浦○太郎の信実
「なかなか釣れないものですね」
「そうね。釣りって難しいものなのね」
エマ達は秘密の共有を終えると島を開拓するために先ず最初に行わなければ行けない事があった。
其は釣り・・・
ではなく、この島を加護している玄武様への挨拶であった。エマはアメージア様によりこの島に連れて来て頂いたが一度も玄武様にお会いしていない。島を開拓するには玄武様の許可が必要であった。
その為の釣り・・・
ではなく、アメージア様曰く、玄武様は一週間に一度しか目を覚まさない。目を覚ましても数時間後には再び眠られてしまい再び目覚めるのは一週間後となってしまう。その為私達は時間があればこの島に訪れ玄武様が目覚めるのを見落とさないようにしている。
その為の釣り・・・
ではなく、ただ暇だから釣りをしているだけで特に理由はない。玄武様が目覚めるのを待つ間にすることがなかったため釣りをすることにした。
と言ってもこの中で釣りをしたことがあるものは誰もいない。エマも前世では一度もやったことがない。知識的にも疎すぎるためアメージア様から頂いた力を持ってしても再現は難しい。エマの記憶で辛うじて再現出来た竿、糸、釣り針、ウキを組合せ釣りを行っているが誰も1匹も連れていない。
エマの前世の記憶にないのだ。ウキの重さや餌の種類、針の先のウキと針の長さなど釣りには場所場所に合った道具や調整が必要なのだがそんな事を知らない。なので釣れるはずもないのだ。
ただ、釣りと言うものは釣れていなくても時間を潰すには持って来いの遊びであり、あっと言うまに時間が経つ。
エマは訪れては釣れずに帰る日々を既に三週間ほど繰り返していた。アメージア様の言うことを信じればエマ達は既に二度ほど玄武様の目覚めを見落とした事になる。
あまりにも会えない事からもしかしたら夜行性なのかと思い、夜は当番を組んで見張っているが其も既に10日は過ぎている。
「エマ様、向こうの島も玄武様の加護があるのですか?」
私達が訪れた玄武様の加護があると言う島の向こうに島が見える。一度もエマの浮遊で島の上空から島を眺めた。私達が訪れている島はアメリア国の3倍程の面積であるが向こうの島はこの島よりも小さい。それでも王都くらいの大きさはあるように思える。
言わずもだが、向こうの島も無人島であった。有人であればこの島が開拓されていないわけがない。
「どうかしら?玄武様が目覚めたら聞いて見ましょ。それにしても良い目印が出来て良かったわ」
『玄武に会いたかったら向こうの島みたいなものを見続けていると何時かは会えるよ』
アメージア様が別れる前に最後に私達に教えてくれた言葉であった。その言葉を信じてあの島を見続けながら三週間経ってしまった。
島の中を冒険したくても玄武様の許可を得られなければ行けないように思え冒険も出来ない。
マックとロイは三日目になると釣りをせず剣の稽古として素振りをしていた。釣りをしているのは私とリナだけであった。
「玄武様はどんなお姿をしているのですか?」
「ご免なさい。お姿については聞いてなかったの。ただアメージア様の本来の姿は火の鳥のようだったわ。ただ前世では空想の生物として大亀として描かれていたのよね」
海の方を見てればと言われたから大きいウミガメが現れると思っている。もしかしたら背中に乗れて竜宮城に行けるのかしら?
そんな事を思っていると、私達がいる島から対岸の島のとの間に小さな島が現れた。小さいと言ってもアメリアの王城位はあるであろうか。
(新しい島の誕生の瞬間が見れた!?)
