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どさんこ女子高生ヒマワリの地元ダンジョン大攻略  作者: Leni
第一章 スキル制女子高生と村のダンジョン

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21.金属ルート四階の戦い

 テスト明けの土曜日。ヒマワリたちは、朝からダンジョンへとおもむいていた。

 ヒマワリの格好は、いつものジャージ姿ではなく、学校で手に入れた戦乙女風魔法裁縫服だ。

 サツキも賢者風ローブを着こんでおり、少し恥ずかしそうにたたずんでいる。


「ようやく、まともな防具が手に入ったにゃあ」


 二人の服装を見て、満足そうに言う猫のミヨキチ。

 彼女はあまり口には出さなかったが、内心でヒマワリの装備の貧弱さを心配していたのだ。

 たとえパーティーにタンクがいても、前衛として戦い続けると生傷が絶えないことを経験上知っていたのだ。

 そして、ヒーラーの回復魔法や速効性のポーションで傷が治るとしても、痛みは精神的な負担になっていく。


 痛みに耐えられず、ダンジョンシーカーを引退した者をミヨキチはこれまで何人も見てきた。

 ゆえに、二人が防具を手に入れたことに、彼女は心底安心していた。


「お金の支払いは週明けにすることになっているから、今日はお金もしっかり稼がないとね」


 本日の目的は、金属ルート四階での鋼鉄集めだ。だが、それ以外にもドロップアイテムを集め、服代を稼ごうとヒマワリは提案した。


「まっすぐ四階に向かう感じでいいにゃ?」


「うん、それでお願い」


 それから一同は、≪マップ≫のアビリティを持つミヨキチの指示を受けながら、ダンジョンの奥へと向かっていった。


 青熊村ダンジョン低層の地図は村役場に行けば貰えるのだが、ヒマワリたちは地図をしまいこんで表に出してはいない。

 今後、地図が役場に存在しない深層にもぐったときのために、今から事前の地図なしでのダンジョン探索を慣らしているのだ。

 とは言っても、ミヨキチがいるため、他のダンジョンシーカーたちがしているような地図作成(マッピング)は必要ないのだが。


「私とサツキちゃんは防具がこうして手に入ったけど、ミヨキチさんとホタルは防具どうしようか」


 ダンジョン二階を進んでいるときに、ヒマワリがそう話題を振った。

 すると、先頭でホタルの横を歩いていたミヨキチが振り返り、答える。


「あちしはもう防具つけているにゃあ」


「え? どこが?」


「この首輪が防具にゃ。全身に魔力フィールドを発しているにゃ」


「そうだったのかー」


「ダンジョンの店でそれなりの金額を出して買った防具にゃ。だから、少なくとも四階では、致命的な怪我をすることはないにゃ」


「となると、ホタルの防具も首輪になるのかな?」


「犬用の服もあるにゃ」


「あー、ホタルは服とか嫌がるタイプなんだよね」


 ヒマワリがそう言うと、先頭を歩いていたホタルが振り返り、「わふ」と返事をした。

 ヒマワリがホタルの様子をよく見ると、尻尾が垂れ下がっている。


「あの様子じゃ、着る気はないね」


「じゃあ、首輪を買うにゃ。ダンジョン用品をそろえているペット用品店を探すか、ダンジョンの店を使うか、どっちかにゃ」


「今時なら、ネット通販もありじゃない?」


 横から、サツキがそんな提案をする。

 だが、ミヨキチがそれを否定した。


「駄目にゃ。通販だと、事前にあちしの≪物品鑑定≫の『アビリティ』がかけられないにゃ。少しでも良い物を選ぶにゃ」


「このお猫様、買い物上手すぎる……!」


 ちゃっかりしているミヨキチに、ヒマワリはそんな突っ込みを入れた。


 そんなやりとりを交わしつつ、一同は三階へと入る。

 岩場の凹凸が少ない道を進んでいく。だが、道をふさぐようにゴーレムが点在しており、それを全員で対処していく。


「てりゃっ!」


 赤いオーラをまとった木刀で、『ストーンゴーレム』を打ち砕くヒマワリ。≪遠当て≫を撃つわけではなく、あくまで闘気を練ったまま攻撃しているだけだ。

『ストーンゴーレム』を倒し、ドロップアイテムの『銅のインゴット』を回収したヒマワリに、サツキが声をかける。


「今日は≪魔法剣≫じゃなくて≪闘気熟練≫を使っているんだね」


 サツキが言ったのは、どちらもヒマワリが持つ『スキル』の名だ。≪魔法剣≫は青白いオーラ、≪闘気熟練≫は赤いオーラを木刀にまとう。そのため、一目見るだけでどちらを使っているかが判るのだ。


