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どさんこ女子高生ヒマワリの地元ダンジョン大攻略  作者: Leni
スキル制女子高生と村のダンジョン
10/26

10.ウィスパーなう

 学校の昼休み、ヒマワリは幼馴染みのサツキと一緒に、SNSの運用方針について確認をしていた。

『芝谷寺ヒマワリ@青熊村ダンジョンシーカー女子高生』を名乗るそのウィスパーアカウントは、既にフォロワー数二万人を超え、ヒマワリが発信したささやき(ウィスパー)には、良質な発言を応援する『いいね』と、ウィスパーを他者に拡散する『ラウド』が、それぞれ大量に押されていた。


「個別の返信はしなくていいんだよね?」


 スマホを見ながら、ヒマワリはサツキに確認を取る。


「うん、キリがないからね。議論を吹っかけられても、反応しちゃ駄目だよ。下手したら炎上しちゃう」


「燃えるのかー」


 ヒマワリの脳裏には、敦盛を舞いながら本能寺で焼け死ぬ、織田信長のビジョンが思い浮かんだ。


「ヒマちゃんにとって、とても役立つ情報をくれた人には、お礼のリプライを返してもいいかもね。あ、リプライは返信のことね。リプとも言うよ」


「それくらい知ってらあ」


「どうかなー? ヒマちゃん機械音痴だからなー」


「何もしていないのに壊れた!」


「昔のパソコンは、本当に何もしていないのにフリーズしたらしいね……」


「スマホが何もしていないのに壊れた!」


 ヒマワリはおどけて言うが、いざとなったら本当にその言葉でサツキに頼ってやろうと思っていた。どんな反応が返ってくるか気になるのだ。

 ちなみにサツキは自称パソコンオタクだ。

 ダンジョン内で本格的な動画を撮影したら、編集は自分に任せてほしい。以前サツキはヒマワリにそう告げていた。


 ダンジョン内の動画は、人が怪我をしたり血が出たりするので、通常の動画投稿サイトには投稿ができない。ダンジョン専門の動画投稿サイト『ダンジョンハーツ』というサービスがあり、そこへ投稿する必要がある。ヒマワリ達は、そこのアカウントも取得済みだ。

 すでにヒマワリが≪遠当て≫と≪魔力剣≫のスキルを使う様子を撮影しており、サツキが編集した動画を昨日投稿したばかりである。


「ヒマちゃんのドロップアイテムが持ちきれない問題も、すごい量のリプが付いているね」


「なんか、そこからダンジョンあるあるが繰り広げられている……。微妙に参考になるわぁ」


「あ、このリプなんて参考になるんじゃないかな。リヤカーがオススメです、だって」


 サツキがよさげなリプライを見つけたと、ヒマワリの目の前に自分のスマホをかかげた。

 それをヒマワリはさっと読んで言う。


「ふむふむ。リヤカーかぁ。村では結構見るけど、うちにはないなぁ」


「ヒマちゃんちは農家じゃないもんね」


「サツキちゃんちにはある?」


「うちも余っているのはないかな。物が運べそうな道具はソリくらい」


「ソリは草地なら運べそうだけど、ダンジョン入場施設はコンクリ製だからなぁ。底が削れちゃう」


「そうだよね。猫車でもあれば、使えるんだろうけど……」


 むむむとうなりだしたサツキ。ちなみに猫車は一輪車で車高が低いため、長距離の運搬には向いていないことをサツキは知らない。

 一方、ヒマワリも何かないかと思案するが、ふと思い出す。


「そういえば、うちにはあれがあった!」


「え、なになに?」


「折りたたみ買い物カート! お母さんが村の雑貨屋さんへ買い物に行くときに、たまに使っているやつ!」


「わー、それよさそう!」


「でしょー。今日、早速使ってみるよ!」


 そうしてダンジョンでのアイテム運搬問題は、この場では一応の決着を見せた。

 やがてヒマワリ達は、写真投稿SNSのウィンスターのチェックも始めるのであった。




◆◇◆◇◆




「というわけでぇ、持ってきました買い物カート!」


 ダンジョン入場施設の入場門で、ヒマワリは受付担当のお姉さん、剣崎に折りたたみ式の買い物用カートを見せびらかしていた。

 カートには小さな二輪のタイヤが下部にあり、その上にアルミ製のカゴがついている。そのカゴはヒマワリが普段ダンジョンに持っていっているショルダーバッグよりも、容量が大きい。カゴいっぱいにアイテムを持ち帰ることができれば、それなりの稼ぎが期待できた。