島の誕生に感動していると徐々に島が私達に近付いてくる。それと同時に対岸にあった島も新しく誕生した島に引っ張られるように同じく近付いて来た。ロイとマックは異変に気付き身構える。
「君達、僕の島で何してるの?」
僕の島・・・
新しく誕生したかと思った島は玄武様の頭であった。そして対岸に見られていた王都並みの大きな島は玄武様の甲羅であった。玄武様が少し動くだけで海が荒波のように畝っている。
言われて見れば島の形が異様に丸い。それにアメージア様の言葉を思い出す。
『向こうの島みたいなもの』
みたいなもの・・・
今にして思えばアメージア様はあれが島ではないと言うことを最初から教えてくれていたのだ。まさか玄武様は最初から姿を見せてくれていたとは思わなかった。
だけど誰が気付くだろうか。甲羅の上は木々で鬱蒼としており森と化している。
大きい亀と思っていたがここまで大きいとは思いもしなかった。
「わ、私達は朱雀様にこの島に連れて来て頂きました。私達はこの島を開拓してここに住ませて頂きたく玄武様が目覚めるのをお待ちしておりました」
エマは既にエマの近くまで来た玄武様を見上げるようにして説明をした。
「あー、半年ほど寝てたからだいぶ待たせてしまったのかな?ゴメンネ、一度寝るとなかなか目覚めなくてね。ここに済む件だけど別にいいよ。出来れば朱雀が加護している国みたいに発展させてくれたら嬉しいかな。散々、朱雀が自慢してきて悔しいから」
開拓して住む許可は簡単に得られた。あまりにも意表をつくほど簡単に許可を得られてしまった。
だが、玄武様はなかなか帰ろうとしない。それで、それで、と言った感じに話を続けたがっているようであるが話す事は既にない。
ここで『それでは』と転移で戻るのは流石に不敬に感じてしまう。
「あの、昔のお話で竜宮城と言うのがあるのですが、流石に海の中にお城などありませんよね」
やっと絞り出した質問が浦○太郎の話であった。
子供達に苛められていたところを青年に助けられ、助けられたお礼に竜宮城に青年を案内するお話。
子供達に苛められて・・・
玄武様の甲羅を眺めると先ず掘削機等の大規模な土木工事の道具がないと難しいように思えた。
なので浦○太郎の亀と玄武様が同じ訳がない。なんて下らない質問をしてしまったのかと質問した事に後悔をした。
「あーポセイドニアの海洋国のお城がそんな名前だったような・・・昔、人間を連れて言ったことがあるけど行きたいの?」
まさかと自分が信じられない。苦し紛れに質問した浦○太郎の話がもしや現実かもしれない。しかも『はい』と言えば連れていってくれるかもしれない。
だがエマには1つ確認したいことがあった。
「昔のお話に子供達からの苛めに助けられた亀が青年を連れて竜宮城を訪れると言うお話があるのですが、この助けられた亀は玄武様のことです?」
「僕が子供達に!?違う違う、苛められていたのは彼の方で子供らから彼を助けに入ったら彼が意識を失ったのでポセイドニアの竜宮城に連れていって看病して貰ったのだ。暫くして意識を取り戻したのだが戻ったら子供達に再び苛められると言うので50年程竜宮城で面倒を見て貰っていた」
「それでは玉手箱は?青年が竜宮城から離れる時に渡されたとされてますが?箱を開けると中からモクモクとケムリが周囲を包むように立ち上がる」
「あの箱か。ワシも聞いた話で確かではないがあの男は最後に食べた料理が食べきれないからと箱に詰めて後で食べると言うので料理の鮮度を保てるようポセイドニア国で開発した二酸化炭素を凝固した物を一緒に入れていたらしいのだ。別れる際に『決して水の上では開けないで下さい』と忠告されたのにあの男は誤って水の上で開けてしまい凝固した二酸化炭素を水の中に落とし煙が上がったらしいぞ。悲しい事に男は酸素欠乏でその場で亡くなってしまったらしい」
「・・・」
何て言うか・・・
子供達に苛められ、
50年も竜宮城に避難していたのに、
最後はドライアイスで亡くなるとは・・・
此が千年以上も語り継がれてきた浦○太郎の裏側とは・・・
だけど、こんな話がよくも千年以上語り継がれて来たものだとエマは感心してしまった。
「で、どうするのだ?」
「何をですか?」
「ポセイドニアに行きたいのではないのか?」
「行きたいです」
私は皆に相談せず返答してしまった。だけど、今すぐは日程的に難しいため、またの機会にお願いする事にした。取りあえず、許可が得られたので島の開拓の開始が出きることになり安堵した。
そしてエマは浦○太郎の件で忘れてしまっていた。
アメージア様に一週間に一度目覚めると騙されていた事を。




