36.えっ!伝染病?
ー ドメイル領東部にある小さき名もない村 ー
「ゴホッ!ゴホッ!」
「なんだ、おんめー風邪かー。情けんねんなー」
森で狩りを行って生活をしている男が体調を崩した。子供の頃に風邪を一度だけひいた事があるだけで体が丈夫なことが自慢の男が体調を崩したから他の村の仲間が珍しいと男を小馬鹿にして笑っていた。
只の熱だろう・・・皆が思っていた。
だが、熱は下がらず翌日には奥さんや狩り仲間が同じように発熱した。
この時点ではまだ気付かない。
だが、その翌日に更に倒れる者が現れ此が異常であることが誰でも気付く事となった。
「村長、やんばくねーかー?」
「息子よ、隣ん村んに馬がおんから借りんて街ば行って知らせんてこい」
ー ドメイル領主館 ー
今、領主が執務室で執務を行っていると執事が慌ててドアをノックして来た。
「どうした?そんなに慌てて」
「大変でございます。今、バリの町長より『警戒レベル3』の可能性ありと連絡が入りました」
「『警戒レベル3』だと!」
『警戒レベル3』とは感染病の危険性ありという意味である。
「はい。病名は解りませんが東の最奥の村が感染源らしいです」
「バリの町の被害は?」
「バリの町の門番が感染者らしい人物に気付き、東の門を封鎖し門番と共に詰所で隔離状態となっておりますが、その前に東の門から何名か街に入った者がいるらしくバリの街全体を封鎖しております」
「解った。直ぐに医師を派遣し病名を調べさせよ。それと、以前ドメイル領のご令嬢から頂いた医療箱に様々な薬が入っていたはずだから其を持たせるといい。また、バリの街には発祥した物を隔離するよう伝えるように」
「はい」
ドメイル領主は執事に指示を出すと伝書鳥にて王都に連絡をした。
ー バリの町 ー
バリの街に医師が到着する。
街は封鎖されておりドメイル領主の書状を見せ中に入れて貰う事が出来た。
門番が気付き直ぐに門が閉じられたと聞いていたが、バリの街への侵入を防ぐ事が出来なかった。
所々で隔離されていると者がいると言う。
医師は最初の被害者である東門の詰所を訪ねたが詰所の中は既に皆が感染し倒れ込んでいた。
病名が解らないと治療のしようがない。医師は病名を探るため東から来たとされる村人を調べると身体中が黄変化してきていた。
「こ、これは『黄熱病』では?」
【黄熱病】
感染源は森に住む猿や栗鼠などの動物から感染するとされている。初期症状は咳が激しく出て直ぐに40℃近くまで発熱する。発熱は下がることなく徐々に皮膚が黄色化し7日ほどで死ぬ事で『七日呪い』とも言われている。
初期症状の咳の時点で既に肺が侵されているため発病初期より空気感染し感染力は非常に高く危険な感染病であった。
「先生!領主様から頂いた医療箱に黄熱病の薬があります」
「何と!」
医療箱は魔道具〔収納〕機能が施されており、黄熱病の薬は100人分ほど用意されていた。
医師は黄熱病の薬を吸引させる。このウイルスは肺で媒介するため吸引が一番効果が高いからだ。
「取りあえず、1日1回吸引させよう。それと我々も吸引するように」
だが問題はバリの町中まで侵入し感染した患者の治療だ。現在の発病者分の薬はどうにかあるが、既に感染している者がいてもおかしくない。そうなると薬が足りないと悩んでいると、バリの街を封鎖していた衛兵が医師を呼びに来た。
「エマ商会より領主様にお渡しした薬セットを100セット分持ってきたそうです。品物は街の前に置いてありますので確認をお願い致します」
100セット!?
此なら十分に間に合うかもしれない。
エマ商会・・・
エマ伯爵様か・・・
ー 王都 ー
学園は暇であった。
夢の中の王妃教育を行っていた事で夢の中でもAクラスにいたエマは現実でも婚約者候補として勉強してきたこともあり、全ての授業がお復習となっており新鮮味がないため授業が退屈で仕方がない。
学園の生活も平和である。
夢の中のと違ってロイ以外にも友達がいる。
ソフィアさんとレオナルドは変わらず仲良く話込んでいるが其に関わらないでいる。其にエマ商会の人達が監視しているため夢の中と違いソフィアさんが苛められたり私に冤罪が掛かる心配もしないで過ごせる。
退屈で平和な学園生活の一年が過ぎようとしている。
この平和な一時が終わろうとしている事を知らずに。
廊下から平和が崩れる音がしてきた。
それは夢の中と同じ時期であった。
「皆さん、緊急レベル3が発令されました。これにより発令が解除されるまで学園は休校とし皆さんは自宅又は寮に待機となります」
全クラスが「えっ!伝染病」と騒ぎ出す。過去に緊急レベル3が発令したことなどなかったからである。
「それとエマ・グレイスさん、ゼニス侯爵より直ぐに領地に戻られるよう連絡がありました」
エマがいるグレイス領は薬草の産地である。
それと、素早く移動できて多く収納出来るエマは必要とされた。
「エマ!君の領地は薬草の栽培が盛んだったね。伝染病は魔法では直せない。グレイス領の薬草が必要だ。私も王城の保管庫を調べて見よう」
魔法には毒を治すモノや病気を治すモノはあるが風邪や伝染病のようにウイルスによる状態異常を治す魔法はない。
「解りました」
エマはレオナルドの言葉に返事をすると窓を開け浮遊魔法で外に出る。そしてグレイス領へ全力で移動した。
本来ならロイやリナにも一緒に着いてきて欲しいところであったが浮遊させる重量が少ないほどスピードが早くなるため一人でグレイス領に向かう事にした。
