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どさんこ女子高生ヒマワリの地元ダンジョン大攻略  作者: Leni
第一章 スキル制女子高生と村のダンジョン

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12.メディカル・スペルキャスター

 サツキとヒマワリはしばらくはしゃぎ続けた。そしてようやく落ち着いたところで、あらためて全員でサツキの『ステータスウィンドウ』を確認する。

 サツキの『ステータスウィンドウ』の一ページ目は、以下の通りだ。


名前:磯花(いそばな)サツキ

年齢:16

ジョブ:メディカル・スペルキャスター

レベル:1

習得アビリティ:応急手当 ()やしの心得 ヒーリング キュアポイズン ケミカルニードル


「やったね、医療系の『ジョブ』だよ! 大当たりだよ!」


 ヒマワリはサツキの手を取り、我がことのように喜んだ。

 サツキも遠慮がちに笑みを浮かべて、ヒマワリに対して言う。


「うん、ずっと回復魔法が使える『ジョブ』に就きたかったから、嬉しい……!」


「ここ数年、神社のお参りかかさなかったもんね。神道関係で回復魔法使えるジョブが生えるか分かんないっていうのに!」


「えへへ、でも、それだけの行動で回復魔法が使えるようになったのなら、またお参りしなきゃ」


「ええ子や……! でも、大当たりのジョブ引くとは、やっぱり青熊村ダンジョン最高やな!」


 日本のダンジョンシーカーに伝わる、とある都市伝説がある。曰く、『ジョブ』と『レベル』を司る『ジョブレベルの神様』は長く病気をしていて、その間ずっと地球にいる生物へ『レベル』の力を与えられなかった。

 十年前にようやく病気が癒え、とうとう地球に『ジョブレベルシステム』を導入することができた。

 そして神様は長く病んでいた経験から、医療系『ジョブ』を優遇して優秀なアビリティをそろえている。嘘かまことか、そう言われていた。


「『ジョブ』に当たり外れはない……と指導員の立場からは言いたいですが、たしかにヒーラーが持つ治療関連の『アビリティ』は、熟練度が低いうちから高い効力を発揮します」


 剣崎が、『スライム』を倒した後の金属箱からドロップアイテムを回収しながら、ヒマワリたちにそう告げた。

 ちなみにヒーラーとは、戦闘中に仲間の治療を担当する役職のことを指すゲーム用語だ。


「さて、それでは習得した『アビリティ』の体験をしていきましょうか。とはいっても、一階では≪キュアポイズン≫は試せませんね。≪ヒーリング≫と≪応急手当≫も、怪我をしなければ試せないですし、≪癒やしの心得≫は治療系『アビリティ』の効力を上げる『パッシブアビリティ』。試せるのは≪ケミカルニードル≫だけでしょうか」


『パッシブアビリティ』とは、能動的に使用する通常の『アビリティ』とは違い、取得しているだけで常に効果を発揮し続ける『アビリティ』のことだ。持っているだけで力が強くなる≪腕力上昇≫や、剣の腕前が上がる≪刀剣の心得≫などのアビリティが確認されている。