 ダンジョン内のドロップアイテムや採集アイテムは、役所のダンジョン課と提携している公営企業が一律で買い取ってくれることになっている。この村の役場にダンジョン課などという専門の部署は存在しないため、企業から出向している社員と役場の職員が総掛かりで買い取ったドロップアイテムを仕分けることになる。

 ヒマワリは、自分の村おこしで村のダンジョンが人気になったら、役場はてんてこ舞いだろうなー、といらぬ心配をしていた。


「買い物カート……うーん、私の予想では一階での運用は難しそうですが」


「何事も経験にゃあ。もしかしたら上手くいくかもしれにゃいにゃ」


 買い物カートを誇らしげに見せたヒマワリだが、剣崎の反応はいまいちだ。

 何か含むところがあるのか猫のミヨキチと言葉を交わしたが、ヒマワリはその意図が理解できずに首をかしげる。


「どうしたん?」


「いえ。何事も経験ですので。植物ルート、頑張って攻略してください」


「うん、薬草採って、目指せ時給千円だよ!」


「ポーション材料の需要は常にあるので、持ち帰ることさえできれば、それなりの稼ぎは保証しますよ」


 ヒマワリが向かう予定の植物ルートには薬草が生えている。速効性の傷薬であるポーションの材料だ。

 この薬草は通常の手段では地上で育たない特殊な植物で、簡単な傷を治す低級ポーションのもとにしかならない。だが、家庭の常備薬から医療現場での利用まで、幅広い需要が存在する。