「エマ、丁度良かった。ドメイル伯爵よりエマが渡した薬の中で効果があったそうだ」
「黄熱病ですか?」
「ああ。エマの夢の通りとなった。既に我が領内と近隣の領地の薬を各地に向けて配布する手筈が整っている。エマには残りの薬を王都まで運んで欲しい」
エマは用意されていた黄熱病の薬だけが入った医療箱と同じ部屋に用意されていた魔道具も全て収納した。
また、事前に連絡していた事でマックウェルの準備も間に合っていた。
「マック、王都に向かうわよ」
ー 王城内 ー
「黄熱病だと!」
黄熱病には特効薬がある。
其を定期的に投与すれば治るのだが、その薬草が珍しくどれだけ用意出来るか解らない。感染力を考えると最悪なウイルスであった。
「ドメイルの状況は?」
「バリの町内でも症状が見られ始めましたが以前グレイス侯爵のご令嬢より頂いた医療箱に薬が入っておりました。また、ドメイル領に出店されているエマ商会より同じ医療箱が届き今のところ最低限に抑えております」
「また、エマ・グレイスか・・・」
王城内にも黄熱病の薬が約1万人分保管されているが王都民は50万人はいるため全く足りない状態であった。
感染病の対策に右往左往していると衛兵が「エマ・グレイ。ス令嬢が薬についてお話がしたいので謁見したいとの事です」と伝えられたため早急に謁見をする事となった。
「エマ・グレイス嬢よ。まず最初にソナタのお陰で多くの民が助かった。礼を言う。其で薬についてとのことだが黄熱病の事か?」
「はい。父ゼニスより薬を預かってまいりました。私が預かっているのが500万人分です。また、此とは別にグレイス領周辺の領地には我が領より薬を届ける予定です」
「500万人分もか?」
アメリア国内の人口は約500万人だ。
そこからグレイス領周辺が配られているとすると十分な量であった。
「おお、真か?早速、各領地に配るとしよう。グレイス侯爵及びそのご令嬢には良い働きをして貰った。感謝するぞ」
「有り難きお言葉です。実は一つお願いが有りまして・・・」
ー 不可侵領域の森 ー
「ハーミーさんどうですか?」
「向こうに動物や魔物の死骸が多いわね」
今、エマ達『グレイスの女神』とハーミー含む『天帝』及びドメイルの騎士で不可侵領域の森を散策している。
今から数刻前・・・
「不可侵領域の森への侵入許可だと?」
「はい。病原体の原因は不可侵領域の森の中かと思われます。今、薬で抑えても領域内を調べないと意味がありません」
「しかし・・・」
「もし難しいようでしたら私達を切り捨てて頂いても構いません」
エマの言葉に謁見の間にいた者達が驚きを隠せないでいる。切り捨てるという事は国外追放になるのと同じで婚約者候補の話は勿論解消となってしまう。
「エマ・グレイスよ。お主はレオナルドの婚約者候補だ。お主が行かなくても良いのではないのか?」
「私には浮遊と収納のスキルがございます。病原体を発見した後は浮遊にてこの燻煙式薬剤を巻かなくては行けません。早く抑えないと被害が広がってしまいます。どうか許可を!」
「解った。しかし、そなただけ責任を負わせる訳にはいかぬ。もしもの時はわしの王位もかけるとしよう」
「王様!!」
「だまれ!まだ学生の娘がこの国の未来を憂いでいるのに、その国の王が何もしないなど恥しかあらぬは。エマに王命の書状を持たせよ。ドメイルの騎士達も調査に参加させよう。エマよ、書状を持って直ぐに向かって貰えるか?」
「はい!」
そして、不可侵の森にいるわけだが、なかなか病原体が見つからない。ドメイルの東から発病したからにはこの付近だと思われるのだけど・・・
「ちょっと待って!あれは何かしら?」
ハーミーが指差す方向を見ると樹に縛られた人の死体があった。殆どが動物により食害されていたが、1部残っている部分に何か刺青がしてあった。
「嘘でしょ。此は奴隷の紋様よ。聖国のね」
聖国が犯人なのか?
どうやってここまで来たのか?
謎ではあるがこの人が病原体であることは間違いなさそうだった。
病原体が見付かれば後は簡単であった。
感染した動物と一緒に処分しエマの浮遊魔法で病原体を中心にした広範囲に燻煙剤を散布した。
また、不可侵の聖域を囲むように魔道具〔カーテン〕を設置した。この設置には冒険者達やドワーフやエルフの協力により早く設置する事が出来た。
尚、魔道具〔カーテン〕は魔道具〔ハウス〕の応用したもので〔防虫〕〔魔物避け〕の効果があった。
これにより黄熱病の被害は終息していった。
夢の中の被害と比較すると大幅に被害は減少したが、発病した村とその隣の村の住民は助けることは出来なかった。
【エマ・グレイス】
15歳 女性 Lv135
職業 〖伯爵〗 適応魔法 闇
体力 725 魔力 575
力 350 守 140 速 170 知 575
火 Lv0 水 Lv0 風 Lv0 土 Lv0 光 Lv0 闇 Lv0
剣 Lv7 槍 Lv1 斧 Lv1 弓Lv10 鞭 Lv1 拳Lv10 弓豪Lv10 拳豪Lv10 拳神Lv9
スキル 〖浮遊 Lv30〗〖収納 Lv30〗〖空間移動Lv10〗
称号 〖アメージアの祝福〗〖皇太子の婚約者候補〗
〖エマ商会の会長〗〖遠島の開拓者Lv8〗
魔法ギルド プラチナランク
商業ギルド AAAランク
冒険者ギルド AAランク
エマ商会 105店舗




