27.冒険の再開
お久しぶりです。ちまちま書いていた第二章が五話ほど溜まったので、週一更新で溜まった分だけ投下します。第二章は主に夏休みのお話となります。
ダンジョンシーカーとして青熊村ダンジョンの肉ルート五階ボスを倒すという、小さな成果を達成したヒマワリたち。だが、ヒマワリの本業はシーカーではなく学生で、休み明けの平日は毎日学校に通い真面目に授業を受けていた。
そんな中、前期中間考査の答案が返ってきて、成績が発表された。
ヒマワリはというと、なんと学年で上から八番目という高順位に付けていた。
彼女は大学受験のために塾通いしていたわけでもなく、進学も希望していないため、クラスメートたちにはたいそう驚かれた。
おそらくは、勉強関連のスキルレベルを上げた効果によるモノだろう。ヒマワリ本人は、そう推測して周囲に説明した。
人間の『ジョブ』持ちは、学者系や研究者系の『ジョブ』に就かない限り、賢さの基礎能力は大して上昇しない。だが、世界で唯一の『スキル』持ちのヒマワリは勉強関連のスキルレベルを上げることで、微量ながら賢さが伸びていくのだ。
ちなみにヒマワリの幼馴染みのサツキは、中の上といったところの成績だった。
理数系は得意だが、文系科目は苦手なため上位には付けなかったようだ。
だが、赤点になった科目はない。
ヒマワリとサツキは互いに赤点回避を喜び、夏休みの補習を受けることなくダンジョンへ専念できる事実に、気合いを入れた。
夏休み終了まで、二人を止めるものはなにもない。
次のテストは夏休み明けてからの前期末考査だ。なので、全力で『ダンジョンの夏』を楽しもうと、二人は笑い合った。
そんなことがありつつ過ぎていく六月の第三週。やがて平日が終わり、土曜日がやってきた。
その日もヒマワリたちは、いつもの四名でダンジョンに潜っていた。
行き先は、五階ボスを倒すことで一階入口から直通で行けるようになった六階ではない。別のルートを改めて一階から進んでいる。
彼女たちが進むのは『金属ルート』。以前は武器の素材集めで四階まで到達した、鉱石と金属が手に入るルートである。
「≪プリズムチェイン≫にゃ!」
「ミヨキチさん、ナイス!」
数時間かけて既知の金属ルート四階に進み、そして未踏の五階に足を踏み入れたヒマワリたち。
順調に攻略は進み、彼女たちはその勢いのまま金属ルートのボスに挑戦していた。
金属ルート五階のボスは、『ラージストーンゴーレム』。
体高三メートルと、肉ルートのボス『バッファローマン』と同サイズ、『ストーンゴーレム』の二倍の高さを持つ巨大ゴーレムだが……。
「うりゃっ! ≪斬鉄剣≫!」
動きは『バッファローマン』とは違いややゆるやかで、魔法を跳ね返す力もない。ただし、ゴーレムなので頑強であり、武器での攻撃など容易く弾く。
しかし、ヒマワリには、『バッファローマン』との戦いで手に入れた新しい『スキル』、≪斬鉄≫の力があった。
木刀で鉄をも切り裂くその『スキル』。では、鋼の剣で石の塊を斬ればどうなるか。
「よし、膝破壊成功!」
「たたみかけるにゃあ!」
ヒマワリの武器である剣鉈は、バターをナイフで切るかのごとく『ラージストーンゴーレム』の膝に食い込み、半ばまで切り飛ばした。
「≪斬鉄剣≫、もう一発!」
「≪マジックアロー≫にゃ!」
「わふわふわふ、わおん!」
ヒマワリの≪斬鉄≫スキルがもう片方の膝を破壊し、猫のミヨキチが放つ魔法の矢がゴーレムの胸を大きく抉る。
ゴーレムが膝を突いたところで、犬のホタルがゴーレムの背中を駆け登る。そして、≪聖属性攻撃≫の『アビリティ』をまとった体当たりで相手の頭部を吹き飛ばした。
「わあ、みんな頑張ってー!」
そして後方で一人応援し続けているのは、パーティーのヒーラーを担当しているサツキだ。
彼女の魔法攻撃は非生物であるゴーレム相手には効果が薄いため、攻撃には参加していない。彼女の役割は誰かが被弾次第、回復魔法を飛ばすか、他者の頑強さを上げる『アビリティ』である≪メタリックボディ≫が途切れないよう、効果時間に注意を払うことくらいだ。
だが、『ラージストーンゴーレム』相手に誰かが攻撃を受けるという事態は起こらず、サツキは手持ち無沙汰で皆に応援の声を上げるしかやることがなかった。
「うおりゃー、≪斬鉄≫アンド≪上段斬り≫くらえーッ!」
そんな幼馴染みの応援に後押しされたヒマワリは、膝を突き両手も破壊されて前のめりになったゴーレムに、渾身の唐竹割りを放った。
それは、ホタルが破壊した頭部を割り、ミヨキチが破壊した胸まで食い込み、胸の奥にあった何かの塊を真っ二つにした。
「むっ! 手応えあり!」
剣を振り下ろした格好のヒマワリが、キメ顔でそんな台詞を言った。
