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どさんこ女子高生ヒマワリの地元ダンジョン大攻略  作者: Leni
第二章 スキル制女子高生と夏のきらめき

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31.ダンジョン法改正

 ヒマワリたちがパーティー名を決めてから、数日。

 新生『ブルーフラワーズ』一行は、平日の放課後を使って、青熊村ダンジョン六階の探索をしていた。


 ダンジョン六階は、広大な平原。そのところどころに、道しるべとなる石の柱が立っている。

 ヒマワリたちは、石柱と村役場から入手した地図を参照しながら、攻略を進める。地図には、『石柱の平原』との名称が書かれている。


 六階は五階以下の階層と比べて、一階層あたりのモンスターの種類が多い。さらにそれぞれのモンスターが、その特色を活かして連携を取ってくる。そのため、今までのようにすんなりと攻略できる階層ではなかった。

 地図に頼れば七階以降に進むことも可能だが、彼女たちは己を鍛えるためにもしばらく六階の探索を進めることに決めた。


 六階での探索は困難を極めつつも、確かな手応えがあった。

 そして、そんなダンジョン攻略ができて、ヒマワリは毎日のように満足していた。

 彼女は根っからのダンジョン好きであり、冒険好きなのだ。

 その攻略を心から楽しむ姿は、行政の管理下にあったダンジョンが一般解放されてからすぐの黎明期に、ダンジョンの謎を解明しようとしていた探究者(シーカー)たちの姿勢にとてもよく似ていた。


 そうして、六階の攻略開始から一週間が過ぎた、六月末の朝のこと。

 ヒマワリは、今日もスッキリと目を覚まして、朝のルーチンをこなす。ダンジョン内の商店で購入した『スキル大全』からチョイスした、有望な『スキル』の特訓を取り入れた日常生活を今日も送る。

 とりあえず感覚でやっていた朝の素振りも、別の『スキル』の習得を目指した鍛錬へと変わっている。


 快眠を約束する≪睡眠≫の『スキル』の恩恵と、寝起きすぐの運動とシャワーの効果で、朝から元気いっぱいなヒマワリ。その元気を維持したまま彼女は、食卓へと向かう。

 芝谷寺一家四人全員で食卓に着いて、朝食が始まった。


 専業主婦の母が作った朝ご飯を気持ち多めに食べるヒマワリ。

 ダンジョンシーカーは肉体労働者であり、基礎代謝も高いため、消費カロリーが多いのだ。


 本日の芝谷寺家の朝食メニューは、和食が中心。

『ジョブ』の力で品種改良された北海道米『さとこがね』のご飯に、玉子焼き。魚のすり身の味噌汁に、胡麻ドレッシングをかけたレタスと細切り大根のサラダ。焼き鮭に、カットしたトマトだ。

 タンパク質を含む食品が献立に多い理由は、運動したてのヒマワリに対する母の思いやりである。

 剣を使うヒマワリは、筋力があるに越したことはない。


 ちなみに、一家の食卓に納豆が出ることはない。

 ヒマワリの父であるユキヒロが酒蔵勤務のため、酒の醸造を邪魔する納豆菌は厳禁なのだ。


 そんな芝谷寺家の父は、醤油をかけた玉子焼きを食べながら、娘と朝のコミュニケーションを試みる。

 二人居る愛娘だが、片方は思春期終盤の高校一年生。もう片方は、思春期突入直後の小学六年生。父は、内心でおっかなびっくりになりながら、思春期の二人に話題を振った。


「明日から、新しいダンジョン法が施行されるよ。土曜日だから、一気にダンジョン研修が進むね」


 彼が振った話題は、娘たちが関心を抱くであろうダンジョンに関してだ。

 するとヒマワリは、父の目論見通り興味を引かれて、手に取っていた茶碗を置いて言葉を返した。


「あれだよね。誕生月を待たなくても、ダンジョン研修を受けられるやつ!」


「そうだね。高校一年生相当の年齢ならみんな、年度始めにダンジョン研修を受けられるようになるんだ」


 ダンジョン内でモンスターを一体倒すことで、『ジョブレベルの神様』から『ジョブ』の力を授かれる。その下限年齢が、人間の場合、十五歳なのだ。

 しかし、十五歳といえば高校受験をする歳であり、生まれ月によって『ジョブ』を得るタイミングが異なってしまうと、受験に格差が生まれてしまう。

 そのため今までの日本は、高校受験が終わった年度である、十六歳になる誕生月にダンジョン研修を受けるという仕組みが、今まで取られていた。


 だが、誕生月にダンジョン研修を受けるとなると、『ジョブ』を得られるタイミングが個人ごとに変わってしまい、これまた格差が生まれてしまう。それが問題視され国会で議論されて、このたびダンジョン法が改正されたのだ。


