表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どさんこ女子高生ヒマワリの地元ダンジョン大攻略  作者: Leni
スキル制女子高生と村のダンジョン
18/26

18.金属ルート三階

 ミヨキチが持つ≪マップ≫のアビリティにより、すんなり三階への転移魔法陣を見つけたヒマワリ達。

 彼女達が三階へ転移すると、目の前に広がっていた光景は広大な岩場だった。


「こりゃまた、歩きにくそうなフィールドだね」


 リヤカーを引きながら、ヒマワリが言う。


「登山靴が欲しくなるね」


 岩場を眺めながら言ったサツキが履いている靴は、スニーカーだ。


「足元に気をつけて進もうか」


 同じくスニーカーのヒマワリが、そう皆に声をかけて先に進み始めた。

 岩場には凹凸の少ない道らしき部分があり、そこを選んで歩いていく。先頭はタンクであるホタルだ。


「≪サーチ≫……にゃ、この先に二体、敵がいるにゃ」


「特に姿は見えないけど」


 遠くを見渡しながらヒマワリが言うが、ミヨキチがそれに答える。


「二階と同じにゃ。岩場に擬態しているにゃ」


「なるほどー。でも、二体かぁ。ホタルだと一体しか引きつけられないよね」


「ヘイトを稼ぐアビリティがそのうち生えるのを期待するにゃ」


「わふ」


 ヘイトとは敵愾心(てきがいしん)を意味する用語だ。モンスターの注目を集めて攻撃を引きつけることを『ヘイトを稼ぐ』と言う。タンクにとっては必須の技術だが、ホタルはまだヘイトを稼ぐようなアビリティを習得していない。


「ホタルはまだレベル2だもんね。レベル5は遠いなぁ」


 アビリティは、レベルが五の倍数になるたびに新しく一つ習得する。今日まで積極的にモンスターを倒してこなかったということもあり、ホタルとサツキは未だにレベル2で止まっていた。


「多分、もうすぐ上がるにゃ」


「だといいけど。それじゃ、一体はホタルが、もう一体は私が受け持つよ。その間に、ミヨキチさんとサツキちゃんで魔法攻撃を撃ち込んで倒そう」


 ヒマワリのその指示に皆が了承し、パーティー一同は道を進んでいく。

 そして、二つの大きな岩がある場所に来たところで、その岩が変形し始める。片方はストーンゴーレム、もう片方はヒマワリが初めて見るタイプのゴーレムだ。岩の身体に、結晶がところどころに生えている。


