の植物についてであった。森林開発はヨザクに任せて置けば心配ないのだが、ヨザクは野草関係に関しては全くの無知であった。
一度、ヨザクから「田んぼって何を作っているんだ」と聞かれた時は驚きのあまり時が止まってしまった。危うくヨザクが時を止める新しい能力を身に付けたのかと勘違いして首筋に星のアザがあるのではと探してしまったほどであった。
なので植物についての専門家がこの島には必要であった。
セバスが連れて来たのはキュアと言う平民の女性であった。エマはキュアの事をよく知っている。それもそのはず、キュアを望んだのは他でもないエマであったからだ。
キュアはグレイス領内で薬草栽培の管理を行っている一人であった。彼女は平民であるが植物の知識が豊富であった。その優秀なキュアとは『黄熱病』の特効薬となる薬草の栽培について相談したり農地改革や冒険者としてと様々な事で相談していた事で仲良くなっていた。
その彼女が引き受けてくれた事がこの上なく嬉しく感じメンバー紹介として彼女を紹介された時は思わず目尻を緩めてしまった。
次にエマが求めたのは魔道具開発の専門家であるが、この人材は既にホーミン先生しか考えられない。ホーミン先生はエマの家庭教師の先生である縁で今ではエマ商会の魔道具開発部門の総責任者として務めている。
そのホーミン先生は冤罪回避のための魔道具開発のため既にエマの秘密を知っている。この分野ではホーミン先生以外は考えられなかった。
次に農業分野の専門家である。
エマも前世が農業をサポートする職に携わっていたため、ある程度農業の知識があったが、この島では『開拓』する知識が欲しい。この人材もエマが思いあたる者がいた。グレイス領で新しく設けた『農業研究所』で働くシードである。実は彼はグレイス領内で文官として働いていたのだが、その豊富な知識や農地改革の高い意識を買って農業研究所のメンバーとして推薦したのがエマであった。
シードは研究所内で品種改良分野や栽培技術の研究だけでなく農地開拓関係の知識を生かし、グレイス領の農地開拓も彼が先頭となって行っていた。
次に建物を建てる事が出来る専門家である。エマ商会は建築関係の事業は行っていない。その為、エマは建築関係で思いあたる人材がいなかった。
エマ自身が建築家と全く無縁だった訳ではない。エリイスの街を建築家と一緒に作り上げた経験がある。あの街並みや建物を考えれば彼は優秀な人材ではあった。だが彼は王家の紹介で来た人物であった。
故に王家の者と近すぎる彼を信用する事が出来ない。
その為、エマには思いあたる人材がいないのだ。
エマがセバスに相談するとセバスの知人に優秀な建築家がいる事だったので、その建築家にセバスが話を持ちかけたところ快く承諾してくれた。
次に海運事業である。前世で海に行ったことがあるため海について全く知らないわけではない。しかし開拓するだけの知識を持ち合わせていない。
前に行った釣竿のようににわか知識程度なので魚を釣ることさえ出来ない。
セバスに相談すると「あの方しかおりませんな」と心当たりがあるようだったのでセバスが話を持ち掛けると快く承諾してくれたので、この会議にこられたのだが・・・
こられたのだが・・・
「セバス、ちょっと聞いていいかしら?」
「はい、お嬢様」
「彼処に座っているのはもしかしてお母様の親戚かしら?」
「いえ、グレイス侯爵婦人ご本人でございます」
そう、海運事業担当として目の前に座っているのはマリアお母様であった。お母様がカディア王国の出身であることは知っていたが、まさかここに来るとは思いもしなかった。侯爵婦人が来たことにより皆が萎縮してしまった。貴族であるホーミン先生でさえ萎縮しているのだから平民の者達は尋常ではなかったはず。
ヨザクに至っては「お会い出来てこの上なくよい日取りで幸せでござる」と訳の分からない事を言ったり「語尾がいつの時代の言葉よ」と突っ込みたくなるくらい困惑していた。
「どうしてお母様が?」
「あら、私がカディア王国出身だって知っていたでしょ。私の実家は海にも面していたから海運事業について勉強していて詳しいのよ。新しく港の建設も手掛けた事があるのよ」
「奥様は海洋生物の生態について著書を出されるほど、その道の専門家の中では有名な方でおります。それに奥様が一言お声をかければ優秀な人材が集まります。お嬢様から相談を受けまして、私には奥様以外思いあたる方がおりませんでした」
「これってアレ対策の計画と聞いているわ。喜んで手伝わせて頂戴。大丈夫よゼニスには秘密にしてあるから」
お母様が著書を出しているとは知らなかった。
お母様の事を何も知らなかったようだ。確かにお父様 の元に嫁ぐ前はカディア王国の爵位を継ぐ予定だったと聞いた事があった。
エマは諦めるしかなかった。お母様とゼバスの二人から攻められれば敵うはずもないからだ。
次に魔物に関する知識や解体が出来る者が必要であった。ロイは魔物の討伐は出来るが解体が出来ない。その為、今でははロイが討伐した魔物はエマが収納したままであった。
エマの収納内は時が止まった状態で保存出来るため腐る心配はないのだが、エマの収納内は魔物の死体だらけとなっている。「私のスキルは死体置場じゃない」と、エマは解体でき魔物の知識に豊富な人材を求めた。
セバスが連れてきた人材は見たことがある。彼女はレティと言う名でギルドの受付として働いている。
驚く事に彼女は魔物の解体技術を持ち合わせているらしい。彼女の父親が魔物の解体業として働いているからだ。だが「女が解体など出来るわけがない」とギルド内で解体をさせて貰えないでいたところ、セバスに話を持ち掛けられたのである。どうやらセバスと彼女の父親は旧知の仲らしい。
そして、最後に既に開拓に携わっているヨザクと魔物討伐担当のマックウェル、人事担当のセバス、エマの腹心としてロイとリナが会議に参加する。
島の開拓総責任者はエマであった。
○島開拓総責任者
エマ・グレイス
○島開拓副責任者
ロイ
リナ・エンブラント
○人事・経営管理代表
セバス・オーロレイ
○森林開発部門代表
ヨザク・フォレスト
○植物学部門代表
キュア・プラント
○魔道具開発部門代表
ホーミン・ウィザード
○農業生産部門代表
シード・ファーミング
○建設技術部門代表
ビル・イレクション
○海運事業部門代表
マリア・グレイス
○魔獣対策部門代表
マックウェル・ストロングス
○魔物生態研究部門代表
レティ・ディスメンタル
以上が役員会議のメンバーである。
キュア、ビル、シード、ヨザク、レティは平民であるため家名(貴族名)を持っていない。その為、エマが其々にあった家名を着ける事にした。ロイにも家名を名付けようと思ったが『いずれなくなる家名はいらないです』と断られた。
言っている意味がよく分からないが、強要している訳ではないためロイの意思を尊重する事にした。
他の皆は家名を得られた事に喜んでくれている。今はこの島だけ名乗れる家名であるため、そんなに価値はない。なのでそこまで喜ばれるとは思わなかった。特にヨザクは両膝を床に付け両手を握りしめ、両腕を上げて雄叫びを上げながら喜んでくれた。
ある映画のワンシーンで見たことがあるポーズであったが説明してもここにいるメンバーには伝わらないだろうと、エマは心の中で思うだけにして皆に伝えるのを諦めた。
(それにしても、ここまで喜ばれるとは思わなかったわ。どうしましょ・・・皆には言えなくなってしまったわ。家名付けはヨザクの著作権対策だと言うことを)