すると、『ラージストーンゴーレム』の足もとから光があふれ出し、ゴーレムの身体は膨大な量の光の粒になって消えていった。
それと同時に、ミヨキチとホタル、サツキの足元から『レベルアップ』を知らせる光のエフェクトが立ちのぼる。
そしてさらに……。
『称号≪ゴーレムスレイヤー初級≫を取得した!』
ヒマワリの脳裏に、『スキルレベルの神様』の幼い声が響いた。
やがて、全ての光は収まり、その後には戦闘態勢を解いてたたずむ四名と、床に転がるハンドボール大の球体が残された。
ハンドボール大の球体は、『ラージストーンゴーレム』のドロップアイテム。ヒマワリはそれを左手でつかんで拾うと、天に高々と掲げた。
「青熊村ダンジョン金属ルート五階、制覇ー!」
ヒマワリは、サツキのさらに後方に置かれた録画中のカメラに向かって、全力でキメ顔をした。
◆◇◆◇◆
「にゃあー、久しぶりのレベルアップだにゃあ」
カメラを回収して、戦闘後の確認作業に入ったヒマワリたち。
全員で『ステータスウィンドウ』を開き、変化を確認している。
『ジョブレベル』を持たないヒマワリ以外は全員『レベルアップ』しており、ミヨキチがレベル21、ホタルがレベル7、サツキも同じくレベル7となっていた。
そして、ヒマワリはというと……。
「称号≪ゴーレムスレイヤー初級≫。『ゴーレム系モンスターにダメージ増加、被ダメージ減少』、だって」
「『バッファローマン』を倒したときは、≪ビーストスレイヤー初級≫だっけ?」
サツキが、ヒマワリのステータスウィンドウを横から眺めながら尋ねる。
それに対し、ヒマワリはうなずいて答えた。
「うん。この感じだと、『植物ルート』の五階ボスも称号獲得できそうだねぇ」
「『植物ルート』五階は『キラープラント』だったかな?」
「≪プラントスレイヤー初級≫が貰えそう!」
「いいなぁ、ヒマちゃんの称号システム。このダンジョンの『リトルドラゴン』を倒したら、本当の≪ドラゴンスレイヤー≫の称号が貰えるのかなぁ」
「夢が広がるー」
そんな会話をキャッキャウフフと繰り広げるヒマワリとサツキ。
そして、そのかたわらで自身のステータスウィンドウを閉じたミヨキチが、リヤカーに置かれたドロップアイテムの球体に≪物品鑑定≫のアビリティをかけていた。
「この球体は『下級ゴーレムコア』にゃ。それなりの値段で売れるやつにゃあ」
「おっ、マジでー」
鑑定結果の声に反応して、ヒマワリが会話を打ちきってミヨキチのもとへとやってくる。
「『ゴーレムコア』は、六階以降のゴーレムからもドロップするにゃ。ゴーレムの頭脳にして心臓みたいなやつにゃ」
ミヨキチの言葉に、ヒマワリは『ラージストーンゴーレム』を最後に切り裂いたときに胸の奥で破壊した物質が、『ゴーレムコア』だったのかと当たりをつけた。
「『下級ゴーレム』コアは『除雪ゴーレム』とかに組み込めるから、一個三千円くらいで売れるにゃあ」
「うーん、それでも三千円かぁー」
「それくらいじゃないと末端価格が高くなりすぎて、誰も『除雪ゴーレム』なんて買わなくなるにゃ」
「正直、『バッファローマン』のお肉の方が高く売れそうだね!」
「地球にダンジョンが増えて、どんどん肉の値段が下がってきているから、どうかにゃあ」
ダンジョンから消費期限無限の肉が取れるようになって、畜産業には多大なダメージが入ったとされている。
特にここ北海道は、広い土地を活用した畜産家が非常に多い。良くも悪くも、ダンジョンの登場は人類の産業におけるターニングポイントとなっていた。
だが、そんな社会の話は、女子高生でダンジョンシーカーのヒマワリには関係が無い。
ダンジョンで取れた資源がいくらで売れるかさえ把握していれば、後のことは政治家にでも任せればいいと考えていた。
「じゃ、そろそろみんないいかな? 次に進むぞー!」
そうして皆に声をかけたヒマワリはリヤカーを引き、ボスとの戦闘エリアの中央に出現した転移魔法陣に乗った。
「六階へ!」
そう宣言すると同時、ヒマワリたち四名は五階から姿を消した。
そして、全ルート共通の六階である、平原へと転移することに成功する。
彼女たちが転移したのは、平原の中でも草の生えていない石造りの広場だ。
広場の床には巨大な魔法陣が描かれている。モンスターが侵入できないセーフティーエリアだ。
このセーフティーエリアには、三つの施設が存在していた。
一つは、一階へ戻るための転移魔法陣。もう一つは、ダンジョンが用意した公衆トイレ。そしてもう一つが……。
「ふう、前回はくたくたで行く気力がなかったけど、今度こそ遊びにいくよ……ダンジョン商店!」
石造りの二階建ての大きな建物。その入口には、『雑貨屋ヘグサット 青熊村ダンジョン支店』と日本語で書かれた看板が掲げられていた。