「片方は『ミネラルゴーレム』にゃ! もう片方の『ストーンゴーレム』より強いにゃ!」


「ホタル、ミネラルの方を担当お願い!」


 ヒマワリの指示に、ホタルはミネラルゴーレムへと駆けていく。

 そして、ヒマワリは立ち上がろうとしているストーンゴーレムの方へと向かっていった。


「サツキ、弱いストーンゴーレムから狙うのにゃ」


「うん!」


 ヒマワリが二メートルあるストーンゴーレムの胴体に≪魔法剣≫を打ち込んで、注意を引きつける。

 その隙に、ミヨキチの≪マジックアロー≫とサツキの≪ケミカルニードル≫が発動。ストーンゴーレムの胸部を破壊した。

 ミヨキチはレベル20と、この階では明らかにオーバースペックなため、その魔法一撃でストーンゴーレムは光に還った。


「いよっし! ホタル、援護するよ!」


 ストーンゴーレムの討伐を確認したヒマワリは、ホタルのもとへと駆けていく。ホタルは、二メートル大のミネラルゴーレムの足元をうろつき、攻撃を華麗に避けていた。

 あと一歩で木刀の攻撃圏内に入る。そんなとき、突然ヒマワリは何かに足をつかまれ、その場に転げた。


「あいたあっ」


「ヒマちゃん!?」


 ヒマワリの苦痛の声と、サツキの叫びが岩場に響く。

 固い地面に身体を打ったヒマワリが、痛みに耐えながら足元を見る。すると、なんと地面から岩でできた手が生えていて、ヒマワリの左足首をつかんでいた。


「な、なにこれ?」


 混乱するヒマワリに、ミヨキチの声が届く。


「ストーンゴーレムが新しくポップしたにゃ! 急いで手を破壊しないと握りつぶされるにゃ」


 ポップとは、ダンジョン内に新しくモンスターが生まれてくる現象である。

 つまり、ヒマワリは運悪く、生まれたばかりのモンスターに足をつかまれたのだ。


「こんの!」


 足をつかむ手に木刀を叩きつけるヒマワリ。だが、姿勢が悪く、威力が十分に乗っていない。そのため、岩の手はびくともしていない。

 その間にも、地面からストーンゴーレムの腕が上へと伸びていき、ヒマワリは宙づりにされそうになる。


 そして、次はホタルの「キャイン」という悲鳴が周囲に響きわたった。


「ホタル、どうしたの!?」


 ヒマワリが身体を逆さまにされそうになりながらホタルを見る。

 するとそこには、ミネラルゴーレムの打撃を身に受けているホタルの姿があった。そのミネラルゴーレムの攻撃は、明らかにヒマワリを狙ったものだ。ホタルは、ヒマワリをかばったのだ。


