4.えっ!神童
(ちょっと、レオナルド。『筆頭』なんて聞いてない!)
「有り難く存じ上げます。ですが、『筆頭』となると他の婚約者候補の方々に申し訳ないないので、同じ婚約者候補にして頂けませんでしょうか?」
「エマ嬢は皇太子の事は好みではないか?」
「いいえ、レオナルド皇太子様をお慕いしております。ですが、あの件は偶然に偶然が重なっただけでございます。それにより『筆頭』となりますと他のご令嬢に申し訳なく・・・」
「そうか。だが息子の気持ちはソナタにあるようだが」
「ちょっと言いかしら?」
「どうしたテラサーユ」
「候補者の中には公爵家のご令嬢もおります。エマご令嬢の申す通り侯爵家ご令嬢に『筆頭』を付けてしまいますとイザコザの元になるかと思われます。ここは、エマご令嬢の言う通り『筆頭』は外された方が良いかと」
「確かに。他の候補者にも配慮が必要であったな。それでは『筆頭』は取り外すとしよう」
「有り難く存じ上げます」
「申し訳御座いません。こちらは受爵致しました感謝の気持ちと致しまして、我が娘エマが開発致しました『シャンプー』と『リンス』で御座います。
領主内では評判でマリアも愛用しております近く商品化する予定となっております。
つきましては商品化する前に是非王妃様にと思い持って参りました」
「マリア夫人が・・・」
「気持ち有り難く頂くとしよう」
父ゼニスは近付く王妃侍女に『シャンプー』と『リンス』そして使用方法の掛かれた紙を渡し謁見を無事終える事になった。
「エマ、『献上品』助かったぞ」
「お母様の話をしたら王妃様が気にしてましたね」
「マリアの美しさは誰にも負けんからな」
惚気か・・・
ただ、確かに母は只でさえ綺麗なのに『シャンプー』『リンス』により更に綺麗になったため皇太子の誕生パーティーでは大人気だった。
そう言えば、王妃もチラチラと気になって見ていたような・・・
領地に戻ると王家より直ぐに婚約者候補について発表された。エマの他のご令嬢とするとテキサル侯爵のラミーユご令嬢とエリュード公爵のリーサオーラご令嬢が選ばれた事が発表された。
※※※※※
領地に戻ったので勉強を開始することとなった。
科目は【言語学】【経営学】【歴史学】【ダンス】【マナー】【魔法学】の6科目で週3の午前2時間、午後2時間で行われる事になった。
夢の中で王妃教育を受けていたエマにとって知識的には全て問題なかった。ただ、【マナー】に関しては前世のガサツな記憶によって頭では解っていても30年近くの生きた記憶の癖が邪魔して再三再四注意を受けてしまった。
そして、もう一つの問題が【魔法学】である。
問題と言っても知識的には優秀で講師も驚いていた。問題なのは才能である。
夢の中のエマも妃教育の一つとして魔法を学んでいた。
人はそれぞれ適正属性があり、その適正属性の魔法の能力が高かったりレベルが上がり安かったりする。エマの適正属性は『闇』であった。
非常に珍しい。夢の中では聖国に悪魔審問された事もあった。
そして、本当の問題が属性Lvである。
属性は『火』『水』『風』『土』『光』『闇』の6つあり、それぞれの属性を極めると上位属性『炎』『竜』『嵐』『地』『輝』『冥』を覚える事ができ、また2つの属性を極めると『氷結(水+風)』『邪念(水+闇)』『聖光(水+光)』『天火(火+光)』『地熱(火+土)』『熱風(火+風)』『砂嵐(風+土)』『重圧(地+闇)』『堕天(光+闇)』などがあり、更にその上位魔法もあるという。
そしてエマはこの6属性のLvが全て0である。レベルがゼロなので覚えられる魔法もなく魔法が使えないのでレベルを上げる事も出来ない。
魔力はあるが全くの無能である。
学園でも皆に馬鹿にされレオナルド皇太子も嫌になった要因の一つだったかと思う。
そして現実でも魔法学の授業が始まろうとしていた。
「それでは先ず最初にエマさんの魔法鑑定を行良いこといましょう。魔法鑑定は解りますか?」
「はい。その人の適正や魔法レベルやスキルや称号などを調べる事が出来ます」
「その通りです。その者の適正が解らないと鍛えていく事は出来ませんし、その人にあった練習をしていかないと危険ですので魔法鑑定は非常に重要となります」
「はい」
「それでは魔法鑑定を行っていきましょう。こちらの水晶に手を乗せて下さい」
※※※※※
【講師目線】
私はゼニス公爵よりご令嬢の魔法学の講師の依頼を受ける。
先ずは魔法鑑定をする事にした。
適正属性・・・『闇』。
これは珍しい。珍しいと共に可哀想に。この子の将来が心配になってしまう。
属性レベルは・・・
えっ!?
レベル・・・0!?
しかも全属性!?
