閑話 ①
─ エマ5歳の時 ─
✳リナ・エンブラント
私はエンブラント子爵家の三女として生まれる。エンブラント領の領地は狭く特に特産品もなく北のグレイス領と王都を結ぶ街道の休憩地として成り立っているだけのため貧乏侯爵と言われるグレイス領よりも貧しい領地であった。
私はそこの三女、五番目の子として生を受ける。五番目の子と言う事で私に掛けるお金はなかった。そんな中でグレイス侯爵に長女が生まれ、その長女の専属侍女の話が私に届いた。侯爵様からは給金以外に私を学園に通わせる約束もしてくれると言う事で私は7歳の時にグレイス家に侍女として働くことになった。
初めて会うエマ様。
ドキドキしていた私にエマ様が声を掛けられた。
「私と友達になって頂戴」
この言葉と共にエマ様につれ回される。
騎士の練習場やら市街地やらとエマ様は1つの所に留まる事はしない。常に動いてないと死んでしまうのかもしれない。本で読んだ事がある。エマ様は回遊魚と言う生き物なのかも。
ただ、最初は振り回される私であったが、徐々にエマ様と一緒にいると楽しくて仕方がない。私が2歳年上なので私が間違った事を指摘すると素直に謝って下さる。
そして、指摘したことは二度としないのであった。
今日はエマ様と北の砦に騎士達と向かう事になった。そこで魔物に襲われた者がいたため、騎士達が魔物を討伐したが、助かったのは男の子だけであった。
─ エマ6歳の時 ─
✳ ロイ
俺はカディア王国の生まれだが、俺が住んでいるところはアメリア国のグレイス領にある北の砦と言う街の近くにある樵の集落で貧しいながらも楽しく暮らしていた。
俺が七歳の時に魔物が村を襲い村は壊滅的な被害に遭う。助かった者は片手程で大人二人は砦の街で働く事になり、子供達は砦の街近くにあるグレイス領内の孤児院に行くことになった。
大人達と別れ孤児院に向かう道中、俺達が乗る馬車が魔物に襲われる事になった。村でどうにか助かった友達も今回の魔物に殺されてしまった。
俺達が何かしたのだろうか?
孤児院でも遊ぶ約束をした友の亡骸を見ながら自分の心臓が止まるのを静かに待った。
突如、騎士達が現れ魔物を退治し、また助かってしまった。今度は一人だ。
俺は意識を失うなか一人の女の子が「直ぐに砦の街に連れていくわよ」と言っている声が聞こえたが、俺は目を閉じることにした。
『エマ様!エマ様は何もやっておりません!ちゃんとお調べ下さい!エマ様!』
『邪魔をするその者も同罪だ。切り捨てても構わん!』
俺の体に無数の剣が刺さっていた。
『エマ様!すみません、お助けできず。ですが、一人では寂しいでしょうからあの世でも一緒にお供させて頂きます。リナも首を長くして待っておりますでしょう』
俺は衝撃的な夢にて飛び起きるように目を覚ます。俺が突然に飛び起きた事でびっくりしたように俺を見つめる一人の少女がいた。
「私、エマ・グレイスよ。貴方、数日間も魘されていたのよ。それと助けに行くの遅くなってご免なさい。もう少し早く駆けつける事が出来ればお友達も助けられたのに」
エマ・グレイス・・・エマ様!
そうだ!彼女はエマ様だ!
俺は守れなかった。守ることが出来なかった。
だが、どういう訳か時が戻っている!?
いや、理由などどうでもいい。今度こそ・・・今度こそは・・・エマ様を守る!
─ エマ7歳の時 ─
✳ レオナルド皇太子
「レオナルド様、何かレオナルド様に話があると言う者がおるのですが、どう致しましょうか?」
私に話し掛けて来たのは宰相を務めるラスボス侯爵であった。この者は何かと私に用件を聞いてくる。将来を見据えての行動なのだろうか。
「話とは何のようだか確認はしているのだろうな」
「はい。何やら不正を行っている者がいるらしいのです」
不正!?
