44.夏合宿三日目・トレジャーハント
宝箱の発見で気合いを入れ直した新入部員たち。彼女らの活躍で、無事に一行は植物ルート二階の出口まで辿り着いた。
今日の成果はこれで十分ということで、順路を通って道を引き返し、ベースキャンプまで帰還する。
その後、同じく帰還した三年生と二年生のパーティーと一緒にダンジョンを出て、怪我や装備のほころびを消す。ダンジョンの中で負った傷は、生物非生物を問わずダンジョンから出ることで消え去るのだ。
それから、各学年の代表者で村役場に向かい、買取業者の斎藤に本日の成果物を売り払う。
「明日と明後日は、買取お休みだからネー」
と、斎藤はこのタイミングでもマイペースに休みを満喫するようで、そんなことを部長たちへ告げた。だが、事前調査で業者の休みも織り込み済みだった部長たち。彼女らは、特に気にすることもなくダンジョンへ取って返した。
なお、ヒマワリは、ここで部長たちと別れて帰宅した。
昼間はダンジョン飯に付き合ったヒマワリとサツキたち『ブルーフラワーズ』だが、夜間は家に帰る。彼女らはあくまで外部協力者であり、女子ダンジョン部の部員ではない。これ以上は、かかわるべき領分を超えているのだ。
一緒に夏合宿で青春を楽しみたいのならば、女子ダンジョン部へ入部するべきだ。ヒマワリは、そのような線引きをしていた。
そうして、家に帰ったヒマワリは、夕食を食べて風呂に入ってから、サツキとスマホでメッセージを送り合う。そして、妹のアイも交えて、午前中の探索で話題になった『モンハン』を久しぶりにプレイして、一日を終えた。
その翌日、夏合宿二日目。
この日から、一年生たちの本格的な植物ルート攻略が始まる。
相変わらず採取は行なわず、モンスター討伐メインの方針で進んでいく。
どうやら三木は、四日目に五階のボス突破を考えているらしく、積極的にメンバーの『レベルアップ』を狙ってるようであった。
「全員レベル5になったら、ボスを狙う」
三木はそう言ったが、ヒマワリとしてはこの短期間で新入部員のレベル5到達は、なかなか厳しそうだと思った。『レベル』は高くなるにつれ、次の『レベルアップ』に必要となる『経験値』の量が増えていく仕組みなのだ。
最終的に二日目の活動は、三階を攻略し終えて四階の探索を少しだけやって終わった。
「四階の環境、ヤバくね?」
「森の厳しさがエグすぎる」
「魔力減りすぎてフラフラするー」
そんなコメントをする新入部員たちは、レベル3になり、明日にでも4になる見込みだった。
そこで、ヒマワリはあることを思い立つ。どのタイミングでやるか迷っていた『トレジャーハント』を明日の朝一でしてしまえばよいのでは、と。
『トレジャーマップ』を使用することで出現する、豪華な宝箱。それを守る『ガーディアン』は倒したときに得られる『経験値』の量が、とても多い。まるで『経験値』そのものも、宝の一つであると言わんばかりの仕様である。
ならば、このタイミングで『ガーディアン』を倒し、『レベル』を上げて強くなった状態で四階の探索をすれば……。
三日目は、より多くのモンスターを討伐できるようになるのではと、ヒマワリは目論んだ。
そして、その旨を合宿二日目の夕方に、一年生のリーダー三木と、女子ダンジョン部の部長美園に相談したヒマワリ。
すると、三日目の最初に一年生だけで『トレジャーハント』を行なうことが、無事に決まったのだった。
◆◇◆◇◆
植物ルート二階。順路を外れた一角に、『フラワーガーデン』一行はいた。
夏合宿の三日目、現在時刻は午前十時。一年生に体調を崩した者は、一人もいない。二日連続のテント泊だというのに、元気なものだとヒマワリは頼もしく思った。
そのヒマワリの手の中には、一枚の羊皮紙があった。『宝の地図』、別名を『トレジャーマップ』という。
その『宝の地図』を村役場から入手できる植物ルート二階の地図と照らし合わせて、宝の位置を特定。皆で意気揚々と進み、そして迷うことなく目的地まで到着した。
「うん、ここだね」
ヒマワリが、地図を確認してそう告げる。
さらに、そのまま二つの地図をリーダーである三木へと引き渡す。
三木も、二つの地図に描かれた地形と現在地を比較して、確かにこの場所だと判断を下した。