「師匠から今、新しい『アビリティ』を教えてもらっているんだ。≪斬鉄剣≫ってやつ」


「じゃあ、さっきのが≪斬鉄剣≫?」


「いや、まだ『スキル化』していないから、練習中。≪遠当て≫スキルは闘気を剣先から飛ばすイメージですぐに習得できたけど、≪斬鉄剣≫はよく分からないんだよねー」


「そうなんだ。でも、練習するだけで、新しい技が使えるようになるのはすごいよね」


「普通の人だと、『レベル』を上げるしか、新しい技を覚える手段ないもんね」


『スキル』の力を持つヒマワリは、様々な行動が『スキル化』して、それを育てられるという強みがあった。

 その一方で、『スキル』を意図的に育てないと、『ステータス』の基礎能力が伸びていかないという欠点もある。

『スキル』を育てる努力を欠かさない人間にしか使いこなせない力だと、ヒマワリはこれまでの経験から感じていた。


『ジョブ』持ちの一般人の場合、モンスターを大量に狩れば『レベル』が上がって基礎能力が伸びる。『ジョブ』に応じた偏りがあるものの、多くの項目が全体的に伸びていく。

 だが、ヒマワリの場合、木刀でモンスターを狩っても、≪片手剣≫と≪両手剣≫のスキルレベルに連動して、力強さと器用さの二項目が伸びるのみである。


 日々精進あるのみ。ヒマワリはそう気合いを入れて、ダンジョン探索を再開した。

 そしてヒマワリたちパーティー一行は、四階へと続く魔法陣を発見する。


 リヤカーを引きながらヒマワリが魔法陣の上に乗り、「転移」と宣言する。すると、転移した先には、それまでの階層とは違い、上方向に空がなかった。


 ヒマワリが立っているのは、岩場をくりぬいて作られた洞窟の中。しかし、洞窟と呼ぶには場が整然としすぎている。

 地面は凹凸が少ない平らな道で、壁は地面と垂直になっている。

 天井も平らで、人の手が入っていることを感じさせる、そんな洞窟だった。

 そして、壁にはところどころに光を発するランプが吊り下げられていて、洞窟の中を照らしていた。


「坑道かにゃ」


 そんなミヨキチの言葉を聞いて、ヒマワリは納得する。ここは、人が掘った鉱山の内部を模した、坑道ダンジョンなのだと。

 坑道の道幅は横五メートルほど。リヤカーは問題なく引いていけるが、戦闘で激しく動くとすぐに壁にぶつかりそうな、そんな微妙な道幅だった。


「≪マップ≫を見る限りだと、結構入り組んでいるにゃ。なかなかの迷路だにゃ」


「おー、ダンジョンっぽい!」


 ミヨキチの説明に、テンションを上げてヒマワリがそんなことを言った。

 それに対し、ミヨキチが言葉を返す。


「今までだって、十分ダンジョンだったにゃ」


「いやー、そうじゃないんだよねぇ。フィールド型じゃない、入り組んだ道を進む迷路が、ゲームにおける一般的なダンジョンだよ!」


「あちしはゲームとかしないので、そんなの知らないにゃ」


 確かに、肉球じゃコントローラーは握れないなと、ヒマワリはミヨキチの前足を眺めながら思った。


「ともかく、道はせまいにゃ。モンスターと遭遇したら、確実に戦闘になるにゃ」


「今回はモンスター狩りが目的だから、ばっちこいだね」


 ヒマワリがそう言うが、ミヨチキが冷淡に言葉を返す。


「ちなみに、ちょっと行った先にモンスター三体の反応があるにゃ」


「いきなり三体! きっつー」


「でも進むしかないにゃ。気合い入れるにゃ」


 そうして、皆は気持ちを切り替えて坑道を進み始める。

 しばらく歩いたところでミヨキチが警戒の声をあげた。そこから、慎重に進むと、壁からゴーレムの腕が生えてきた。


「うはー、ミヨキチさんがいなかったら、不意打ちくらいそう」


 リヤカーを止めて、ハンドル部分から脱出しながらヒマワリが言う。


「『オーアゴーレム』にゃ。『ミネラルゴーレム』より固いから注意するのにゃ」


 計三体のゴーレムの身体には、鉱石らしき赤茶けた部分が混ざっていた。

