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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
ツクール編

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皆斗との約束


 ぽつり、ぽつりとさくらが独り言のように呟いた話は、俺にとってあまりに信じがたいものだった。


 本当の兄――伊瀬大和の事故死。

 アプリに残された未完成のゲーム。

 兄の模倣AI――〈ゲームメイカー〉。

 仮想空間――〈リアルツクール〉。


「つまり、〈ゲームメイカー〉っていうのは、単純にゲームを作るための人間とかそういう意味じゃなくて、さくらの……兄となる人間を再現するために、この世界を」

「そうだっ! だからお前は重宝されてるんだ! だけどそんな世の中じゃダメなんだっ! 僕が、この僕がお前の代わりとなりこの世界を救って……」 


 ……落ち着け。

 

 ライオネルたちが住んでいた異世界には神がいた。それは俺であり、俺は思い通りに世界を動かそうとしていた。

 だったら俺の存在自体もまた神によって生み出されていたとしても、おかしくない話だ。自分だけが特別だなんて思うのはおごがましい。


 結局、俺もリディア王女やロリタ王女みたいな創作のキャラだったということだ。今更、それを知って絶望するほどのことでもない。

 今、やるべきことをやるだけだ。


「放せえええええええええっ! 僕は、僕はこんなところで立ち止まっているわけにはいかないんだっ! 僕は女神の伴侶となり、この世界を救う最後の――」

「もうお前の言葉はたくさんだ、裕也……」


 どうあっても、改心するつもりはないらしい。抵抗する裕也は、この期に及んでもなお反抗的だった。


「お前は皆斗を殺したっ! それどころか俺も、そしてさくらを解き放つことによって他の世界を消し去ることに加担した。俺を魔王だというなら、お前は魔王以上におぞましい何かだっ!」

「うう……うううう……」


 もはや、文句を言うことしかできないようだ。

 奴にとって俺は倒したはずの存在であり、奇襲は十分すぎるほどに効きすぎてしまったということだ。

 勝利は確定した。

 ならば……。


「……ぼ、僕をどうするつもりだ?」 


 やっと、自らの敗北を悟ったのだろう。裕也がそんなことを言い始めた。


 だが、すべてが遅すぎた。


「お前を……消す」


 その死刑宣告に、裕也は目を見開いた。


「ひ、人殺しがっ! お、お前は散々僕のことを人殺しだって罵ってたくせに、自分がそうすることには何も感じないのかっ! 僕は人間だ! 生きた人間なんだぞ! 隣のクラスにいた、豚だ馬鹿だって罵られたかわいそうな少年! そうだろ? お前のせいでそんなキャラクターだったんだ! こんなかわいそうな僕を殺すのか? 生きるために、必死になっている僕を……」

「もう決めたことだ」


 この様子だと、対策もしてないようだ。

 もっとも、端末で俺を消せたと思っていたのなら、対策していなくても仕方のない話ではあるが……。


 わざわざリディア王女に端末を預ける必要もなかったかもしれない。この場に俺が現れた時点で、裕也の敗北は決定していたんだ。

 そして俺は……皆斗ほど甘くはない。こいつには……恨みしかないからな。


「皆斗と……約束したんだ」


 とはいえ、良心が痛まないとは言わない。

 だけど、俺は皆斗に託された。

 世界の行く末を。

 そのためなら、たとえこの手が血に染まっても……構わない。


 方法は簡単だ。俺が持つこの端末で、裕也を削除するだけ。

 この端末はさくらを消すことを禁ずるように設定されているが、それが裕也にまで及んでいることはないだろう。

 まあ、駄目ならリディア王女に預けた端末で試してみるだけなんだが……。この裕也の様子を見る限り、自分の安全策が万全というようには見えない。追い詰められ、自らの悲惨な運命を覚悟しているようだ。

 

 つまり、裕也は消せる。

 なら、俺に躊躇する理由はない。


「皆斗の意思は俺が引き継ぐ。裕也、罪を背負って……死ね」

「あ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! いやだいやだいやだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! 僕はもう死にたくないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 断末魔の叫び声を上げながら、裕也は必死に俺から逃れようと暴れまわった。

 しかし、強化された俺の拘束から逃げだすことは不可能。


 やがて、裕也は背景に溶け込むかのように……消えていった。


「…………」


 裕也。

 俺も、そしてさくらも二度と裕也を生き返らせることはないだろう。お前はもう……ここで終わりだよ。

 皆斗を裏切りさえしなければ、こんなことにはならなかったのにな。

 自業自得だ。


 裕也の脅威は完全に消え去った。

 あとは……。


「待たせたな」

「…………」


 伊瀬さくら。

 俺の妹。

 俺にとっての神。 

 すべての元凶。

 

 こいつだけだ。


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