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プロロ2

おかしなことになった。

いきなり我が国のガベル将軍が戦争をしなければならないと言い始めたのだ。

相手は今まで友好を保ってきたアズファルド帝国。

事の発端は、帝国が自国の貧困を解消するために多額の金を我が国に要求してきたことに端を発している。

将軍はこのままでは我が国の国庫は底をついてしまうので戦わなければならないと言っていた。

だが私が生まれてこの方、このような理不尽な要求を帝国は一度として行ったことがなった。

それに帝国の経済が崩壊するような予兆も見受けられなかった。

だから我が王国は帝国に使者を出して事実確認を急いだ。

だが何者かによって使者は殺されてしまったと将軍が報告している。


おかしいことだらけだ。

将軍は何かを隠している。

だがどうにもならない。

2か月前、我が父、エルメニア王国の国王が他界した。

謎の病で40歳でこの世を去った。

母はそれ以来、心を病んでしまってとても政務が務まるような状況ではない。

残念ながら私に至っては14歳と言う若さのため政治に参加させてはもらえなかった。

私は激怒した。


「私はもう14だぞ、政治に参加する権利くらいあるはずだ!」


それでも将軍は私に政治をやらせようとはしなかった。

そうして私が何もできないまま開戦してしまった。

将軍は禁断の秘宝『マルクェルムの扉』を使って異世界から戦士たちを呼び出し、アズファルド帝国戦わせた。


結果、一度目の戦いで両軍が大量に死者を出して引き分け。

二度目の戦いで大敗を決し自国領土の一部を失う。

だがそれだけでは終わらなかった。

異世界から召還されたものは我が国の為に戦ってくれる勇者ではなかった。

彼らは金に目がくらんだ、ただの蛮族だった。

その者たちは戦いから逃げて、ほとぼりが冷めると手あたり次第、周囲の町や村を襲うようになった。


見かねた私は帝国に出頭すると申し出た。

許されるわけがない。

何の罪もない領民が犠牲になっている。

こんな訳の分からない戦争を続けていいはずがない。

私はある晩、意を決して寝室から飛び出して馬小屋に向かった。

そして馬に乗って帝国へ向かう予定だったが、ガベル将軍の手下に捕まって、現在私は、王国の地下牢に放り込まれている。

牢屋の見張りにいたのは我が国の兵士ではなかった。

異世界から呼び出された戦士たちだった。

そこで私は察した。

父上が死んだときからこの国は狂っていたのだ。

いや、父上は病死なんかじゃない。

将軍によって殺されたのだ。

絶対に許してはならない。

父の仇を取らなければ。

だがその前に帝国へ知らせなければ。

急がなければならないのに今の私にはどうすることも出来そうにない。

私は非力だ。

鉄格子を破壊できるほどの腕力はない。

ここから出せという命令も受け入れられることはなかった。

ただ救いがあるのだとしたら一日に2回食事が出てくることだろうか。

それは女給のカーラだ。


「殿下、なにとぞ、今は辛抱の時でございます。それに今や帝国へ続く街道は強盗で溢れかえっています。無事に帝国に辿り着ける保証はございません」

「だからと言ってこのまま何もしなければ最悪、国がなくなるぞ!」

「その時は、殿下と共にこの国で死のうと思っております」

「縁起でもない事は言わないでくれ、カーラ、この牢屋は開けることが出来ないのか?」

「申し訳ございません。鍵はあの盗賊たちが持っています。私一人ではどうすることも…」

「そうか、無理を言ってすまなかった。そなたも忙しいだろう、下がって良いぞ」


神よ。

本当に貴方はいらっしゃるのですか?

このような非道が許されてよいのですか?

父や母が何か悪いことをしたのですか?

何故、何の罪もない領民が強盗に怯えなければならないのですか?

応えてください、貴方にはその義務があるはずだ。

国王も、母上も、妹も、領民も、貴方を信じて生きて来たんですよ。

良い行いをすれば天国に行けると信じて。

良い行いをすれば素晴らしい人生が送れると信じて。

………………………………………………………

………………………………………………………

………………………………………………………

何故、答えてはくださらないのですか?

そう言えば父は言っていました。

困った時だけに神にすがるのは卑しい行為である、と。

そうですね神よ。

私は卑しい男です。

こうやって困った時に貴方にすがろうとしている。

でも母や妹は熱心な信奉者でした。

私は救われなくてもいい。

せめて彼女たちは救われるべきだ。

なぜあなたはいつも姿を見せてくれないんですか?

誰もあなたの姿を見た人がいない。

本当にいるのだろうか、そんなものが。

本当に祈ることが正しかったのだろうか?

嗚呼、とても馬鹿馬鹿しくなってきた。

この期に及んで、何故だろうか、真理に近づいたような気がする。

この世に神などいない。

祈っても、信奉者が苦しんでいるときでも、悪が現れようとも、その姿を現すことなどないのだ。

だから私は鞍替えしようと思う。

何でもいい、私を助けてくれ、この国の状況をぶっ壊してくれ、戦争を止めてくれ。

それが悲劇をもたらす悪魔でもいい。

私の命一つで大勢が救われるなら、私の魂をくれてやる。

だから、私に力を貸せ。

そう思って私は目を閉じた。

ここに閉じ込められてからどれほどの時間が経っただろうか。

今日はカーラが来なかった。

もしかしたら全てが終わってしまっているのかもしれない。

牢屋の向こう側は灰になって母も妹も、もうこの世のものではないのかもしれない。

考えすぎて頭が痛い。

それに最近胸が痛い、咳が止まらない。

風邪でも患ったか。

牢屋はとても冷える。

意識が遠のいていく。

父上、申し訳ございません。

貴方の息子は、とても無力な人間でした。

さようなら。

分からない、何に対してさようならなのか。

意識が途切れる寸前、誰かが言い争う声が聞こえた。

もう、どうでもいい、とりあえず、さようなら。

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