このアメリア国内でふざけた真似をするものがいるとは。
「その者を話を聞きたい」
「承知致しました。直ぐに連れて参ります」
ラスボス宰相は一人の従者と二人の侍女を連れてきた。従者が言うには料理番を務める者が盗みや横領をしていると言うものであった。
二人の侍女は従者の指示で部屋を調べていたところ、宝石類が出てきたと証拠品を提出してきた。
これは疑いようもないだろう。
私は直ちに料理番を呼び不正を置かしたとして解雇を言い渡した。
料理番は従者こそは犯人だと正義の告発者に濡れ衣を着せようと悪足掻きをしてきたが、私にはそのような悪足掻きは効果がない。
また、私は正義の告発者にも労いの言葉を欠かせない。
将来の王として当たり前の行動をしたと誇らしく思っていた。
「勇気ある告発として感謝する」
「有り難きお言葉です」
─ エマ8歳の時 ─
✳ エマ夢の中
『エマ・グレイスの処刑を執行する』
「・・・」
「・・・」
あれ?研ぎ澄まされた大きな刃が私の首に目掛けて落ちてきたはず・・・
ここはどこなのかしら?
周りが暗く何も見えない。
突然、明かりが着くと一人の子供が立っていた。
「やー君も偉い目にあったよね。君の魂を探すのに苦労したよ」
「魂ですか?」
「そう。この国を正すためには君が分岐点となっていてね。君の魂が必要だったんだ」
「国を正す?」
「この国はね、君の処刑後に1年ほどで滅びてしまうんだ」
「たった1年ですか?」
「そう。スタンピードと感染病で衰えたこの国はね、君やグレイス家を処刑したことにより唯一生き残った君の母親がカディア王国に嘆願しカディア王国が友好関係を破棄して攻め来んで来たんだ。その侵攻にグレイス領・エリュード領・テキサル領の騎士が加わりアメリア王都は瞬く間に滅びてしまった」
「王家の皆さんは?」
「王家の者達は10日程生きたまま張り付けにされ、その後火に焼かれる事になった。ただ君の元婚約者だったレオナルドだけはもっと早く亡くなっているよ。彼はね妹を殺されたカインに切り殺されるんだ」
「それで私に何をしろと?私はもう何もしたくないわ。このまま死なせて下さい。生きるのはもう辛いのです」
「そうかー、解るよ解る。でもいいの?君の運命を変えることが出来れば君の従者のロイやリナの運命も変えることが出来るよ」
「二人の?」
「そう。先ずはこのまま時を戻しても同じことを繰り返してしまうからこの世界を夢として君の記憶に留めておくよ。それから君の前世はかなり役立つと思うから前世の記憶も留めておくね。此で君が見た事や聞いた事が記憶として保管されいつでも検索出来るようになったから。それと魔法も使えるよう僕のスキルを分けてあげるよ」
「貴方、貴方は誰なの?」
「僕はね朱雀、君達の世界でアメージアと言われている。君はね僕の友だった白虎の生まれ変わりなんだよ。因みにアメージアの爪痕があるでしょ、あれは僕じゃないからね。友達のセイリュウがやった事だから」
「私は何をしたらいいの?」
「アメリア国を救って欲しい。この国はね僕の戦友が興した国だから僕にとって大事な国なんだよね」
「時を戻すってどこまで?」
「君が元婚約者と初めて会う前に戻すことにしよう」
「ありがとう。私、運命を変えて見せるわ」
「ああ、よろしく頼むよ」
強い光が私を包むとあろうことか刃が私の首元に落ちてくる記憶が甦えってしまった。
「いやー!!!」
暫くエマの事を観察していたアメージアは気付いた。
(あれ!?エマ、僕の事忘れてない?)




