26.ジンギスカン
ダンジョン五階ボス『バッファローマン』の討伐から一夜明けた、日曜日。
パーティー内で話し合い、今日は休養を取ろうということになり、ヒマワリたちは朝からのんびりと過ごしていた。
サツキと二人でSNSを更新し、ダンジョン五階ボス討伐を報告する。
そして夕方。ヒマワリの家の庭先で、ジンギスカンパーティーが開かれた。
参加者は、芝谷寺家の父、母、ヒマワリ、妹のアイ。磯花家の父、母、サツキ。それと、剣崎がゲストとして呼ばれていた。
ヒマワリの剣を打ってもらった報酬が牛肉だけでは足りないと、ヒマワリの父が言い出して、それなら夕食に招こうという話になったのだ。
ついでに猫のミヨキチと犬のホタルも、庭で食事タイムだ。
料理上手のヒマワリの母が特製のタレに漬けた、ダンジョン製ラム肉。それが大量に用意され、ヒマワリとサツキ、そしてヒマワリの妹のアイが、今か今かとジンギスカンの開始を待っていた。
ジンギスカン鍋が庭に二台置かれ、それぞれ大人と子供で別れて座った。人数の関係上、剣崎は子供の席へと案内されたが、手にはビールの五百ミリリットル缶が握られていた。
「それでは、ダンジョン五階制覇を祝って、いただきまーす!」
ヒマワリがパーティー開始の宣言をし、大人たちはビールの缶を打ち合わせて乾杯をした。
それから、一斉にラム肉がジンギスカン鍋に投入されていく。
「いやー、ヤヨイお姉ちゃんがいないのは、残念だねー」
ヒマワリが、ラム肉をどんどん鍋に置いていきながら、そんなことを言う。
「お姉ちゃん、ジンギスカン大好きだもんね」
ヤヨイとは、磯花家の長女だ。サツキの実の姉である。
磯花家の家業である農家を継ぐため、札幌にある大学の農学部に通っている。現在、札幌で一人暮らし中だ。
「お姉さんは、ジンギスカン大丈夫だった? 無理してないといいけど」
今度はヒマワリが剣崎にそう話を振った。
すると、剣崎はビールを飲む手を止め、優しい笑顔で言った。
「いえ、お肉は大好きですよ」
「ああ、報酬で牛肉を選ぶくらいだもんね」
「はい。今から、どう食べるか楽しみです」
「一キロもあるから驚いちゃった」
ヒマワリは、バッファローマンのドロップアイテムである、『ダンジョンスイギュウの高級ヒレ肉』の重量を思い出しながら言った。
「一度開封したら腐り始めてしまいますし、しばらく冷凍室は牛肉に占有されますね」
剣崎はそう笑って、十分に焼けたラム肉を取り皿に移した。
それに続いて、ヒマワリとサツキ、アイも焼けた肉を取って食べていく。
そして鍋に野菜も投入され、楽しい食事の一時は過ぎていく。
「ところで、剣鉈の調子はどうですか? 『バッファローマン』戦で活躍しましたか?」
「あー……」
「それは……」
ヒマワリとサツキは顔を見合わせ、微妙な顔をした。
「何か不具合でも?」
「いやあ、今は無事にロッカーに眠っているよ。でもね」
「でも?」
「戦闘中に真っ二つになっちった」
ヒマワリの告白を聞いて、剣崎は怪訝な顔をする。
ヒマワリがスキル≪斬鉄≫で切り裂いた剣だが、ダンジョンから出た今は元通りの姿になっている。ダンジョンでの戦闘中に破損した道具は、ダンジョンから持ち出せば自動修復されるのだ。
「真っ二つということは、どうやら『バッファローマン』は両手斧タイプだったようですね。でも、そう簡単に折られるようには作っていないつもりだったのですが」
「いや、折ったのは私」
「ん?」
ヒマワリの言葉に、首をかしげる剣崎。
「≪斬鉄≫のスキルを使って、木刀でこう、真っ二つ」
「なぜそのようなことに……」
「うーん、スキルを覚えるために必要だったんだけど、説明が難しい……」
ヒマワリが言いあぐねていると、サツキが持参した荷物からタブレットを取り出して、画面を起動した。
「『バッファローマン』戦の動画を編集したから、見てもらおうよ」
「あ、そうだね」
「えっ、ダンジョンの動画撮ってるの!? 見たい!」
