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影法師の夕暮れ

作者: なと


夕暮れの体温が暖かい秋の暮れ

午後五時になると同報無線のスピーカーから

夕焼け小焼けが心臓の戸を叩きます

さあ冬が来ます詩人は静まった街の中

物憂げに頭を垂れて

万華鏡のような懐かしい詩を錬金術の様に

今宵も月が見ております

あの缶ジュースの中に宇宙が入ってゐたら

銀河系をも缶蹴りします

懐かしい人影を夕暮れに見る

お地蔵様に誰かが彼岸花を供えたんだ

其れを見たら心臓がどくどくと脈打った

赤に呪われた世代は友達と殺人計画を練った

只、泣きながら一緒に隣町で迷子になった友達

凡ては幻みたいに過ぎてゆく

不意に神社から笛の音がした、祭りの旋律

寂しい子は寄っといでと神様が






静かに階段を下りていたら夏を踏んだ

運命的な出会いだった

旅人と焚き木を囲んで夢を語り明かした

夏の奇跡について秘密について

夕立、入道雲、陽炎

歩いていたら影法師がついてくる

回文怪人が壊れたブラウン管の中で笑ってゐる

夕暮れは魔物のお友達だね

そう言って笑うあの子も

足が透けていた






雨が降る、秋の悲しい雨

切なさの雨の中で人は影となり透明になる

記憶の欠片はいつまでも待っていてくれる

遠い記憶、微かな想い出

過ぎ行く町の中で遠い過去にめぐり逢い

旅人はどうしているだろう

車のテールランプがにじみぼかしてゆく夕闇の彼方

嘘も罰も罪も、お湯に溶けてゆく

嗚呼、旅に出たい







陽炎立つ道の上の透明の影

懐かしい面影に太陽は微笑んでいる

立て看板の中の人に挨拶をする

まるで古いキネマのやうに

風の便りはクヌギの実と翡翠の欠片

想い出はいつも微笑みかけてくれる

あなたの横顔も空に消えて行く

空っぽの伽藍堂に壊れかけの仏様の鈍色

仏間の黒い影がそっとこうべを撫でる







静寂の宿場町

誰かがシャボン玉を飛ばす

隣の家で誰かが寝ている

空は抜けるように蒼くて

猫以外だれも存在しないかのような世

古きは古きを尊ぶ

眠り子の古巣を夕焼けの火だけが焚き上げる

ゆめまぼろしが静寂のまま亡くなっている

古い本で描かれたやうに

古い柱がぬくもりを翳にして

ゆめばかり






揺り籠は永遠に眠る

静寂の旅は過去と未来を去来する

ただ光だけが水面を反射して

ぬばたまの翳が病気のように醒めきっている

懐かしきは幽玄かな

ただ風を捕らえて生きていこう

夢は雲間の向こうにあるのだから

朝と夜の境目に永遠の刻が眠る

旅人は夢を旅する

いつまでも子供のやうに

其れが愛おしい






路地裏が好きだ

街の路地、田舎の路地

小さな猫の小道

懐かしい面影を探して

季節を追いかけても

何もないかも知れない

何も残せないかも知れない

ただ自分の過去と向き合う

孤独に浸って永遠に前世の夢を見る

まるで彼岸の向こう側のやうな

懐かしき終わらぬウロボロス

不思議な気持ちのメビウスの輪







懐かしい風景は押入れのような心地

ビー玉の転がった横道

魚の泳ぐ水路

謎めいた置物の置いてある塀

凡てが陽炎にのまれてゆき

鴉の帰る時刻になると

慌ただしく人々が通過してゆく

ひとりぼっちで父親を待ち

ひとりぼっちで母親を待つ

菜の花を持った小鬼は

如何に自分が特別になろうかと

儚い願い







此の世の抜け道を探して

古き町並みを闊歩する

夏を秋を季節を練り歩く

遠くは近い近いは遠い

過ぎ去った季節を想う

また来た季節を祝う

懐かしい面影に出会いたくて

みなお墓の下で、また風になって

そうしてまた逢いに来てくれたら

あの懐かしい小道を歩いて

永遠に巡る子供のたましゐを

持つ者より









寂しさで出来ている躰をそっと街角に置いてみる

ことりと鉛筆を床に落としたような音が

凡てを捨てればいい

其処に置かれてからずっと独りだったお地蔵様は言う

子どもは大好きだけどねと木食様は言う

おかずの中に紛れ込んだ仏様は

捨てられないから涅槃に辿り着けないのだ人はと言う

諸行無常の祭り







黄泉路への道は夜の神社に繋がっている

あの神社の灯りは妖異なんだよ

隣の家の雛ちゃんが耳打ち

嘘も罰も同じだもの

いつも座敷牢の中から語り掛ける聲

ただ純粋に生き神を求める其の稀の重なりに

五月蠅い親戚の影帽子は形を崩して闇となる

夏の夜の妖しの宴は生きていない人々への憧憬の眼差し






