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どさんこ女子高生ヒマワリの地元ダンジョン大攻略  作者: Leni
第二章 スキル制女子高生と夏のきらめき

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32.ガテン系とインテリゲンチャ

 ダンジョン法改正と、ダンジョン研修の実施。それによる女子ダンジョン部の部員増加と、夏合宿。

 朝食の場で挙がった一連の話題をヒマワリは学校で、クラスメートの女子ダンジョン部員である、三木(みき)に振ってみた。

 すると、放課後になって、ヒマワリは女子ダンジョン部の部室まで連行されて、部長及び先輩部員たちに質問攻めにあった。


 まるで刑事ドラマの取り調べのようなノリで詰め寄られ、夏合宿を村で行なえる旨を吐いていくヒマワリ。

 すると、女子ダンジョン部の部員たちは……歓喜した。


 ぜひとも夏合宿は行ないたい。特に、新入部員が増えるであろう一年生を低階層で活動させたい。

 そういう話になったのだが、実際のところ、女子ダンジョン部はまだ新入部員が増えてはいなかった。


「ダンジョンに興味はあっても、ダンジョン研修前に入部する子は滅多にいないのが実態だな」


 女子ダンジョン部の部長はそう言い、夏合宿は七月のダンジョン研修が終わって新入部員がどれだけ増えるかで、改めて詳細を決めるということになった。

 ちなみに、男子ダンジョン部はというと、ダンジョン研修をまだ受けていない男子生徒が仮入部して賑わっているのだという。


「まったくもって忌々しい」


 そう言って、男子ダンジョン部に謎の対抗心を燃やす部長。

 だが、ヒマワリはそれを聞き流して、己の見解を述べた。


「まっ、ダンジョン部って、華々しい学生スポーツをするんじゃなくて、ガテン系の肉体労働をするわけだからね」


 ヒマワリのその言葉を聞いて、苦笑いをこぼす女子部員たち。


 かつてダンジョンに潜る者たちは、未知を探求する者と尊ばれ、神秘的な職業として周囲に扱われていた。

 今でも子供たちはそういう視点でダンジョンシーカーという職種を見ており、将来就きたい職業アンケートではトップの座に君臨している。

 しかし、ヒマワリや部長らといった高校生の歳ともなると、今の時代におけるダンジョンシーカーの現実が見えてくる。


 ダンジョンの謎はこの十年ですでに多くが解き明かされ、シーカーの活動内容は未知の探求ではなくなっている。ダンジョン攻略は日銭を稼ぐための安全な仕事であり、ダンジョンシーカーは現代文明を支えるための物品をダンジョンから持ち帰るという、完全な第一次産業の従事者である。


 自分たちは探究者(シーカー)ではなく鉱夫(マイナー)だ。などと、世界的に有名なダンジョンシーカーが、マスメディアのインタビューで答えた、なんてこともある。

 ちなみにその著名人は五年以上前に、世界に新しく生まれたダンジョンを金脈にたとえ、ダンジョンに潜る者たちをカルフォルニア・ゴールドラッシュの金脈採掘者である『アルゴノーツ』と呼んでいた。


 そんな未知の探究者本人による発言の変容を始めとした、時代の変化をヒマワリはしっかりと把握している。


 ダンジョン好きを公言する女子ダンジョン部の部長も、今のシーカーが肉体労働者という意見には反論するつもりもないようだ。彼女は、嫌な顔一つせずにヒマワリの言葉を流し、そして言った。


「というわけで、大研修が終わったら、あらためて夏休みの合宿について話し合うぞ」


「了解しましたー」


 部長が閑話休題といった様子で夏合宿に話を戻したが、今の段階で話せることはゼロ。

 ヒマワリもこれ以上、部室に居座るつもりがないようで、部員たちとの雑談もそこそこに下校するのであった。


 ちなみに、ヒマワリたちが通う学校は、北海道の公立高校である。

 北海道の学校は、基本的に夏休みの期間が短い。その理由は、北海道の冬の寒さが厳しいため冬休みが長く取られているからだ。その分だけ、夏休みの日数が減らされているのだ。


 本年度の夏休み開始日は、七月二十六日。そして、今日の日付は、六月三十日。

 本格的な夏が訪れつつあるが、夏休みの開始まではまだ一ヶ月近い期間が残されていた。




◆◇◆◇◆




 女子ダンジョン部での話し合いを終え、帰宅後。自転車で村まで帰還したヒマワリは動きやすい格好に着替えてから、剣の師匠である渋永(しぶなが)ヒロシの家に向かった。本日はダンジョン探索は休みとし、剣の修行を行なうつもりなのだ。