「じゃあ、みんな、戦闘準備。『ガーディアン』が出るらしいから、気を付けて。『アクティブモンスター』だから」
三木がそう告げると、各々が『アビリティ』を使って戦闘前に能力を高めていく。
それを確認した三木は「十秒後に使う。詳しい出現位置は分からないから、気を付けて」と言って、カウントダウンを始めた。そして。
「三、二、一、今ッ!」
叫びと共に、三木は『宝の地図』を『使用する』と強く念じた。
すると、隊列の後方にいた三木から少し離れた場所、隊列の中程に、光の渦が発生した。
「!? 散開、陣形再展開!」
地図の使用から、『ガーディアン』の発生まで、十秒ほどのタイムラグがあるとされている。
その時間を利用して、三木は隊列を組み直そうと試みた。
だが、メンバーはシーカーになってそう時間が経っていない一年生のみ。散開はしたものの、隊列は形成できなかった。
そして、そこで光の渦が収まり、『ガーディアン』が出現する。
それは、大人のヒグマほどもある大きなモンスター。
姿形は、犬かオオカミにも見える四脚のシルエット。だが、毛は生えておらず、代わりに樹皮でできた表皮があった。
「にゃ、『ツリーウルフ』にゃ」
猫のミヨキチが、≪モンスター鑑定≫の『アビリティ』を用いて、モンスター名だけを告げる。
ミヨキチ自身は戦闘に参加するつもりがないが、しかし、リーダーである三木にとっては、その情報だけでも値千金であった。
この『ガーディアン』は、樹木系の植物モンスターの特性を持った、オオカミ。
つまり、動きはオオカミであり、身体は木でできている。そんな推測を、三木は瞬時にまとめて、端的に告げた。
「木の身体に、オオカミの動き! 硬さと速さに注意!」
その指示を聞き、真っ先に動いたのは、『フラワーガーデン』のタンク担当。合成樹脂製の盾を左手に装備した、五月生まれの女子部員である。
攻撃した相手のヘイトを稼ぐ『アビリティ』を使用しながら、右手のメイスを叩きつけるタンク。
メイスに盾、そして三木が作ったプロテクター付きの可愛らしいサーコート姿の女子は、まさに騎士か戦乙女かといった出立ちであった。
巨大なオオカミのヘイトがタンクに向かい、その間に体勢を整えた一年部員。彼女たちは自分の役割を果たそうと、各々で動き始める。
最初に「私が!」と声を上げながら攻撃に向かったのは、『巴御前』の新入部員、小路山ナツ。
『パッシブアビリティ』の『薙刀の心得』を意識しながら、強力な一撃を放つ『乾坤一擲』を打ち込む。
四階のモンスターですら、当たり所次第では一撃で打倒できる物理攻撃系の『アビリティ』。それが、『ガーディアン』の胴体へと見事に命中する。内心で、やったと喜ぶ小路山。だが、しかし。
「!? 硬! めちゃくちゃ硬いよ、こいつ!」
『ガーディアン』の表皮に小さな切り込みは入ったものの、有効打と言えるほどのダメージは、入っていなかった。
「前衛は牽制して、後方から魔法攻撃!」
すぐさま、三木の指示が飛び、後衛から攻撃魔法や忍術が飛ぶ。
そんな戦闘の始まりを後方で女子ダンジョン部のリヤカーを護りながら、ヒマワリが観察する。
「生木は意外と斬りにくいんだよねぇ。多分、火もそこまで効かないよね?」
「そうだにゃあ。葉っぱもないしにゃ」
植物ルートの五階で『トレント』を倒した経験から、ヒマワリとミヨキチがそんな言葉を交わす。
一方、サツキはハラハラとしながら戦いを見守っており、犬のホタルは伏せの姿勢のまま、いつでもカバーに入れるよう注意深く戦いを見ていた。
「ハアッ! ……ッ!? ヨシ、末端なら切れる!」
前衛として攻撃に参加している三木が、特徴的なハサミ型の武器で、オオカミの尻尾を切断することに成功した。
だが、尻尾の断面からショッキングピンクの血が流れることはなかった。どうやらこの『ガーディアン』は、ヒマワリの読み通り、生木が身に詰まっている植物としての性質が強いようであった。
「多分、弱点部位はない! なので、少しずつ削れるところから削っていく!」
「りょ!」
「行くぞー!」
「ヘイトは私に任せて! 思う存分攻撃していいよ!」
「頼りになるぅー」
三木の指示に、それぞれ返事をして、互いに鼓舞し合う『フラワーガーデン』たち。
八人という比較的多めのパーティーメンバーによる連携は、戦いの時間が経過すればするほど、洗練されていく。