 これまで、十六歳になる誕生月に受けていたダンジョン研修。それを十六歳になる年度の四月に、一律で受けられるようになる。

 もちろん、高校に入学していない中卒の者も受けられる。


 今回は年度の途中での法改正のため、七月に一律のダンジョン研修が実施されることになるようであった。


「隣町のダンジョン、混みそうだねー」


 と、二人の話を聞いていたヒマワリの妹である小学六年生のアイが、横からそんな感想を述べる。


「それもあるけど、女子ダンジョン部の部員が増えそう」


 ヒマワリは、自身が通う高校にある部活動の一つ、女子ダンジョン部の部員たちを思い出しながら言った。

 女子ダンジョン部は、今までのダンジョン研修を受けられる基準となる生まれ月の格差もあってか、一年生の部員数が少ない。しかし、ここにきて一年生全員がダンジョン研修を受けられるとなって、部員増となる可能性があった。


 ヒマワリは、放課後に村のダンジョンで活動するために、女子ダンジョン部には入っていない。女子ダンジョン部は隣町のダンジョンを攻略することが、普段の活動内容なのだ。

 隣町のダンジョンの低階層は、それなりに混み合っているとヒマワリは部員たちから聞いている。妹のアイが言ったとおり、今回のダンジョン法改正でさらに混むことになるのだろう。


 そこで、ヒマワリはふと閃いた。


「町のダンジョンが混むなら、女子ダンジョン部に村へ来てもらって、活動させればいいんじゃない?」


「ん? また、村おこしの何かを思い付いたのかい?」


 父が、焼き鮭を箸でほぐしながら、ヒマワリに尋ねた。

 するとヒマワリは、にんまりと笑って父に答える。


「女子ダンジョン部の人たちに、青熊村ダンジョンのことをよく知ってもらって、将来的に移住を検討してもらえば……!」


「うん、いいんじゃないかな。この村はせっかくダンジョンがあるのに、ダンジョンシーカーが全然定住してこないって、村長が(なげ)いていたからね」


「だよね! シーカーが増えれば、シーカー向けのお店とかも誘致できそうだし……女子ダンジョン部に宣伝してくるよ!」


「どう宣伝するんだい?」


「それは……そう、おらが村のダンジョンは()いているので、ぜひとも来てください、とか?」


 発想はあれども案はないヒマワリが、フワフワとした意見を疑問形で述べる。ちなみに、ヒマワリが通う高校は、町に唯一存在するダンジョンまで徒歩で行ける距離にある。

 そんな頼りない姉のヒマワリを呆れた表情で見ながら、妹のアイが横から言った。


「もうすぐ夏休みなんだから、ダンジョン遠征とか言って、合宿しに来てもらえばいいじゃん」


「それだ! 夏合宿! アイちゃん、天才!」


「それほどでもない。それより、女子部っていうけど、男子部の方はいいの?」


「女子ダンジョン部のぶちょーさん、男子部をライバル視しているからなぁ。それに、どれだけ忙しくなるか、試してみないと分からないから、今年は女子部だけ面倒見る方向がいいかな」


 そんな仲の良い姉妹のやり取りを眺めながら、芝谷寺家の父ユキヒロは、娘たちの可愛さに、ニヤニヤと笑ってしまうのをこらえる。そんな父の暖かい目線に、ヒマワリは食事が終わっても最後まで気づくことはなかった。


 なお、一家の母である芝谷寺サクラは、ダンジョンに一切の興味を持っていないため、会話を完全に聞き流していた。彼女の頭の中は、趣味のハンドメイドで作る、小物のデザイン案で埋まっていた。

 そんな、いつも通りの朝の風景である。


第二章を最後まで無事に書き終えたため、書き溜め分を全て予約投稿しました。

今回のエピソードから第二章が終わるまで、火曜日と金曜日の週二回更新に変わります。

第二章は女子ダンジョン部の夏合宿の準備と実施がメインの、主人公が村おこしを目論む章になります。


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― 新着の感想 ―
村おこし町おこしは交通の便とか良くないと厳しいこともあるからねぇ
おー、若者に嬉しい法改正 シーカー増やして村のダンジョンの人口増やしたいなあ
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