 ヒマワリは師匠のヒロシに快く迎え入れられ、裏庭の修行場へと通される。


 裏庭には、ヒロシが今日のために用意した修行用の(まと)があった。

 ヒロシが、わざわざダンジョン素材を持ち込んで職人に作らせた標的。その的に、ヒマワリが木刀で≪遠当て≫のスキルを当てていく。

 ヒマワリの≪遠当て≫は現状、剣先から衝撃波が飛ぶ『スキル』である。だが、師匠のヒロシの『アビリティ』である≪飛燕斬(ひえんざん)≫は、斬撃が飛び、遠くの物体を切り裂く。なので、ヒマワリは闘気を形作って衝撃波が斬撃にならないかと、『スキル』の修練を繰り返しているのである。


 整地された裏庭で木刀を振るい、闘気を込めて、的に向けて衝撃波を放ち続けるヒマワリ。

 その最中、師匠のヒロシはというと、アウトドアチェアに座りながら、ヒマワリから目を離して本を読んでいた。


 師匠としての役目をサボっているわけではない。彼が読んでいる本は、ヒマワリがダンジョン商店で購入して地上に持ち帰った、『スキル大全』だ。


「≪遠当て≫の形状変化については、載ってねえ。だが、≪闘気砲≫っていう、より遠くにオーラを飛ばす技は覚えるべきだろうな。鍵は、闘気を扱う能力全体を管理しているであろう≪闘気熟練≫のスキル上げかねぇ」


 八十過ぎの老人であるヒロシは、老眼鏡もつけずに『スキル大全』をスラスラ読み解き、そんな言葉をヒマワリに向けて発した。


「えっ、もう読み終わったの?」


 すると、闘気を練っていたヒマワリが、ヒロシのコメントに反応して彼の方へと振り返った。

 ちょうどヒロシも本から目を離したタイミングだったようで、彼はヒマワリの目を見ながら言葉を返す。


「おうよ。他のよさげな『スキル』も、いくつか見つくろっておいたぞ」


「うはー、ピックアップもしてくれたんだ。師匠、割と要領良いねぇ」


「そりゃおめえ、技術書の類は読み慣れているしな。農家って割とインテリなんだからな?」


「そうなの? 確かにサツキちゃんのお姉ちゃんは、学校の成績良かったけど」


 ヒマワリのパーティーメンバーであるサツキには、姉がいる。その姉は、現在、札幌の名門校である大蝦夷(おおえぞ)大学の農学部に通っている。彼女たち磯花家は、村の農家なのだ。

 ちなみに、ヒロシもすでに離農はしたものの、去年まで米農家であった。


「現代の農家ってのは、荒れ狂う自然を農学で制御する職業だぞ。しかも、十年前から『ジョブ』の力や、ダンジョンの物品がどんどん入り込んできいているんだ。時代遅れのノロマには、とうてい勤まらねえ仕事だ」


「うぇ、私には真似できそうにないや。私は、ガテン系のダンジョンシーカーが一番だよ」


「ガテン系だって、別に頭使わねえわけじゃねえぞ。土木建築は数学を駆使すると聞くしな。あと、ヒマちゃんが最近、学校のテストですごく良い点取ったって話、この前、村の会合で聞いたぞ」