 そんな剣崎の言葉に、ヒマワリはふとした疑問が浮かぶ。


「≪応急手当≫と≪ヒーリング≫って何が違うの?」


 それに答えたのは、『ステータスウィンドウ』で『アビリティ』の詳細を確認していたサツキだ。


「≪応急手当≫は道具を使った治療の効果を高める『アビリティ』で、≪ヒーリング≫は外傷を治す魔法だね」


「なるほどー。≪ケミカルニードル≫は?」


「薬の効果を持つ針を飛ばす攻撃魔法だって。熟練度が低いうちは、痺れ薬しか使えないみたいだけど」


「攻撃魔法も完備しているのかー。さすが大当たり『ジョブ』だね」


 そういうわけで、サツキは≪ケミカルニードル≫を試してみることにした。

 適当にそこらをコロコロと転がっている『スライム』に向けて、サツキは鉄パイプを魔法の杖のごとく突きつける。


「≪ケミカルニードル≫!」


 すると、鉄パイプの先端から、半透明の太い針が飛んでいき、『スライム』に突き刺さる。

 針を受けたスライムは、その場で四散して光になった。


「おお、一撃だね」


 サツキを見守っていたヒマワリが、感嘆(かんたん)する。


「でも、これだと、薬の効果が確認できないにゃあ。魔力の消費を抑えるイメージで撃ってみるにゃ」


 ミヨキチのその言葉に、サツキはうなずく。

 そして、もう一匹のスライムを見つけて、≪ケミカルニードル≫を放った。

 しかし、小さな針が命中したスライムは弾け飛び、光になって消えていく。


「これ以上は、弱くできないよー……」


 サツキが困ったように言う。その様子を見ていた剣崎は、一つの提案をした。


「最小威力にしたものを『アルミラージ』に向けて撃ってみませんか?」


「えっ、スライム以外にですか……?」


 不安そうにサツキが問い返す。


「はい、『アルミラージ』は『スライム』の倍以上の耐久力があります。『スライム』と違って薬が効きそうな見た目をしていますし、試すにはほどよい相手でしょう」


「でも、薬が効かなくて、反撃で襲われたら……」


「大丈夫です。もし近づいてきたら、私が守りますから」


 剣崎がハンマーの柄をポンポンと叩き、サツキに向けて言う。

 サツキは、それならばと、『アルミラージ』を相手にすることに決めた。


 そこらを跳ね回る『アルミラージ』を見つけ、動きが止まったところで、サツキは『アビリティ』を宣言する。


「≪ケミカルニードル≫!」


 最小に威力にしぼった針が『アルミラージ』に飛んでいき、背中に突き刺さる。

 すると、アルミラージはその場にこてりと倒れ、ピクピクとけいれんを始めた。

 それを見ていたヒマワリは、またまた感嘆する。


「すっげー。あれ、『スキル』で覚えられるかなぁ」


 そんなことを言ったヒマワリに、横からミヨキチが言う。


「あの子はパーティーメンバー候補だにゃ? 仲間の『アビリティ』を無理にスキル化する必要はないにゃ。役割分担が重要にゃ」


「そっか。サツキちゃんが使えるのに、私が重複して覚えても意味ないんだ」


「時間は有限にゃ。ヒマワリは、今のうちは剣技と魔法剣を鍛えるにゃ」


「うん、そうする!」


 ヒマワリはミヨキチから魔力の扱いを教えられた結果、≪魔力熟練≫のスキルと≪魔法剣≫のスキルを新たに習得していた。

 攻撃魔法に関しては、今後ミヨキチが『レベルアップ』した際に新たに習得する可能性があるため、ヒマワリは特に練習をしていない。特訓に費やせる時間も限られているため、ヒマワリは剣を重点的に鍛えることに決めた。


「≪ケミカルニードル≫!」


 薬の効果が十秒ほどで切れて『アルミラージ』が動き始めたため、サツキは再度攻撃魔法を放ち、『アルミラージ』を光に変える。

 ドロップアイテムとして『アルミラージ』の額に付いていた角がその場に残り、それを剣崎が回収する。ダンジョン研修で出たドロップアイテムは、すべて指導員が回収する決まりだ。研修を受ける者の手には渡らないようになっている。


 ちなみに『アルミラージの角』は、薬品の材料になる。どこのダンジョンにでもいる『スライム』と違って、『アルミラージ』は出現するダンジョンが限られている。そのため、角一個あたり三十円ほどと、一個十円の『スライムコア』よりやや高値で売れる。


「はい、ではアビリティの使用はこんなところでいいでしょう。≪応急手当≫は道具がないですし、≪ヒーリング≫は怪我をするわけにもいきませんので、実戦で試してみてください」


