14.えっ!どうしてここに!?
私が夢の中で見た大きな事件。私の人生の大きな分岐点となった事件。
夢の中で私が10歳の時であった。王家とのお茶会からの帰りに土砂降りの雨に会いグレイス領手前の峠で馬車が泥濘にはまり立ち往生していたところ盗賊に襲われてしまった。
盗賊を撃退する事は出来たがエマを庇いリナが怪我をしてしまった。
刃に毒が塗られていたのか、リナの様態は日に日に悪くなり2年後に永遠の眠りについてしまった
(リナを守らなくては)
リナには今回は無理せず着いてこなくても大丈夫とそれとなく伝えてたつもりなのだが、「エマ様は私の事がお嫌いになられたのですね」と泣かれてしまい、連れていかない作戦は断念。
そして別案として考えたのがマーダック領に泊まる事だった。
マーダック領に泊まれば危険な箇所は昼間通る事になり、昼間盗賊が出ることはあまりない。
もし、盗賊が出たとしても撃退出来るように冒険で魔法『ギロチン』を鍛えに鍛え今では浮遊・収納共にレベル10と上限に達していた。
ー次の日ー
雨も上がり良い天気となっていた。夢の中でも盗賊に襲われた次の日も良い天気になっていた。
マーダック伯爵家を朝出発し峠に差し掛かる。ロイが周辺に魔物や不信人物がいないか魔法で探索してくれている。
大丈夫。
自分に言い聞かせているが例の場所に近付くに連れ緊張が増しつつある。
「エ、エマ様。痛いです」
夢の中のポイントに近付くにつれエマはリナの腕を強く抱き締めていた。
「ご、ごめんなさい」
「大丈夫ですよエマ様、ゼニス様にその辺に盗賊が頻繁に現れ危険であるから警護の範囲を広げて頂けるようをお願いしてありますから心配いりませんよ」
「そ、そうありがと」
(盗賊の心配は大丈夫そうね。あれ?私、盗賊の話、ロイにしたかしら)
“ガゴッ!!”
“ガラガラガラ”
例の地点も過ぎ少し安心していたところ、昨日の雨で地盤が緩んでいたのか大量の土砂が崩れ落ちてきて馬車ごと崖下に落とされた。
「キャー!!」
(そんな、夢には勝てないの?)
「リナ!!行かないで!」
『浮遊』・・・駄目だ。土砂が重すぎる。
『収納』・・・駄目。土砂を収納している間に崖下に落ちてしまう。
同時に使わないと!!
───────────────
「隊長!エマ様と護衛数名が崖下に!!」
「近場の詰所に即連絡を!お前はゼニス様に至急連絡をしろ!他の者は私に着いてこい!」
崖の高さは100mある。
護衛隊長は急いで崖下に行こうにも回り込んで行くしかなく崖下に着くには数時間経ってしまった。
馬車は土砂に潰れて全く見えない状態だ。生存している可能性はかなり低い。
「馬車から放り出されて周辺の樹がクッションになっているかもしれない。半分は周辺の探索を!残りは土砂を退かすぞ」
どれくらい時間が経ったろうか。
途中、早馬で応援を呼びに言った者が総勢で駆け付けてくれた。王家妃候補の事故だ。国として一大事と思ってくれたのだろう。明け方には馬車が見えるようになってきた。
馬車の中は空であった。
やはり落下中に放り出されたのか?
だとすると、周辺の探索、もしくは放り出されて土砂にのまれたのか・・・
一緒に落下した護衛の騎士や行者の死体は見つける事が出来たがエマ様が見つからない。
いや、エマ様だけでなく一緒に乗車していた従者と侍女も見つからなかった。
昼に差し掛かる頃に1羽の機械仕掛けの鳥が飛んできた。
『エマ様は無事にグレイス領主館到着。現場の検証が終わり次第戻られよ。尚、これはエマ様が発明した魔道具〔伝書鳥〕なり。使用方法は足に結んだ紙にあるので返信求む』
「どう言うことですか隊長?」
「解らん。ただ無事であることは喜ばしい事だ。直ちに使用方法を読みゼニス様に返信を!」
「はっ!」
本当に解らない。
早馬が領主館に着いた頃ぐらいだろう。人の足でこんなに早く着けるはずがない。
エマ様は魔法で空を飛べるらしいから飛んで領主館に向かったのだろうか?
いや、そもそも我々を無視して領主館に向かうだろうか?
─ グレイス領主館 ─
ドン!ドン!ドン!
強くドアを叩く音がして執事のチャンが警戒すると「至急伝令、至急伝令」と叫ばれているので慌ててドアを開ける。
「どうなさいました?」
「マーダックとエンブラント境の峠にて崖崩れが発生!エマ様が乗る馬車と護衛騎士数名が土砂にのまれ崖下に!」
「真か?エマは無事なのか?」
「解りません。ただ・・・崖は100m程あり・・・馬車も完全に・・・土砂に埋もれており・・・」
グレイス家に静寂が生まれる。
マリア侯爵夫人は意識を失い侍女達に支えられていた。
「父上、私が騎士を連れ現場に向かいます。」
「いや、私も行こう!騎士舎に直ぐ連絡せよ!」
ゼニスとエニス及び数十名の騎士の準備が終え、玄関を出たところ、目の前にエマ達の姿があった。
皆は幻覚を見ているのかと思えた。
だが、それが現実だと理解する。
どうやって?
