秘密の共有
エマが王都からの帰りに崖崩れによって新しいスキル『転移』とアメージア様によって訪れる事になった玄武様の島に再度訪れる事にした。
だが、島に訪れる前に『誰と』訪れるかがエマを悩ませていた。
ロイは確定として侍女のリナも一緒に転移して島に訪れていたが意識を失っていたので本人は記憶にないはず。
だけど、エマにとってリナを外して考える事は出来ない。そのためリナは再度島に訪れるメンバーに入っている。
問題はマックウェル・ストロングだ。
マックにはエマは秘密を明かしていない。エマはマックを信用していない訳ではない。だけど、この島は運命を回避する最終手段としてアメリア王家に知られる訳には行かない。せめて、島に移住が出来るまでは秘密にしなければいけない。なので、『~だろう』や『~なはず』等の憶測や油断は絶対に許されないのだ。
「エマ様どうされましたか?」
リナは感がいい。直ぐにエマの異変に気付く。エマはマックに自分の秘密を話して良いか悩んでいる事を話した。
「マック様なら大丈夫ですよ」
リナのマックへの信頼はかなりなものだ。
だが、リナのどこからくるのか解らない自身に悩んでいた事が馬鹿馬鹿しくなりマックに秘密を打ち明ける事にした。必ず何処かで決断をしなければならない時がくる。今回がその1つなのだとエマは覚悟を決めた。
エマは皆に明日冒険に出掛ける旨を告げる。勿論、皆には冒険のメンバーであるマックも含まれている。
「今日の依頼は?」
エマは冒険と称して適当にグレイス領都近くの森に来ていた。マックはエマが既にギルドから依頼を受けていると勘違いをしている。実際には何も依頼を受けていない。ただ、秘密について話が出来る場所を探すのに冒険を隠れ蓑として利用した。ここまで来れば誰にも話を聞かれる心配はないだろう。エマはここでマックに秘密について明かける事にした。
「マック、実は私には秘密があるの。その秘密はリナやロイも関係しているから、この2人も既に知っているわ。だから冒険の仲間であるマックにも秘密を打ち明けようかと思うの。でも、この秘密は誰にも知られてはいけない。王家の者にも貴方の父親にもよ。マック、貴方は誓える?もし無理なようならそれでも構わないわ。でも、此からは秘密を共有した仲間で冒険をする事が多くなるけど、そこは仕方がないと思って欲しいわ」
マックは突然のエマの告白に困惑している。ロイやリナの顔を見ると2人とも真剣な顔をしている事でこの話が冗談ではないことにマックは直ぐに気付き、腕組みしながら目を閉じ考え込む。
マックが考え込んでいる間はそんな長くもなかったが、その間の静寂はエマにとって数十分経ったように長く感じられた。
マックは考えが纏まったのか突然に目を開けるとエマの前に跪く。そして己の剣を鞘ごと大地に突き刺すと鞘から剣を少し抜く。鞘から少し見えた刃を軽く握ると掌が斬れ血が滴り落ちる。
エマはこの行為を知っている。この行為はグレイス領での主君への誓いの儀式であった。
「私、マックウェル・ストロングはエマ・グレイス様を我が主と誓いエマ・グレイス様を生涯お守りする事をここに誓います」
マックは傷ついた手をエマの前に差し出しながら誓いの言葉を述べた。差し出された手から血が滴り落ちる。エマはその差し出された手を両手で軽く握るとエマの手にもマックの血がつく。エマの手にマックの血がついた事で血の誓いが交わされた事となった。
「マック、貴方の覚悟は解ったわ。今この時より私と貴方との血の誓いが交わされたわ。でも、大丈夫?本当に貴方の上官でもある父親に内緒に出来る?命令されたらどうするの?」
マックはリナやロイとは違いグレイス領の騎士だ。上官である父親の命令には逆らえない。
マックはエマの問い掛けに首から下げているグレイス家騎士の証でもある首飾りをエマに見えるようにするとエマも知らないグレイス騎士の秘密を打ち明けられた。
「このグレイス騎士の証でもある首飾りには毒薬が含まれております。此れは我々騎士が敵に囚われた時に秘密を守るため自害するための毒薬となっています。確かに騎士は上官の命令は絶対です。其は領主様や王家の方も含まれております。ですが私の主は誓いをしたエマ様です。私はエマ様の秘密を問われた時はこの薬を飲み主君の秘密をお守り致します」
「解ったわ。貴方の誓いを信用致します。だけど、その毒を飲むような事が起きたら直ぐに私の所に来なさい」
「マックさん、心配する事はありませんよ。エマ様の秘密は領主様も知っておりますから」
