表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

第五話 魔術

ニーベルは真剣な表情で政孝に訴えた。

「政孝、君には魔術を使えるようになってもらいたいんだ。でないと君はエルフと戦えばほぼ確実に命を落としかねない」

「いきなり何を言っているんだ。俺が、魔術?使えるわけないだろ」

「それは誰しもが持っている思い込みだよ。魔術は誰だって使える。魔術は自由なんだ。でも人類のほとんどが魔術を諦めてる。何故なら魔術っていうのは途方もない自己研鑽の積み重ねで本来は発現するものなんだ」

「それなら俺にだって無理だろ。こう言っちゃ何だが俺は自己研鑽とは無縁の生活をしてきたんだぞ。そんな奴がいきなり努力したって何とかなるわけないだろ」

「そうだね、でも僕がいればどうにかなるよ」

「いや、それでもすぐにってわけでは・・・」

「すぐに使えるよ、キョースケもトードルのおかげで魔術が使えるようになってたんだ」

「そうなのか?」

「うん、彼は遠くの人間の骨を折る能力を持っていた。その能力を彼は『ホネバミ』って呼んでたよ。他にも身体を強化する能力や魔力の痕跡を辿る能力に目覚めてたね」

「なるほど、だからあんなに自信満々だったわけだ」

「マーサには残念なお知らせだけの彼の自信の源は魔術が使えるようになったからではなくて本来の彼の自己研鑽によるものだよ。服の上からは想像がつかないだろうけど、彼の体脂肪率は5%、いかに普段から鍛えてるかわかるよね」

「5%、アスリートか何かか!?」

「対してマーサの体脂肪率は15%くらいだね」

この時、政孝は決定的な敗北感を味わっていた。

(俺も一応絞ってたのに、ジムとか行って汗を流したのに!)