いや、それよりも怪我は?
何があったか解らないがエニスは執事に慌てて指示を出し直すと三人の元に駆け寄る。三人とも擦り傷があるものの大きい怪我はなさそうだ。念のため医師に見て貰ったが特に異常はなかった。
現場の者達に伝令を出そうとしたところエマより魔道具を渡されたので魔道具を使うことにした。
ー 数日後 ー
救援に来てくれたエンブラント子爵の騎士に謝礼を行い、命を落とした護衛騎士と御者の葬式にエマは「助けられなくて御免なさい」と繰り返し謝まることしか出来なかった。
エマは覚悟を決める。家族に秘密の話をしよう。
「話の前にエマ、体は本当に大丈夫なんだね」
「はい。問題ありません」
「そうか。それで話したい事とは?」
エマは高熱で魘されていた時に夢を見ており、夢の中での出来事や夢の中では20歳までしか生きられず家族皆も処刑されてしまうこと。マーダック領に泊まらず走っていたら盗賊にあい、その時の怪我が元で二年後にリナが亡くなる話を行い、その夢の中の出来事が現実でもおきているが少しずつ変わっている事、また処刑されたショックで前世の記憶が甦った事などを話した。
最後に三つ目の秘密を話すと皆は驚き暫く沈黙が続いた。
「エマの発明は前世の記憶が元だったんだね」
「はい。前世の世界では魔法はありませんでしたが、その分生活を豊かにするために色々なものが開発されていました」
「なるほど、ならば10年後にエマが死なないために動かないとな」
「そうね。婚約者候補の件どうしましょうか?」
「あ、あの。信じて頂けるのですか?」
「だってエマちゃん、高熱前と後では朗かに違うもの。何もないよりエマちゃんの話の方がしっくり来るわ」
「そうだね。『農地改革』の話をされた時は豊穣の神が乗り移ったのかと思ったよ」
「そんな」
「それから、ロイからの忠告で父上から警護範囲を拡げていたところ、豪雨の日にあの峠で盗賊を捕まえていたんだ」
「本当ですか?」
「これでエマの夢は現実に起きるが変える事が出来るという事が解ったな」
「そうですね」
「エマちゃん、まだ悩んでいる事があるんじゃないの?」
「解りますか?」
「エマは解りやすいからね」
「実はこの秘密をレオナルド皇太子にした方が良いかどうか悩んでいます」
「う~ん、確かに秘密を話した方がエマが死ぬ危険性が低くなるかもしれないが、流石に「皇太子が浮気する」や「皇太子に冤罪をかけられ殺される」などを話して『侮辱罪』に問われてしまうかもしれないな」
「でも、この程度なら侮辱罪でも死刑になることはならないんじゃないかしら。アレもエマちゃんの事好きみたいだし」
「お母様・・・アレって」
「夢の中でも、エマちゃんを不幸にしたのだからアレでいいのよ」
「・・・」
「ま、まぁ。婚約者候補から外れ侯爵から降格くらいでしょうか?」
「そんな降格だなんて」
「構わん。娘を犠牲にしてまで守るものでもない」
「あなた・・・」
「マリア・・・」
父ゼニスと母マリアが見つめ合う。
「父上、母上、話を進めましょう」
「す、すまん」
「とりあえずエマ、話す内容は少し緩めに包み込むようにしよう」
「オブラートにですね」
「オブラート?」
「あ、前世のものでした」
「そうか。それと3つ目の秘密については内緒にしておこう」
「そうですね。夢の中の話を回避するためにも3つ目の秘密は重要となりますので言わない方がいいですね」
「リナ、どうかしたの?顔色が悪いわよ」
「す、すみません。私、二年後に死ぬのですね」
「死なせないわ!」
「あ、ありがとうございますエマ様」
「エマの言う通りだ。盗賊も捕まったのだから怪我で倒れる事もないだろう。実際に暴漢の件ではエマは怪我をせず相手を倒すなど未来が変わっている。リナが亡くなる未来も変わったはずだ。気にすることはない」
「は、はい。すみません」
「エマ、次にレオナルド皇太子に会うのはいつ頃だい」
「まだ予定はありません」
「今回の件で早急に来るかもしれんな。レオナルド皇太子の事だから先触れを出すかと思うが、事が事だから早急にでも来る可能性があるな」
「はい」
皇太子から手紙がゼニス宛に届いた。やはりエマの見舞いに顔を出すという内容であった。
【エマ・グレイス】
10歳 女性 Lv32
職業 〖貴族〗 適応魔法 闇
体力 155 魔力 180
力 80 守 38 速 45 知 165
火 Lv0 水 Lv0 風 Lv0 土 Lv0 光 Lv0 闇 Lv0
剣 Lv4 槍 Lv1 斧 Lv1 弓 Lv6 鞭 Lv1 拳Lv10 拳豪 Lv3
スキル 〖浮遊 Lv10〗〖収納 Lv10〗〖空間移動Lv1〗
称号 〖アメージアの祝福〗〖皇太子の婚約者候補〗
〖エマ商会の会長〗
魔法ギルド シルバーランク
商業ギルド Cランク
冒険者ギルド Dランク
エマ商会 9店舗