「ご免なさいリナ、お父様達が知っているのは私の2つの秘密だけで3つ目の秘密は正確には打ち明けてないの。皆には新しいスキルとエマ商会を利用した逃走計画についてしか話てないわ。本当の3つ目の秘密はロイしか知らないの。リナも経験はしているのだけどその時は気を失っていたからリナもまだ知らないの」
「其はあの崖崩れから助かった事が関係しておりますか?」
「そうよ。お父様には3つ目のスキルによって助かりグレイス領のお邸に辿り着いたと話したけど正確にはちょっと違うの?だって其が確かならグレイス家に伝達が届く前にお邸に辿り着いているはずでしょ?その間、どこにいたのかが私の3つ目の秘密よ」
エマは皆を近くに集めると新しいスキル『転移』にて玄武様の島に移動した。
移動した場所は海岸沿いの砂浜であった。リナとマックは生まれて初めて見る海と一瞬のうちに移動した事で驚きが限界を超えてしまったのか時が止まった状態となってしまった。
エマは2人の時が戻るまで待とうと砂浜に座ろうとするとロイが素早く上着を脱ぎ砂浜に敷いてくれた。エマはロイに感謝の言葉を伝えその上に座る。
エマ達に再び沈黙が訪れた。
波の音、潮の香り、滑らかな砂の手触り、全てがこの静寂を癒してくれるようであった。
止まった時を戻したのはリナであった。
「綺麗・・・」
リナが海を見ながら一言だけ呟いた。マックも「だな」と返事を返していたからマックの時も戻ったようだ。
エマは2人の時が戻った事により秘密を打ち明ける事にした。
「私とリナとロイ、そしてマック貴方も1度死んでいるの。リナは今回崖崩れではなく盗賊に遭遇して私を庇った時に受けた傷で2年後に亡くなるわ。マック貴方は私が学園に通っていた時に発生したグレイス領地での魔物のスタンピードによってストロングス隊長と共に亡くなるわ。私とロイは私が20歳の時に亡くなるの。私は冤罪をかけられ処刑されロイは私を助けようと切り殺されるの。私の兄もお父様も処刑せれグレイス領は滅びるわ。そしてアメリア国自体が滅びる事になるの。其をアメリア国を見守っていたアメージア様が原点である私を助ける為にスキルと共に時を戻してくれたのが今の世界よ。その時に経験した記憶が1つ目の秘密。其と同時にアメージア様によって前世の記憶を甦られて頂いたの。私が色々な料理や魔道具を考えられるのはこの前世の記憶のお陰よ。此が二つ目の秘密。ここまで理解出来たかしら?」
エマはマックに問い掛けるとマックは「何となく」と弱々しい返答をする。それも仕方がない。突然にこんな話をされて理解しろと言うのが無理な話である。唯一の救いは私が次から次へと発明する料理や魔道具、そして変わったスキルが私の話を裏付ける証拠となっていた。マックから頼りない返事であったがエマは構わず話の続けた。
「最後に3つ目の秘密だけど、私は崖崩れの時にアメージア様によって新しいスキル『転移』が発動したわ。アメージア様も瞬時の事だったのでアメージア様の印象が強いこの島に転移してきたの。その時からグレイス領の邸に戻るまでリナは気絶していたから解らないかもね。この島はアメージア様のお仲間である玄武様に加護されている島。そして8歳の頃に見た夢は夢ではなく実際に起きた出来事であることだとアメージア様に教えて頂いたわ。だから私は決めたの。断罪を回避するだけでなくレオナルドに嫁ぐことも。だって私達家族を滅ぼした男の元に嫁ぎたいなんて思わないでしょ?だから私はこの島を開拓して断罪だけでなく王家から回避出来ない時はこの島に移住するつもりよ。此が私の最後の秘密でお父様も誰も知らない計画。お父様には『転移』のスキルとエマ商会で私が住める場所を作るとしか説明はしてないからこの島について知っているのはここにいる4人だけよ」
「ここに住まわれる時は私もご一緒させて頂けますか?」
「お、俺もエマ様に誓いをしましたから生涯お守り致します」
「助かるわ。エマ商会を通して少しずつ人員を増やして開拓をしていくわ。最終目的はここを国にするつもりよ」
「「えっ!国ですか?」」
「その時はあなた達にはこの国の重役として頑張って貰うから宜しくね」
「「えっ!」」
「ロイには伴侶になって欲しいって告白したけど、返事は保留中なの」
「「ええーーーー!」」
ここからエマの新しい世界が始まる島の開拓の始まりであった。
一旦話は終わりましたが「島の開拓」について書きたかったな~と思ってました。
少しずつですが書いて行きたいと思います。
本編とのズレがないように気を付けなくては・・・