前衛がコンパクトに攻撃を当てて『ガーディアン』の動きを鈍らせると、後衛が大きな一撃を放って大打撃を与える。
後衛の魔法で動きが止まると、三木がそのハサミで前足の爪や、頭部の牙といった危険な部位を的確に切断する。
相手の攻撃力が失われたところで、タンクが余裕を持って攻撃を受け止め、その隙を前衛が狙う。
そうして、よい流れを保ったまま、『ガーディアン』の全身は次第に削られていく。
やがて頭部を失い、前足を失い、後ろ足も失ったところで、動きを止めた『ガーディアン』の全身が枯れ果て、光となって消え去った。
それと共に、部員の多くが『レベルアップ』の光に包まれた。『ガーディアン』の討伐成功である。
「勝ったー!」
「うわー、勝てちゃった!」
「というか、二階の敵なのに強すぎ!」
「でも、『経験値』ヤバい!」
「いえーい」
ノリノリで、喜びを露わにする『フラワーガーデン』一同。
そうして、しばらくワチャワチャとはしゃぎ回った後、ようやくといった様子で落ち着いて、『ガーディアン』が守っていた豪華な宝箱へと注目した。
「へい、ニンジャ出番だ!」
「いや、『トレジャーボックス』は、罠も鍵もないかんな!」
「そうだった!」
「免許返納しろ!」
「ひどい!」
そうして、宝箱を誰が開けるかの話し合いが始まり、代表でリーダーの三木が開けることが決まった。
サイズが大型犬ほどもある豪華な宝箱の前に、三木が立つ。そして、その開封の儀を各々が持っているデジカメで、撮影開始した。
三木が宝箱を開けると、そこには複数のアイテムがみっちりと収められていた。
『ダンジョンコイン』に、香木、ポーション、琥珀、マジックアイテム、魔法のスクロールと様々だ。
豪華な宝箱は、道中で見つかる数個のアイテムしか入っていない宝箱と違い、まさに宝がたくさん詰まった夢の箱であった。
「うわー、今すぐスマホで撮ってネットに上げたい!」
部員たちがそう言いながら、デジカメで宝箱の中身を激写する。
そうして、しばらく撮影タイムが続いた後、あらためて落ち着きを取り戻した部員の一人が、ポツリといった。
「で、これ中身はどうするの?」
「さすがに芝谷寺さんたちの総取り。私たちは、あくまで『トレジャーマップ』を提供してもらった立場だから」
三木のその答えに、だよねーと皆が納得しそうになる。
だが、そこで後方からヒマワリが言った。
「遠慮なく持っていっていいよー」
「えっ」
「それはさすがにー……」
「いいからいいから」
「いやいやいや」
「『経験値』だけでも十分、美味しかったよ!」
合宿前までなら、言われたとおり遠慮なく宝を持っていっただろう、女子ダンジョン部の一年生たち。
だが、彼女たちの多くは『レベル』がこの三日間で順調に上がっており、魂が磨かれていた。それはつまり、高潔な精神をその身に宿し始めているということであり……。
「じゃあ、部室に飾る記念品だけもらっていこう。残りは、芝谷寺さんたちのもの」
『レベル』がサツキと同じ9に到達した三木。彼女が『フラワーガーデン』を代表してそう言うと、部員たちは口々に「異議なーし」と宣言して、宝箱から離れていく。
最後に三木が、宝箱の中から樹狼を模したぬいぐるみを取り出して、宝箱の前を『ブルーフラワーズ』の面々に譲った。
さすがにそこまで言われては、引き下がるしかない。過度の施しは逆に失礼となることもあると、あらためてヒマワリは理解した。そして彼女は、遠慮なく『トレジャーハント』の成果を丸ごといただくことにした。
ヒマワリたちは、私物のリヤカーを持ってきていない。そのため、女子ダンジョン部の備品であるダンジョン用の頑丈なリヤカーに、宝の中身を皆で移していく。
宝箱の中身を全て移し終えると、宝箱は光を放ちながら消えていった。
一年生にとって初めてとなる『トレジャーハント』は、こうして大成功を収めた。
ちなみに、ミヨキチの≪物品鑑定≫の『アビリティ』によると、ぬいぐるみは光合成による空気清浄の機能が付いていた。それを聞いた彼女たちは、部室に飾るにはちょうどいいと喜んだのだった。
今年の更新は、これで最後となります。第二章も残りわずかですが、来年も引き続きよろしくお願いします。皆様よいお年を。




