(二)再会
(二)再会
さらに三十年が過ぎた。太郎が消えてちょうど五十年目を迎える年だった。
浜辺を歩いていた梅の視線が釘付けになった。
若い男がいる。
五十年間、一日も忘れたことがなかった。忘れようにも忘れられなかった。
「夢ではないのか。幻ではないのか。いや、幽霊か」
目の前の若い男は幻でも亡霊でもなかった。太郎だった。
「あんたぁ。あんたぁ。会いたかった。生きていたんだね」
梅は駆け寄って、太郎にすがりついた。この日を待っていた。ずっと待っていた。五十年の時を経て、思いがけず再会できた。奇跡としか言いようのない僥倖に、滂沱の涙があふれ出た。
だが、太郎の目には、見知らぬ老婆としか映らない。太郎の記憶にある梅は、うら若い可憐な新妻であり、皺だらけの白髪婆とは似ても似つかなかった。
突然現れた見知らぬ婆を、太郎は狂人だと思った。そうとしか思えなかった。困惑と恐怖と憎悪をもって白髪婆を突き飛ばすと、後ろも見ずに走り去った。逃げるしかなかった。玉手箱を置き捨てて一目散に走り去った。
梅はもんどりうって倒れこみ、浜辺の小石で顔面を痛打して唇から血を流した。
「あんたぁ。あんたぁ。やっと会えたのに、やっと会えたのに」
涙にくれる梅の目に、太郎が走り去っていく後ろ姿が霞んで見えた。