「えっ、そんな話、誰が漏らしたの?」


「お前の親父さん」


「お父さん、口、軽過ぎ!?」


 父親による娘自慢を剣の師匠が聞いたと知って、ヒマワリは頬を紅く染めた。

 そんなヒマワリのもだえる様子をヒロシは、微笑ましい目で見守る。


 それからヒマワリは、恥ずかしさを誤魔化すように修行を再開し、しばらくしてからヒロシに休憩を告げられた。

 ヒロシが用意した麦茶で一息吐きながら、ヒマワリはヒロシと雑談に興じる。そして、その最中にふとヒロシが愚痴をこぼす。


「さっきはインテリを自称したが、それでも法律関係はややこしくて嫌になるなぁ」


「ああ、ダンジョン法改正の話かな?」


 ヒロシの振った話題を聞き、ヒマワリは今朝の父親との会話を思い出す。

 しかし、ヒロシが言いたかったのは、別のことであったようだ。


「そっちじゃなくて、駐車場の話だ」


「そっちかー。田んぼを潰して駐車場作るんだよね。話、進んでないの?」


「進んでいるぞ。七月の終わりごろに工事を始めるんだが……駐車場には関連する法律があるんだ。駐車場法ってやつだな」


「へー、そんなのあるんだ……。ああ、一種のお店みたいなものなんだから、そりゃあるよね」


「法律ってのは、どうにも文章が分かりづらくてかなわん」


「参考書の類ってないの? 私もダンジョンシーカーの免許を取るときは、分厚い書籍で勉強したけど」


「ノウハウ本やハンドブックはあるな。あと、法律の専門家にも相談した。ダンジョン用の駐車場だから、ダンジョン法と何か関係するかもしれなかったからな」


「関係してた?」


「特になかったな。これが、私有地にダンジョンが生えて、自前で入口を管理しようとするなら、めちゃくちゃ面倒臭いみたいだが」


「プライベートダンジョン!」


 私有地にダンジョンが生えることによるごたごた。

 新しいダンジョンが生まれる場所は、その多くが私有地である。


 大抵のケースでは土地の権利者が国や地方自治体に土地を高値で売り払ってしまう。だが、たまに自前の土地として確保したまま、ダンジョンの入場料を取って稼ぐ人がいると、ヒマワリは聞いたことがあった。公的なダンジョンは入場料が無料だが、私有地のダンジョンで入場料を取ることは法律で認められている。


 だが、ヒマワリが口にした『プライベートダンジョン』は、そのケースではない。私有地にできたダンジョンの存在を隠して、自分だけで独占するというフィクションをヒマワリは連想したのだ。


 すると、ヒロシもそのプライベートダンジョンという単語を知っていたのか、ヒマワリに苦笑を返した。


「ヒマちゃんよ、プライベートダンジョンなんてのは小説や漫画だけの存在だぞ」


「えー……」


「自分だけのダンジョンが、他では見ないような有望なダンジョンだった、みたいな話だろ?」


「そうそう。なんだあ、師匠。結構、詳しいじゃない」


「そうだな。でも、あくまでフィクションだ。なにせ……現実のダンジョンは人が多く入らないと、成長しないからな」


「あっ……!」


 そう。十年前から地球に生まれたダンジョンは、中に人が入って探索を進めることで内部が成長し、規模が拡張されていく。

 人が入れば入るほど階層は深くなり、モンスターの種類が増え、採取できる物が豊富になっていくのだ。この世界に生まれたダンジョンは、そういう共通の仕様があった。


「うーん、家から歩いていける村のダンジョンって、他人を出し抜けない点を除くとプライベートダンジョンっぽさがあるって思っていたけど……そうかー。ダンジョンには成長っていう要素があるよね」


 ここ青熊村にあるダンジョンは、十年前から存在する最古のダンジョンの一つである。

 しかし、青熊村ダンジョンができてから一年後、隣町に新しくダンジョンが誕生した。それから数年後、ダンジョンの一般開放が行なわれたが、周辺地域のシーカー希望者は隣町のダンジョンに流れ、青熊村ダンジョンに訪れる者はほとんどいなかった。


 その結果、現在の青熊村ダンジョンの規模は、隣町のダンジョンより劣っていた。

 村のダンジョンへの集客を成功させない限り、その成長差は今後広がっていくばかりであろう。


「うぬぬ……やっぱり村おこしを進めて、村のダンジョンを成長させないと……」


 ヒマワリがうめくようにそう言うと、ヒロシは笑って彼女に向けて言った。


「大丈夫だ。駐車場ができれば、人は増えるさ」


「駐車場完成したら、ネットで宣伝していい?」


「おう、バンバンしてくれ。まずは第一弾として、八十台くらいは駐められるよう広めに作る予定だ」


「やったー!」


 女子ダンジョン部の夏合宿に、駐車場の施工。少しずつであるが、ダンジョンを中心として、村が盛り上がりつつあった。


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― 新着の感想 ―
 ダンジョンは人が集まれば成長する。  それで成長しすぎて世界を滅ぼすのがダンジョンの目的だったらどうするの。  ……なんて思ったけど、ジョブの神がどうとかスキルの神がどうとかって、神がのんびりした…
人を呼ぶならバス用の大きめな駐車場も有った方がいいよねぇ
プライベートダンジョンはロマン ダンジョンの成長とか採取品どうすんの問題とか色々突っ込まれてそうだけど楽しそうではある
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