 さらにミネラルゴーレムが腕を振り上げ、ホタルを狙おうとする。その間にも、ヒマワリの足首を握る力はどんどん強くなっていっている。


「くっそお!」


 ヒマワリは一か八か、≪遠当て≫スキルでミネラルゴーレムを迎撃しようと闘気を高める。


「≪ケミカルニードル≫!」


 そこでサツキの魔法が飛び、ミネラルゴーレムの足に命中。衝撃でミネラルゴーレムをよろめかせることに成功した。


「≪マジックアロー≫にゃ!」


 さらにミヨキチの魔法が、ヒマワリの足首を握っているストーンゴーレムの腕の根元に命中する。

 ストーンゴーレムの腕は千切れ、ヒマワリの足が解放された。

 そこへダメ押しとばかりに、ミヨキチが連続で魔法を放つ。


「≪プリズムチェイン≫にゃ」


 虹色に輝く鎖が地面から生えてきて、ミネラルゴーレムを拘束する。ミヨキチが持つ、数少ない戦闘用アビリティの一つだった。


「魔法はこれで打ち止めにゃ。ヒマワリは、しばらく自力で頑張るにゃ」


 一部のアビリティには、冷却期間(クールタイム)と呼ばれる概念が設定されている。

 一度使ったアビリティは、一定時間経たないと再使用ができないのだ。


「いよっし! って、あいたたた」


 ヒマワリは立ち上がったところで、足首の痛みに叫び声を上げる。

 それを見たサツキは、≪ヒーリング≫を撃とうとするが、視界によろめくホタルの姿が入ってきて、どちらを回復させるか判断に迷ってしまった。


「ヒマワリを先に回復させるにゃ!」


「……ッ! ヒマちゃんに≪ヒーリング≫!」


 ミヨキチの指示を受け、サツキが回復魔法をヒマワリに飛ばした。

 すると、ヒマワリの足首から痛みが消え、彼女は岩場に足を踏ん張り木刀を上段に構えた。

 狙うは、地面から胴体が生えかけのストーンゴーレム。腕が片方消し飛んでいるが未だに健在なそれに、ヒマワリは練ったままだった闘気を使って≪遠当て≫を放った。


 衝撃波と木刀の一撃が同時にストーンゴーレムを襲う。ゴーレムの頭部は粉々に砕け、地面から生えかけていたゴーレムは光になって消え去った。


「よし、残るは一体!」


 ヒマワリは、瞬時にミネラルゴーレムに振り返り、木刀を構える。

 ミネラルゴーレムは虹色の鎖に拘束されて動けないままだ。そのゴーレムに、ヒマワリは≪魔法剣≫をまとった木刀を何度も叩きつけた。


「うおお、固い!」


「木刀の性能限界にゃあ。あ、≪マジックアロー≫にゃ」


 冷却期間(クールタイム)が空けて、ミヨキチの攻撃魔法がミネラルゴーレムに飛ぶ。

 すると、ミネラルゴーレムの胴体に風穴が空き、光になってドロップアイテムを残した。

 それと同時に、ふらついていたホタルの足元から光の渦が立ち上る。レベルアップしたのだ。


「ふへー、疲れた」


 モンスターが消え去ったことを確認したヒマワリが、その場に座りこむ。

 一方、サツキはホタルのもとへと駆け寄っていき、≪ヒーリング≫の魔法を使った。


 それからしばし休息を取ったヒマワリは、立ち上がってドロップアイテムを回収した。


「ストーンゴーレムからは鉄インゴットと銅インゴット、ミネラルゴーレムからはー、これ、水晶かな?」


 ヒマワリの手には、手の平ほどのサイズの水晶が握られている。


「透明な石英の結晶、いわゆる水晶で正解にゃ」


「綺麗だねー」


「記念に取っておくかにゃ?」


「初めて怪我した記念! 縁起悪そう!」


「それを見るたび、装備の大切さを噛みしめるにゃ」


「うへえ」


 苦い顔をするヒマワリだが、そんな彼女の表情をサツキがデジカメで激写した。


「ともあれ、ストーンゴーレムが銅を落とすと判ったにゃ。どんどん狩っていくにゃ」


「今度は足元に気をつけないとね……」


「足元にピンポイントでポップは、そうそう起きないにゃあ」


 今回ばかりは運が悪かったヒマワリだった。


 その後も三階を回り、ストーンゴーレムを重点的に倒していくヒマワリ達。だが、相手はアクティブモンスターのため、どうしてもミネラルゴーレムによる襲撃も来る。

 ミネラルゴーレムには、ヒマワリの木刀はなかなか効きにくかった。


「むう、やっぱり木刀には限界が……」


 ゴーレムを散々殴って未だにヒビ一つ入っていない木刀を見ながら、ヒマワリは装備の更新を本気で考え始めた。

 そして、午後四時を回ったところで、ヒマワリ達は三階から地上へ帰還することになった。


「武器を買うか、作ってもらうか……」


「ヒマちゃん、作ってもらう伝手でもあるの?」


 ヒマワリのつぶやきを耳ざとく聞きつけたサツキが、ヒマワリにそう尋ねる。


「うん、剣崎のお姉さんが、ロボテック・ブラックスミスっていうジョブで≪鍛冶≫のアビリティを持ってるんだ」


「ロボテック……?」


「パワードスーツとかロボットとか作れるらしいよ」


「うわあ、見てみたい」


「今度見せてもらおっか」


 そんなやりとりをしながら、皆で三階の道を戻っていく。

 リヤカーにはドロップアイテムがたっぷり積まれており、さらにホタルがレベル3に、サツキも帰り道でレベル3に到達した。

 リヤカーを投入した初めての本格的な探索は、上々な戦果で終わった。だが、戦闘には課題も多かった。明らかな装備不足を自覚しながら、ヒマワリはダンジョンをあとにした。


次回更新は8月26日(土)です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 剣崎さんそういうジョブが生えるって事は元々ロボとかメカとか好きだったのかな? ガンダムとかアーマード・コアとかアイアンマンとか好きなのかな?
[一言] 逆に木刀にヒビも入ってないのがすごいですよね。 攻撃力はともかく、他に使い道はあるかな?
[良い点] 更新乙い [一言] マドハンド状態!! 木刀ちゃん…… 使い続けたら木刀マスタリーとか出てこないかなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