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主よ、人の望みの喜びよ

作者: 苺大福

絶望の果てにまた明るい未来があるのです。

主よ、人の望みの喜びよ


 

 とある中学2年生の男の子のお話。

 

 少年は父に連れられて総合病院に向かった。

 少年の母親は具合を悪くして入院している、

その日は検査の日だった。父の様子が何かおかしい

事にその時は気がつかなかった。


 医師から病気の説明を受けたのは父ひとり

少年は母親と共に病室にいた。

病院の帰り道、珍しくご飯でも食べて帰ろうと

父は言った。そして小さな中華料理屋に入って

いった。テーブルに座って父が小声で言う。


 「なあ母さんが、もしも死んだらどうする?」


 父が悲しそうな顔をして聞いてくる。


 「なんで?ただの胃潰瘍でしょ?」


 少年は驚き聞き返す・・・


 「そうだけどさ。ただ聞いてみただけさ」


 その後少年の母は入退院を何度も繰り返した。

日に日にやせ細っていった母を見ても少年

はただの胃潰瘍だと思っていた。

 思春期で反抗期の難しい年頃であった。


 しばらくして母はまた入院してしまう。

すでにミイラのようにやせ細り・・・


 もう人のようではない・・・


 何も食べる事も出来ず毎日うわごとのように

「メロンが食べたい」


 とそれだけを言う。母が正気も失いかけた頃。

少年はようやく 死 を意識した。


 気がつくのがあまりにも遅すぎた。


母はもうほとんど意識がなかった。トイレもいけず

排泄はベッドの中でチューブで行う。

 それがどれだけ絶望的な光景であったであろうか・・

 

 母は危篤状態に入った。

 そして次の日の夜少年は夢を見た。


少年はある小さな家の前で足をとめた。

家の中にはなんと母が元気な姿でピアノを

弾いてるではないか!驚いた少年は母親のもとに

寄ろうとした!すると白髪の老婆が少年の前に

立ちはばかる。

 

 「今はそっとしておいてあげて」


老婆は言った。少年は叫んだが母には聞こえていない


 3日後母は胃癌で亡くなった。

50歳の若さだった。

 最後に父が言う。


 「昨日の朝に5分くらいだけ意識が戻ったんだ。

その時にピアノを弾いてる夢を見たと母さん言ってた


 主よ、人の望みの喜びよ

 母さんが好きなJ.Sバッハの曲なんだけどね。

子供の時から貧乏な母さんはピアノを弾くのが

夢だったんだ。最後に夢が叶ったんだよ。」


 少年は泣き崩れた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 200文字の作品から巡り巡って、こちらの作品を拝読させていただきました、初めまして。 最後、かなりグッと来ました。 悲しいですね。でも、ほんの少しだけ、救いがありました。 夢の中で、ピア…
2010/03/22 22:12 退会済み
管理
[良い点] 美しい、です。苺大福さんって多芸ですね。羨ましいです・・・。悲しさの中でも心温まるストーリー、とても美しいです。 [気になる点] 父のセリフ「母さんがもしも死んだら・・・」は、やや直接的な…
[一言] 胸にぐっときます。母さんの望みがどんな形であれ、叶ったことに小さな喜びを感じます。 いい作品ですねえ。心が洗われるようです。
2010/03/18 22:26 退会済み
管理
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