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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
ツクール編

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お前に足りないもの


 裕也が消えた。

 皆斗を出し抜き、さくらを助けた奴の死によって、俺の戦いは終わった。

 あとは、簡単な戦後処理だけ。

 裕也によって無力化されたさくらを、どうするかということだ。


「あたしを、消すつもり?」

「そうだな……」


 裕也を消してこいつだけを許すなんて、そんなことはできない。かわいくて、妹だからと言い訳してしまったら、それはもうただの……魔王だ。自分勝手な悪役だ。

 

 俺はすぐさま端末を操作し、さくらを削除しようとした。

 だが、エラーが出る。


「……だよな」


 さくらはこの世界の神だ。

 絶対に殺すことができないように設定されている。だから皆斗も、ここに封じることしかできなかった。それは今も変わっていなかったということだ。


「まあ、消せるわけないよな。お前はこれまでと同じようにこの世界に閉じ込める。実際、裕也がここに来るまでは逃げ出せなかったんだからな。俺たちの封印法は正しかったわけだ。余計な介入さえなければ、お前にこの場から逃げ出す術はない。そうだろ?」

「…………どうして」


 負の感情を乗せて、こちらを睨みつけるさくら。

 

「あたしはゲームを作りたかっただけっ! お兄ちゃんのゲームを完成させようとしただけっ! あたし何か悪いことしたの? ゲームキャラの設定変えたりマップ作ったりしただけでしょっ! あたしは何も悪くないっ! それなのに、どうしてこんな……」


 さくらが泣いている。

 演技には見えない。本当に……悪いことだとは思っていないようだ。

 まるで、前の世界でアングル王国や魔族の設定を作っていた、俺のように。


「分かってると思うが、俺はお前を助けない。裕也の件はかわいそうだと思うが……俺には世界を守る義務がある。お前みたいにすぐに世界を消そうとするやつを……野放しにはできない」

「うう……うう……」


 まるでさっきの裕也みたに、惨めに泣いている。

 ただ、なんでだろうな。これまでずっと一緒に暮らしてきたからなのだろうか、少し……同情してしまう自分がいる。気が付けば、手を指し伸ばしてしまいそうなほどに。

 だけど、それは駄目だ。

 俺は……世界を守らなければならないのだから……。 


「誰だって一人じゃ寂しい。だから友達とか、家族や友人とかと一緒に遊んで、話題を共有して、苦労と喜びを分かち合ってさ、そうして日常を過ごしていくんだ。一人が楽だ、楽しいって言ってるやつもいるけど、俺はそう思わないな」

「…………」

「お前に足りないのは完璧なゲームじゃなくて、一緒に遊ぶことを楽しんでくれる仲間なんじゃないのか? お前のことを理解して、そばにいてくれる人が。お前が俺に、正直に自分の気持ちや過去を話してくれれば……きっと……」


 その時は、一緒に楽しく過ごすことができたかもしれない。

 本当の兄のゲームを一生懸命考えて、ああでもないこうでもないといろんな議論をして、一つの物語を完成させていく。

 それはきっと、とても楽しい時間だったはずだ。

 もちろん、記憶を消された俺だってそれなりに楽しくゲームを作ってはいた。けど、それを見ているさくら自身はいつもどこかで一歩引いていたはずだ。

 ゲーム完成という目的をもってしまうと、それ自体を楽しむことは難しい。さくらにとってこの世界は課題を達成するための労働であり、試練。そう割り切ってしまっては、楽しむものも楽しめない。


「今更だよな。お前はこの世界で孤独に暮らせ。お前の作った人や建物はそのままなんだから、完全に寂しいってこともないだろうさ。これから、お前と俺は違う世界の住人だ。もう、話すこともないだろうな」


 そう言って、俺はさくらに背を向けた。


「……待って、待ってお兄ちゃんっ!」


 さくらの声が聞こえる。

 必死なその声。

 黒幕として徹していた時よりも、あるいは妹として俺のそばにいたときよりも、どんな時よりも真剣で……心に響いてくる生の声。

 一瞬、俺は足を止めそうになってしまった。


「いかないでっ!」


 駄目だ。

 駄目だ。

 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。


 さくら。

 俺の妹。 

 たとえ与えられた偽りの記憶だったとしても、お前とすごした日々は楽しかった。お前のためにどんなゲームを作ろうかと、どうすれば喜ばせられるかと考えながら試行錯誤していたあの日々は、俺にとって確かに幸せな日常だった。

 だけどお前は罪を犯した。多くの人を消し去り、そして俺の記憶すらも弄んだ。

 俺は裕也を罰した。それなのに、身内だからとお前のことを許すことなんてできない。それは世界にとって明らかに危険な行為だ。

 

 だから俺は、お前を助けない。


 俺は世界を作った。ライオネルの仲間を殺し、多くの魔族たちを傷つけた。それを完全に悪いことだとは思っていないが、あの世界の神としての義務があるとは思っている。 

 俺はあの世界を守る。リディア王女を、ロリタ王女を、そしてライオネルや魔族たち。生み出されたすべての人々が幸せに……とまではいかなくても突然消されてしまうような理不尽な事態に陥らないように、将来の禍根は……断ち切っておく。

 

 涙を拭い、俺はこの部屋から立ち去った。


 さよなら。

 死んだはずの、俺の妹。


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