ダンジョンに人一倍興味があるヒマワリの妹アイが、肉をむさぼることを止め、サツキの横へと瞬時に移動した。
それを苦笑して見ながら、ヒマワリは妹に向けて言う。
「本気の戦闘だから、結構ショッキングだよ」
「『ダンジョンハーツ』普段から見ているから、大丈夫!」
『ダンジョンハーツ』とは、ダンジョン動画を投稿するための動画サイトだ。モンスターの血はショッキングピンクだが、人間は普通に赤い血を流して怪我をするため、見る際になかなかの勇気を必要とする場所だ。
最近の小学生は進んでいるなぁ、と思いつつ、ヒマワリはサツキをうながしてバッファローマン戦を再生させた。
遠方から撮っていたはずのそれは、サツキによって上手く拡大を駆使して編集されており、臨場感あふれる動画になっていた。
度重なるピンチに、悲鳴を上げる妹のアイ。一方、剣崎はダンジョンシーカー経験者のため、追い詰められたヒマワリたちを見ても動じてはいなかった。
「よりによって、盾タイプですか。一番の強敵ですね。でも、ここから逆転するのですか?」
そんなコメントを剣崎が発していると、大人たちも興味深げにチラチラとヒマワリたちの方を見てくる。
だが、使っているのはタブレットのため、一度に全員で見るわけにもいかない。ヒマワリは後で見せてあげようと考え、続きをそのまま視聴した。
そして、ヒマワリが木刀を手に取り、剣崎の打った剣を切り裂くシーンが映る。
「おや……もしかして、鉄を斬ることが、『スキル』の習得に必要だったとかですか?」
「お姉さん、すごい。正解!」
ヒマワリが剣崎を指さして、キャッキャと笑った。剣崎は、推測が当たっていたことに内心で喜んだが、ヒマワリたちの前では当然という顔を維持した。デキる大人のお姉さんアピールである。
それから、ヒマワリがバッファローマンに≪斬鉄≫を放ち、盾を破壊するシーンとなる。
そこでアイが感極まったとばかりに歓声を上げ、ヒマワリは得意げな顔で「ふふーん」と鼻を鳴らした。
全員の連携で無事『バッファローマン』が倒されるところまで視聴し、剣崎はほっと息を吐いた。
「なるほど。激戦でしたね。……? まだ動画の時間が残っていますね」
「あー……サツキちゃん、カットしてないの?」
「うん、これも剣崎さんに見せた方がいいと思って」
「? なんでしょうか?」
動画の続きを全員で見ていると、そこから始まったのは神の降臨だ。
そう、神との会話は、しっかりとカメラに映っていたのだ。
「えっ、これは、えっ?」
思わぬ内容に、混乱する剣崎。
一方、アイは事態が飲み込めないのか「ほえーっ」と動画を眺めている。
「で、お姉さん。この動画、どうするべきだと思う? 私としては公開すれば、村のダンジョンが神様の降臨した地みたいになって、村おこしになると踏んでいるんだけど……」
「ええー……困りますよ、こういうの持ってこられると……本当に困ります……」
「困るって言われても、どう考えても、まずはお役所に任せるべき内容だと思うんだよねー」
ヒマワリのその言葉に、剣崎は両手で顔をおおって「困りますー」と首を振った。
そして剣崎は顔から手を離してビールの缶をつかむと、勢いよくあおる。そして、酔いに身を任せ、勢いよく宣言する。
「こういうのは、上に丸投げですね!」
それを聞いたヒマワリは、今度はどれくらい上まで騒ぎになるんだろう、などと思った。
それから、「もうダンジョンの話は聞きたくない」と言いだした剣崎をヒマワリたちはなんとかなだめる。
こうして一騒ぎあったもののしだいに夜はふけていき、ヒマワリは楽しいジンギスカンパーティーを終えたのだった。
以上で第一章『スキル制女子高生と村のダンジョン』は終了です。
休載期間をしばらく置いてから、第二章『スキル制女子高生と夏のきらめき』に続きます。
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