 そんな剣崎の言葉に、ヒマワリは横から口を出す。


「≪ヒーリング≫試そうよ」


「怪我をするわけにはいかないでしょう。私のハンマーで誰かを殴るのですか?」


「そこまでは言ってないよー。『アルミラージ』にちょっと突かれればいいよね」


「残念ながら私の基礎能力の高さだと、『アルミラージ』の先端が丸い角程度では、突進されたところで痛みすらありません」


「なら、私が攻撃受けてくるね!」


 剣崎が止める間もなく、ヒマワリはそこらを飛び回る『アルミラージ』に突撃していく。

 そして、木刀で軽く小突くと、『アルミラージ』はヒマワリを敵と認識し、ヒマワリに向けて突進してきた。


「あいた! うわー、≪痛み耐性≫と≪頑強≫のスキル生えた! 何気に初ダメージ!」


「わわっ、ヒマちゃん! ≪ヒーリング≫!」


 角で突かれた痛みでふとももを押さえるヒマワリに、サツキはあわてて回復魔法を飛ばす。

 すると、ヒマワリのふとももを襲っていた痛みがスッと消える。


「おお! 痛いのがなくなった!」


 すると、再度『アルミラージ』が突進の姿勢に入ったので、ヒマワリは闘気を込めて木刀を振るい、衝撃波を飛ばして『アルミラージ』に攻撃する。

『アルミラージ』は光となって消え、ドロップアイテムの角を残した。


「もう、ヒマちゃん、無茶して!」


 サツキがヒマワリに詰め寄り、急な行動を(とが)める。


「いやいや、今後一緒にパーティー組むなら、私が怪我することも普通にあるよ。だから、慣れておかないと」


 ヒマワリがそう言うと、じっと地面に伏せていた犬のホタルが耳をピクリと動かし、「わう」と小さく吠えた。

 その様子を見ていたミヨキチが、ヒマワリに向けて言う。


「多分、ヒマワリは私が守ると、ホタルは言いたいみたいにゃ」


「あ、そうだね。私たちのパーティーには、タンクがいるもんね!」


 ヒマワリは、頼もしい主張をしたホタルのもとへと走り寄っていき、わしわしと頭をなでだした。

 そんなやりとりを横で見ていた剣崎は、感心したように言う。


「タンク、ヒーラー、近接アタッカー、魔法アタッカー兼サポーター。バランスが取れた、良いパーティーですね」


「パーティーを組むには、私がダンジョン入場資格を取得しなくちゃいけませんけどね」


 不安そうな顔で、サツキがそう言った。

 そんなサツキの言葉に、剣崎は次のダンジョン入場資格の免許証が得られる試験日程がいつだったか思い出す。


「試験日は、確か次の日曜日でしたか」


「はい。勉強はしていますけど、受かるでしょうか……」


「落ちる人もそれなりにいますが、しっかり勉強してあるなら大丈夫ですよ」


 それから数匹『アルミラージ』を倒した後、サツキのダンジョン研修は無事に終了した。

 やがて日曜日が訪れ、隣町でダンジョン入場資格試験が行なわれた。

 即日で試験結果が発表され、サツキは見事に合格した。


 こうして、青熊村の若手二人と、猫と犬のパーティーは無事に結成されることになった。

 人間のメンバーが二人になったことで、ダンジョン内での撮影が容易になり、ヒマワリは青熊村の地域振興目指して本格的に活動を始めることになる。


 彼女たちがまず目指すのは、ダンジョンの五階制覇。

 新米ダンジョンシーカーの最初の壁となる、ダンジョン六階へ続く道の門番、ボスモンスターの討伐である。


次回は8月8日(火)の更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >医学生志望みたいな人は専門性のないふわっとしたジョブについて、あとは本人のどんなアビリティが欲しいかの願望によってアビリティを習得していきます。 専門医は最初から専門のジョブにつく可能性が…
[一言] いきなり攻撃くらいに行くのは流石にあぶねえw ただ≪痛み耐性≫と≪頑強≫がこんな低い階層でサクッと取れたのはソレはソレでかなり美味しいですね 今後を考えると鍛えたいスキルですが鍛えるの辛そう…
[一言] 将来有望スゴイヒーラー爆誕! バランス良いぱーてーメンツですねホント。あと必要なのは斥候系?エネミー探知罠探知罠解除……デスいトラップがこの世界のダンジョンに設置されてるのかどうかはまだ不…
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