 壁から身体を生やしていくゴーレム。まだ壁から完全に分離しきっていないそこに、ヒマワリが駆けていく。そして、赤いオーラの木刀を叩きつけた。


「≪斬鉄剣≫! ……斬れない!」


「≪ケミカルニードル≫! ……木刀で鉱石が斬れたらびっくりだね」


≪斬鉄剣≫ではない、ただの闘気の一撃を放ったヒマワリ。それを追うように、サツキも攻撃魔法を撃ちこんだ。

 だが、『オーアゴーレム』の身体は固く、身体が少し欠けた程度で致命傷にはほど遠い。

 そこに、さらに追加でミヨキチの魔法が飛んだ。


 レベル20の『ワイズマン』が放つ≪マジックアロー≫は、一発で『オーアゴーレム』の胸部を砕き、ゴーレムは光になって消えていった。

 そして、残る二体が完全に壁から身体を生やしきり、動き出す。そこにホタルが駆けていき、二体のゴーレムに続けて体当たりをした。そのホタルの身体からは、銀色のオーラが立ち上っていた。

 ホタルが持つ≪聖属性攻撃≫のアビリティだ。

 これは、アンデッド系モンスターや悪魔系モンスターに有効な、聖なる一撃を与えるアビリティ。だが、それ以外のモンスターに対しても、ある程度有効だった。


 通常のモンスターにも≪聖属性攻撃≫が効くという事実は、三階で『銅のインゴット』狩りをしている最中に判明した。

 アビリティの使用には魔力を消費するものの、固いゴーレムに対し効果のある一撃を撃ち込める。そのためホタルは、積極的に≪聖属性攻撃≫を使って、『アビリティ』の熟練度を上げようとしていた。


 ホタルの体当たりを受けた二体の『オーアゴーレム』は、ホタルを優先的に排除すべき敵と認識した。

 ゴーレムたちは腕を振り上げて、足元のホタルを攻撃しようとする。

 しかし、ホタルは器用に『オーアゴーレム』の間を走り回り、攻撃を華麗に避けていった。


 そこに、ヒマワリが駆けていって、手前側にいた一体に闘気の一撃を叩き込む。

 ヒマワリの手に固い物を殴った衝撃が返ってくるが、彼女は気にせず、二発、三発と木刀を叩きつけていった。


 対する『オーアゴーレム』は、右腕を横に薙いでヒマワリを吹き飛ばそうとする。

 だが、ヒマワリはしゃがんでこれを避けた。

 しゃがんで身動きが取れなくなったヒマワリに向けて、今度はゴーレムが左腕を振りかぶる。

 被弾を覚悟するヒマワリだが、そこにミヨキチの援護が飛んだ。


「≪プリズムチェイン≫にゃ!」


 虹色の鎖が地面から生えてきて、『オーアゴーレム』の左腕に絡みつく。

 そして、さらに鎖は伸びていき、ゴーレムの全身を拘束した。

 危機から脱したヒマワリは、ほっと息を吐き、すぐさま立ち上がる。


「ミヨキチさん、ナイスッ」


 動きが完全に止まったゴーレムをヒマワリが木刀でめった打ちにする。

 ヒマワリの気合いとスキルの闘気がこもった打撃は、確実にゴーレムの頭部を破壊していく。やがて頭部は砕け散り、ゴーレムの身体は光へと変わった。


 そして、残るは一体。

 その一体の足は、ホタルの攻撃によりボロボロになっており、ゴーレムは片膝を突いていた。


 そこへ、冷却期間(クールタイム)が空けたミヨキチの≪マジックアロー≫が炸裂し、『オーアゴーレム』は完全に沈黙して光となった。


「いよっし、大勝利!」


 木刀を天にかかげ、ヒマワリが勝利のポーズを取る。

 ヒマワリたちパーティーにとって初めてとなるダンジョン四階の戦いは、こうしてヒマワリの宣言通り、大勝利で終わった。


次回更新は9月4日(月)です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョンで死を経験して引退する人もいそう
[良い点] 更新乙い [一言] 斬鉄!! 木刀で斬ろう、是非斬ろう そのうち手やら足やらでも斬れるようになったりならなかったり
[一言] ヒマワリちゃんの基礎能力はそういう伸び方だったのかあ バランスよく育っていくのは大変そうだなあ
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