汽笛の音がする

遠くからの便りは匂い袋が入ってゐて

今宵も夏を抱いて眠ります

宮沢賢治が外の外灯になって誘蛾灯には極彩色の蛾が集まって

懐かしい色とは何でしょう過去は待ってはくれない

夜もすがら光の魔術について語り合う仏壇の百物語

水琴窟は幽かな音色を立て味噌汁に入ってゐる仏の邪魔を







B29はまだ空を飛んでいるか

江戸時代の幽霊は今なお夜の外灯の隣に立つ

懐かしき道具は郷愁的で過去の古きを未練のやう

今は只懐かしい記憶のやうで不思議と暖かな家の灯りを思い出す

この大地の下には多くのたましゐが眠っていることを

とっぷり夜は更けてまいりまして

夏はまだ消えない








おぼろげな記憶は夏の抽斗に閉まったはずなのに

秋深まっても夏の魔の手はぞよりと首筋を迫ってくる

夏風空色あおによし

げに光は匣より零れ落ちる美しさかな

本当の事を知ったら君はもういない

死んだ女は過去を彷徨い郷愁を彷徨い座敷の上でため息を吐く

嘘ばっかりだ此の世の中は…

遠くへ行きたひ







夏のなきがらを抱いて眠ります

秋の夕暮れは寂しい街と夢を乗せる列車の汽笛の音

七輪の上の秋刀魚は都合がいいと嗤ってゐる

思い通りにならないのが世の中

宿世の因縁は縁のゆめまぼろし

夏を想って外灯が寂しく道を照らす夜に眠ります

神社の中で焚き木は止めましょう

お寺の中で花火は止めましょう







夕暮れの唄は鴉の唄

狛犬のお届け物は夏だった由々しき事態

黒に呪われた世代は夕闇求めて陰から翳へ彷徨い揺らめく

境内には真っ黒に塗りつぶされた経本が堕ちていて

外法に関する凡ての悪が画かれていた

誰かが瓦の上で笑ってゐる

凡て夢、それ相応に反魂を喰らい

腕には消えない真言の見知らぬ文字








古きを知って過去に舞って仏の作法は届くのか

さもありなん世の中は闇夜に宵夜、地獄に闇が渦巻いて

なかなか正法が届かざるなりけり

夏の魔術は鬼を狐を鼓舞させ闇が世間を跋扈する

今日も赤のドレスと赤い口紅で宿場町を彼岸花と踊ります

季節の方舟夏を置いて何処迄秋深まりけり

水琴窟は今なお昏し







思い出すのは夏ばかり

たましゐは夏に置いてきました秋も深まり心臓はすきま風

過去の扉が開かれる夏の墓標の防空壕の跡

風が線香の匂いを運んできます夏の香り戦の翳り

背中に夏がくっついていますよ揚羽蝶の加賀友禅

あの青にたましひは喰われてしまったのだ夢の語らい

眩暈のする或るいは過去の聲








懐かし町は刻の止まった街

過去の因縁が宿世となって襲ってくる赤に呪われた世代

其処の神社では黒い影が幾つも夢の欠片を喰らうておる

いにしへの刻へ戻りたくば六文銭を渡せと

あちこちの家で葬式をやっていて松明を燃やして練り歩き

鄙びた町に封じられた地獄経の影

西から風が吹いてきて東へ戻れと







ブランコは秋風の乗せてそよそよと揺れている






いにしへの街は今日も風に吹かれてた

失くした鍵の在り処は分かったかい

開かずの扉は閉ざされたまま麝香の香りがする

何処からかお味噌汁を煮る匂いがする

あそこの窓からシャボン玉を飛ばしている子供の影

影は夕暮れになるまで邪教の教えを守って過去の記憶を封じている

神社の片隅では祭りの跡影









夏の塊みたいなもんです私の心臓は

赤いドレスで宿場町を踊る幽霊とは雨女の自分

夏の生い立ちを聞いたらしまい込んだ古いアルバムの朝顔の寫眞








ブランコは青空を乗せて寂しかった想い出を揺らす秋の空

秋の空は寂しさをそっと心に寄せてきて蔵の裏に隠れる夏の蜉蝣

夏の木漏れ日が秘かに生きていた屋敷の縁側に吐息をかけて寫眞に隠しておく

階段の上から毬が落ちてきてまだ座敷童の居る存在証明

青い空は旅人を孤独にする列車の窓ぎわに人間失格

普通のいい話、というのが信じられない不幸な人って私のことです

人が絶えた家からシャボン玉が飛んでいる祈りの様に






涙の雫は梅雨の雨によく似ているね

たましゐの焼酎をグラスに注いで三分

黄色に発光する躰を元に戻すため飲み干す

夢ばかりが点滅する信号機は

宿場町のお地蔵さんの隣にしかない

家の裏の蔵にはあの世に通じる開かずの扉がある

マグマのような怒りを抱えるたましゐは

満月の夜になると遠吠えをする






なみだのつぶを集めたら

硝子細工になった

音もなく夜道を歩く

外灯は物言わず心の戸を叩く

船町の夜は長くやがて影は消えてゆく