 ダンジョンの深層にもぐれば、より効能が高い薬草も手に入るが、ダンジョンシーカー初心者のヒマワリにはまだまだ関係のない話だ。


「それじゃあ、行ってきまーす」


「はい、行ってらっしゃいませ」


「ちょっと行ってくるにゃあ」


「わう」


 そうして、ヒマワリ達三名は、剣崎に見送られてダンジョンの入場門をくぐった。


 入場門の先には、天井がない広大な空間が広がっており、草が一面をおおっている。青熊村ダンジョン一階共通ルートの草原だ。

 草原では、スライムやアルミラージがのんびりそこらを移動している。


「よーし、買い物カート、行くよー」


 ヒマワリは買い物カートを引いて、パーティーの先頭に立ち草原を進み始めた。

 草をかき分け、植物ルートを進んでいくヒマワリ達。


「……?」


 しかし、ヒマワリは歩いていてどこか違和感を覚えた。

 気のせいかな、と歩みを進めるヒマワリだが、いきなり彼女は立ち止まった。


「ぬああ、カートがなんか止まった!」


 引いていたカートが急に進まなくなったのだ。

 ヒマワリは、後ろを振り返りカートを確認した。すると、カートの小さな車輪の車軸に、草がからみついているのが見えた。


「あああああ! 草がぁ!」


「やっぱりそうなったにゃあ……」


「ミヨキチさん、気づいていたなら言ってよ!」


「何事も、経験にゃ。ダンジョンでは聞きかじりの知識を集めるより、自分で経験することが大事にゃ」


「うぬぬ……」


 ヒマワリは、手で必死にカートの草を取り除きながら、悔しげにうなり声を上げた。

 車輪がしっかり回るようになったところで、ヒマワリは言う。


「どうしよっか」


「そんな荷物を抱えながらだと、とても進めないにゃ。諦めて一旦帰るにゃ」


「やっぱりかー」


「わうー……」


 ヒマワリのスキル習得のための修行があったため、数日ぶりとなったダンジョン攻略。それをずっと楽しみにしていたホタルが、悲しそうに鳴き声を上げる。


「ごめんよ、ホタル。私がふがいないばかりに……」


「さ、早く帰って準備し直すにゃあ」


 そんなこんなで、ヒマワリ達はダンジョン入口に取って返すことになったのだった。




◆◇◆◇◆




「えっ、買い物カート、駄目だったの?」


 その日の夕方、サツキの家を訪ねたヒマワリは、サツキの部屋で自分の失敗談を彼女に語った。

 サツキにとっても想定外の出来事だったらしく、驚きの声をあげていた。


「うん、車高が高くないと駄目だね」


「となると、やっぱりリヤカー?」


 ヒマワリの言葉に、そう尋ねるサツキ。


「そうだね。いくらかかるか調べてみてくれる?」


「うん、ちょっと待ってね」


 サツキは部屋のパソコンラックに置かれたディスプレイの電源を点けると、椅子に座ってパソコンを操作し始めた。

 ちなみにパソコンのデスクトップ画面は、可愛らしい女の子キャラクターのイラストだ。ダンジョンの妖精ダンちゃんというダンジョン庁の公式キャラクターである。


「ええと、アルミ製リヤカー、三万円、二万円、五万円、一万五千円、十万円……」


「たっけえ!?」


 予想外の値段に、驚愕(きょうがく)の声をあげるヒマワリ。

 サツキも渋い顔をするが、急に真顔になってヒマワリに向けて言った。


「こういうのは必要経費だと思うから、ちゃんとお金貯めて買わないといけないんじゃないかな」


「だよね。うーん、でも二万円かぁ」


「私も半分出すから」


「サツキちゃん、一万円ポンと出せるの?」


「一万円ならなんとか……」


「ヒュー!」


 倹約家だなぁ、とヒマワリはサツキに尊敬の目を向けた。実際のところ、サツキはヒマワリと違ってファッションにお金をかけていないため、その分だけお金に余裕があるだけなのだが。


「仕方ない、私もダンジョンで頑張って一万円くらい稼いでみせるよ」


 渋々といった様子で、ヒマワリが言う。

 お金を稼ぐにはリヤカーが必要なのだが、それまではバッグでどうにかするしかない。

 ジレンマだなぁ、とヒマワリは心の中でため息をついた。


「今のショルダーバッグはそこまで容量ないから、旅行用のボストンバッグでも持っていくかな」


 ヒマワリがそう言うと、サツキはボストンバッグいっぱいに詰められる薬草を想像した。

 そして、一つの事実に気づき、ヒマワリに向けて言う。


「薬草詰めたら草臭くなるから、一旦ビニール袋に入れてからバッグにしまった方がいいよ」


「うん、それ、一日早く言ってほしかった」


 ちょうど今日ヒマワリは、ショルダーバッグの中を草まみれにしてしまったところだ。

 買い物カートを家に置いてきたあと、ミヨキチの≪物品鑑定≫のアビリティを使って、植物ルート二階で薬草探しをしたためだ。


「今日の失敗は、ダンジョン初心者失敗談として、ウィスパーに面白おかしく書き込むことにしよう」


「ただでは転ばないね、ヒマちゃん……」


 ヒマワリはサツキの見ている前でスマホを取りだし、ウィスパーの投稿画面を呼び出した。

 ダンジョン攻略を満喫するそんなヒマワリをサツキは、微笑ましい表情で見守るのであった。


次回更新は三日後の八月二日です。次回以降は一章完結まで、三日に一度の更新ペースで行く予定です。

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[良い点] 更新乙い [一言] >>本当に何もしていないのにフリーズしたらしいね…… Meちゃん…… >>カートには小さな二輪のタイヤ タイヤが小さいと色々絡まって大変そうだあ >>草がからみつい…
[一言] リアカーはね…… 「あんなん誰でも作れるじゃん」感あるんだけどね…… 雨の日だろうが野晒し放置されるので耐腐食性 人間じゃ持ち上がらない重量もいける耐荷重性 その重量を積載しつつ破損しない…
[一言] リヤカー結構値段するもんなんですねえ 山菜採りに使うような背負籠辺りならそこまで高くないし薬草くらいならそこそこ入れられそうですけどあんまり重い物は入れられないし継続して使い続けられるかって…
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