この時、政孝の何かに火が付いた。

「ニーベル・・・」

「何かな、何で目が血走ってるのかわからないけど・・・その、怖いんだけど・・・」

「魔術が使えるようになれば西村さんに勝てるようになるのか!?」

「そ、それはちょっとわかんないね。君の中に眠っている魔術を引き出して鍛えれば勝ち目があったりするかもね」

それを聞いて政孝の心は決まった。

「ニーベル、頼む。俺の魔術を教えてくれ」

そう言って彼は頭を下げた。

「う、うん、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ、それじゃあ早速君の魔術を解放してみよう」

「よろしくお願いします!」

そう言って街の外の街道に彼らは移動した。


「それじゃあ行くよ、ちくっとするけど我慢してね」

「了解」

そしてニーベルによる施術が始まった。

目を瞑って何かに触れるように手を回すニーベル。

「何だこれ、こんなぶっとい栓、僕は初めてみるよ」

「えっと、大丈夫なのか?」

「ごめんマーサ、やっぱりやめとかない?」

「何で今更!?」

「いや、あの、だってこれ抜いたら君がどうなるかわからないからさ」

「死ぬのか?」

「うーん、もしかしたら死ぬだけじゃなくて爆発するかも」

「爆発ってどれくらいヤバいんだ?」

「それは、まぁ結構な範囲が更地になるくらいなんだけど・・・」

「ヤバいじゃねぇか」

「うん、だからどうする?」

「もうちょっと場所はどうにかならんのか?例えば空中とか水の上に持ち上げるとか・・・」

「あぁ、その方法があったね。じゃあ僕がキネシスで海上に持ち上げるからそこでやろう、でもさ、死ぬかもしれないんだけどそれでもやる?」

「・・・やる」

「どうしてそこまでムキになるかなぁ」

「生きて負けるくらいなら死んで負けたい、それだけだ」

武士道である。

「君の中の死生観ってどうなってるのさ、まぁいいや、そこまで言うなら僕も全力で付き合うよ」

そうして今度は場所を変えて海の上にやって来た。

「それじゃあマーサ、歯を食いしばって、腹筋に力を入れて、お尻の穴をギュッとしめて、でないと爆破するから気をつけてね」

「さっさとやってくれ、時間をかけられると気が緩む」

「りょーかい、じゃあ、行くよ」

最初に彼が感じたのは胸につかえていたものが取れる感覚。

その後、全身に雷が駆け抜けるような激痛が走った。

全身に力を入れたまま絶叫する政孝。

その周囲にはバチバチと目に見えるほどの電流が発生し、彼の周囲を竜巻が覆っていた。

内側から溢れ出す魔力の本流にそれでも彼は死ぬ気でしがみついた。

顔の血管が浮き出て、目から血の涙を流し、全身から冷や汗が滝のように流れてもなお、彼は自分の形を保っている。

そんな中で彼は確信した。

自信が生還できる可能性を。

それが時間が経過するほど実感と現実味が増していく。

足元の海水が彼の魔力によって叩きつけられて水飛沫が上がる。

そんな中、顔にかかる海水を気にすることもなくニーベルは政孝の魔術の奔流をコントロールしようとしていた。

ニーベルの口の端が吊り上がる。

(こんな楽しい難産は初めてだよマーサ)

彼にも政孝の生還が確信に変わる。

(あと少し!)

そうして、彼を覆っていた竜巻が外側に弾けて突風に変わる。

その風が近所の家の窓ガラスをガタガタと揺らした。

竜巻の影響で曇っていた空にぽっかりと穴が開き、その曇天から一筋の太陽の光が政孝に降り注ぐ。

彼の上には小さな虹がかかっていた。

政孝はぜぇぜぇと肩で息をしていた。

「マーサ、おめでとう、君は魔術を得た」

小さい拍手を3回するニーベル。

「何だよニーベル、思ったより大したことなかったじゃねぇか」

そういう政孝は完全に瞳孔が開き、口は強がりで強張りながら笑っている。

「まぁ、そうだね、けど君なら、難なく突破してくると思ったよ」

「ははは、そうか、それなら期待に応えないとな」

(少し変わったかな、まぁ、魔術を得ることで性格が変わる人って珍しくないからそんなに心配する事じゃないんだけどね)

「それでニーベル、俺は一体何ができるようになったんだ?」

「それは君がちゃんと理解できてるよ、僕がどうこう言わなくってもね、でもこれだけは言っておくよ、君は様々な能力を得ることができた。それでもきっと、今はキョウスケの足元にも及ばない」

「あぁ、分かってるさ。だけどこれなら手が届く。後は死ぬ気で突っ走ればいい、そうだろ?」

「自己研鑽は性分じゃないと言ったのは誰だったかな」

「勿論取り下げてやるよ、過去の発言なんてアリにでも食わせておけばいい」

「そう・・・それで、気分はどう?」

「良い気分だ、早速、色々なことに取り掛かろう、そのまえにまずは・・・飯だ!」


彼が手に入れた力を発表する。


サイコキネシス 手を触れることなく物を掴んだり持ち上げたり操作したりする能力だ。それに加えて持ち上げたものを拳銃の弾丸並みの速度で射出することも可能になった。


摩擦の変更 自在に摩擦を操作することで地面をスケートのように滑ることもできるし、逆に物をしっかりと持ちたい時などはグリップ力が増すようにも操作できる。


温度の操作 普通の水からお湯を作ったり、水を氷にすることができる。また体温の操作も可能である。


治癒能力 骨折から切り傷まで治療が可能である。毒に対しても瞬時に大概に排出することで回復が可能である。ただし病気に関しては治すことができない。


身体機能の強化 自身の筋肉と骨を強化することができる魔術で強い力で殴れるようになり、さらに時速50キロで走る車に追突されても骨折しないくらい頑丈な体になる。おまけに走る速度まで速くなる。


速度強化の魔術 移動速度を飛躍的に上昇させることができる。その速度は野生のチーター並みの速さ。ただしこの魔術を使うときは最初に身体強化の魔術を使っておかないと負荷に耐え切れずに足の骨が折れる。


瞬間移動の魔術 自分から約30メートル離れたものを瞬時に別の場所に移動させることができる。ただし、人間は移動させることができないし、自身も瞬間移動の対象にはならない。


物体の強化の魔術 ありとあらゆる物体の強化、刃物の場合切れ味が増す。ただ物自体の強度を上げているのではなく魔力で物体を包み込んで物を保護する。その為、刃物で切るのではなく実際は刃の延長上にある魔力で物を切ることになる。


この話の終わりに。

これだけの能力を得た黒淵政孝だが、戦闘能力では西村京介の足元にも及ばない。

要、修行、鍛錬、自己研鑽。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