面影はメビウスの輪のように

始まりと終わりを永久機関に封じ込める

夜の灯りは硝子の粒






たましゐの有り様について

常に水の中に入れておくと元気になります

秋の終わりには心臓と郷愁を同じお椀の中に入れて

秋の月を映すと生き返ります

たましゐは子供のはしゃぎ声が聞こえると

勝手に体から抜け出てお化けの真似をして子供を驚かせます

夕暮れには郷愁を朝には鼓動を強めます

以上説明書






秋祭りの大太鼓が心臓の戸をどんどん叩いて

忘れていた古来の和の國のたましゐを呼び

頭の中の磯の匂いさざ波が打ち寄せて

暗闇の夜にはっと懐かしい記憶を思い出す

それは前世の記憶かもしれない

どどんどんと心臓を揺らして

昔の子になった気がして

太鼓の音はどんどん内側に寄せてくる






夕暮れの体温が暖かい秋の暮れ

午後五時になると同報無線のスピーカーから

夕焼け小焼けが心臓の戸を叩きます

さあ冬が来ます詩人は静まった街の中

物憂げに頭を垂れて

万華鏡のような懐かしい詩を錬金術の様に

今宵も月が見ております

あの缶ジュースの中に宇宙が入ってゐたら

銀河系をも缶蹴りします







向日葵畑に消えていった背中を追いかけて

優しい腕を探して涙する

線香花火のひとしずくのたましひが

街灯の灯りに姿を変えて

眠れるように夜道端から見守ってくれています

炎は悲しい悲しいと叫び

戻らない腕を引き寄せ手繰るように

何もできないで心は引き裂かれた

もうあの頃のような

優しさはもう






海は悲しい人のしとね

生臭い磯の匂いと燃えるような夕陽に古き記憶が燃え上がる

舟虫が岩陰に潜んでいる魚の死骸が岩に貼りついて

生と死の色濃い匂い人は死ぬと海に還る

浜辺で焚き木をして踊っている海辺の祭り

燈篭流しをする人たち見知らぬ人々の手に在る松明

それがたましひのように燃えている





空はどこまでも青く懐かしき影は街角にちらほら

この身を焦がす炎も怨嗟もくすぶりつつも日陰の方

夢ばかり見ていました

遠ざかる自転車や人影は懐かしき刻を刻み続ける懐かしき面影

かすかな溜息の中に、思い出も悲しみも、風が連れて行ってくれる

あのいらかの向こうの鰯雲の果てに

空は棲んでいる









闇の中を彷徨う

そこに光は一筋たりともない

うちにいてもそとにいても

地獄であることには変わりない

戯れに懐かしい昔の怪我のなかった頃を唄おう

平和で和やかで健やかであった

懐かしい風の唄を







辛くてぼろぼろになって日の光を求め彷徨う

牢獄のような此の世を

何処に行っても極楽なんてありはしない

ただ目の前の匣の中から手が伸びてきて殴られて

大好きだった本からも

嵐のような罵詈雑言のやいばがあちこちから

頬をえぐるように殴られる

可哀そうな怪我人は生きている資格がないからか

「死なないでくださいねもうすぐ舞台もあることですし」

と言われて心だけが死んでゆく


死にたいと分かっていて、なお嫌なものを見せようと醜く嗤いながらそれを云うのか








激しい怒りの後のむなしさと憎悪

錆び鉄のように病のように体を蝕み

日食のように世の中は暗黒になって

マグマはどろどろとこの身を焦がす

嘘をついて嘘をついてにこにこ笑顔が顔に張りついて

ただ傷ついた裏切りの代償の痛みだけがずっと

胸を千本の針でちくちくと指す様に

痛みだけが残ってくすぶっている

嗚呼、この痛みは死ぬまで消えないな

笑顔の裏切者達の顔がこの世から消えても

約束のように痛みだけは残るだろう







どす黒い怒りの雷雲が近づいてくる

海の水がコールタールのように水鳥を喰らう

嵐は巻き起こり風は我を忘れて荒れ狂う

身の内の雷鳴は轟き

悲しい唄はこの身を巣食う怒りの火山に飲まれてゆく

ただ滂沱の涙がこの身を食いつくし

苦しみが背骨を軋ませても

怖ろしいページをめくらなければならない苦しみが

私の中のすべての幸福を奪い去って行く

涙を流してただ愛して欲しかった抱きしめて欲しかった

遺言のように空は昏くて



いにしへの街は今日も風に吹かれてた

失くした鍵の在り処は分かったかい

開かずの扉は閉ざされたまま麝香の香りがする

何処からかお味噌汁を煮る匂いがする

あそこの窓からシャボン玉を飛ばしている子供の影

影は夕暮れになるまで邪教の教えを守って過去の記憶を封じている

神社の片隅では祭りの跡影

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