闇魔法まで0ではいくら適正があってもレベルを上げて行く事は不可能だろう。
なんて、なんて不幸な子なのだ。
私も貴族であるため皇太子パーティーでの噂を聞いている。魔法の状態がこれでは貴族令息との婚姻はかなり難しいのではないだろうか。
この子が婚約者候補として本当にやっていけるのか?
あれ?
何とスキル持ちだ。スキルとは神のギフトみたいなものだ。この子にも救いがあった。
称号・・・『アメージアの祝福』!!
何なんだこの子は・・・不幸なのか幸運なのか解らない。
授業を終えたら侯爵に報告しないと。
※※※※※
【エマ視点】
魔法鑑定の結果の報告を受ける。もう講師の顔でだいたい解ってしまっているのだけど・・・
(やっぱり魔法レベルがゼロですか。夢の中と同じね。)
最初の説明で夢の中と同じであったエマは特に驚かなかったが最後まで説明を聞くと夢と違う事に戸惑ってしまった。
(えっ!スキルなんて持っていたかしら?称号『アメージアの祝福』!?どうなっているの?)
エマ同様、講師も動揺していたがスキルを確認するため色々試して見たところ〖浮遊〗は物を浮かして動かす事が出来るようで、今は小さいものしか浮かせられないがレベルが上がれば大きいものも浮かせられるかもしれないと教えられた。
〖収納〗については文字の通り物を収納する事が出来るようでレベルが上がれば収納出来る量が増えるのではないかと教えて頂いた。
最後に〖浮遊〗〖収納〗のレベルを上げる為の練習方法を教えて頂き授業を終えた。
※※※※※
「娘はどうであった?」
「エマ・グレイスご令嬢で間違いありません。状態も特に変わったところがありまさんでした」
「そうか・・・」
「ただ、ご令嬢の適正は『闇』でございました」
「!!」
「また、全属性のレベルがゼロのため属性魔法を使う事は出来ないかと思います」
「な、何!?」
「ただご令嬢はギフト(スキル)を2つ持っておりましたのでスキル魔法を伸ばして行きたいと思います」
「ギフトが2つも!?」
「最後にご令嬢ですが『アメージアの祝福』という称号を持っておりますが心当たりありますでしょうか?」
「あ、アメージアの称号!!」
「私もこれ程ブレの激しい鑑定結果は初めてで御座います」
「エマ・・・」
※※※※※
授業の後はどうしても疲れてしまう。特に今日の魔法学は精神的にも疲れ少しストレス発散をしたくなった。
「エマ様?そっちは調理室ですよ」
「ちょっと、軽いものが食べたくてね」
「それでしたら何かお部屋にお持ち致しますよ」
「いいの、いいの。勉強で溜まったストレス発散でもあるから」
調理室に入ると皆が戸惑っている。今までグレイス領主一家が調理室に来ることはなかったからだ。
皆が慌てているなかで、エマは何かないかと右往左往していたところ『じゃがいも』らしい野菜を見つけた。
じゃがいもを数個手に取るとじゃがいもを棒状に切り油で揚げようとすると流石に料理人に止められ、揚げる作業は料理人が変わりに行った。それに塩をふって『ポテトフライ』が出来上がった。
「エマ様、それは何ですか?」
「ポテトフライよ。皆も食べるでしょ?」
この世界の料理の殆どが『焼く』『炒める』『煮る』であり『揚げる』という文化がない。料理人も揚げる時に出る音に爆発するのかと驚いていたほどだ。
その未知なる調理方法の未知なる料理に皆が目配せしながら一歩踏み出せないでいた。
それはそうだ。皆からしたら子供が遊び半分に作った料理だし、使った野菜が下処理を間違えると『毒』となるとされている野菜だ。
でも、目の前でエマが美味しそうに食べている姿をみてリナが我慢できず食べた。
サクッとした食感や丁度よい塩味、今まで食べた事がない美味しさに驚きながらリナの手は止まらなく、その姿に他の使用人達も食べ始め、あっというまに終わってしまった。
「あ~美味しかったわ。みんな、ありがとね」
「いえ、是非また来てください」
「ありがとう。今度は何がいいかしら?」
「「「まだ他にもあるのですか?」」」
皆の顔がエマに近づき、エマはちょっと引いてしまった。
「そ、そうね。次は何か甘いものがいいかしら?」
「「「はい!!」」」
こうしてエマと使用人達は受講のあとの秘密の時間を共有する事となった。
【エマ・グレイス】
8歳 女性 Lv2
職業 〖貴族〗 適応魔法 闇
体力 30
魔力 30
力 8
守 3
速 3
知 20
火 Lv0
水 Lv0
風 Lv0
土 Lv0
光 Lv0
闇 Lv0
剣 Lv1
槍 Lv1
斧 Lv1
弓 Lv1
鞭 Lv1
拳 Lv10
スキル 〖浮遊 Lv1〗〖収納 Lv1〗
称号 〖アメージアの祝福〗〖皇太子の婚約者候補〗