リプレイ動画
すべての異世界を創造し、操ることができる〈異世界ツクール〉。
そしてそれと対を成すらしい、〈リアルツクール〉。
リディア王女は〈リアルツクール〉というアプリを持っている。これはリアル世界――すなわち俺たちのいるこの世界のすべてを作ることができるアプリ……なのか?
だとしたら俺やこの世界のすべてのものはリディア王女の創作物なのか? いや、そんなわけがない。異世界は俺が〈異世界ツクール〉で生み出したものなのだから。
そもそも『リアル』ツクールというこの名称。こちらの世界が現実世界そのものであることを示唆している。世界を生み出すというよりは、世界を改変するアプリと言った方が適切かもしれない。
ほかにもいろいろと気になることはある。
「俺の 〈異世界ツクール〉は、確かに異世界へクラスメイトを召喚することができた」
それは確かに俺が行った出来事だ。
だが――。
「だけどそれは俺が設定したクラス転移の結果だ。もう一度聞くけど、リディア王女はどうやってここに来たんだ?」
クラス転移は向こうの世界での出来事だ。俺が召喚魔法を設定したから、そういう技術が存在するの当然のこと。
だけど魔法なんて概念はこの世界では通用しないはず。そして向こうの世界には送還魔法は存在しない。
ならばリディア王女はいったいどうやってこの世界にやってきたんだ?
「わたくしのような者が神に対して『教える』などとは、いささか身に余る言葉でございますが……ご説明いたします」
「頼む」
「わたくしが持つこの〈リアルツクール〉は、あなた様が『異世界』と呼ぶわたくしたちの世界では一切役に立ちません」
「だよな、それは俺も同じだ」
「ですからわたくしは、『この世界の方』に召喚をしてもらったのです」
……は?
「しょ、召喚? 誰が?」
「この世界の住人です」
「魔法もないのに?」
「〈リアルツクール〉があればないものを生み出すことだって可能なんです。もちろん神様に言うまでもない話ですが……」
なるほど。
必要性や必然性、そして知識がなくても、そういうイベントを設定してしまえば無理やり召喚できるのか。そこまでは考えてなかったな。
だがそれは異世界ではなくこの世界の……リアルな人々の人生を捻じ曲げる結果になるかもしれない……。
「…………」
確かに、彼女の持つ〈リアルツクール〉が本物だとしたら、なんだってできる。
自分の家を作ることも。
通貨を生み出すことも。
そして人を操ることも。
だけど、それにはとても重い責任がある。
俺でさえ、魔王エドワードを消すことに躊躇した。しかもその時は皆斗たちのことは心配していたが、他のゲーム世界の住人のことなんて考えてもいなかった。
でもリディア王女は違う。
彼女は俺のことを神様だと言っている。ならばここは彼女にとって神様の世界であり、自分たちとは違う高位に位置するものだと理解しているはずだ。
だが彼女は〈リアルツクール〉を使い俺に会いに来た。この世界の誰かを操り、世界の理を歪めてまで。
「俺に会いに来たって言ったよな? 何か目的があるんだよな?」
多くの場合、人は何か目的があって神に祈るものだ。災害を鎮めてほしかったり、病気を治して欲しかったり戦争に勝ちたかったりなどなど。
「……勇者様方のことです」
「…………」
俺は頭を抱えたくなった。
「あなた様がわたくしたちの世界のことを思って、勇者様が方を召喚して下ったことは理解しています。ですが……あの勇者様が方はあまりにも……」
「…………」
そんな高尚な気持じゃないんだ。
あいつら気に入らないから、異世界に。なんて、そんなくだらないゲーム感覚であいつらを異世界に飛ばしたなんて知ったら、リディア王女はどう思うだろうか?
とてもではないが気軽に話せる内容ではない。
「先日の件もあります。わたくしの申し上げたいこと、神様であればよく理解していらっしゃいますよね?」
「先日?」
「村の件です」
む……村?
何のことだか全く心当たりがない。
俺は〈異世界ツクール〉で異世界を生みだしたが……全知全能の神じゃない。疲れもするし寝もするし学校の授業だってある。いつも異世界の様子を監視してるわけにはいかない。
俺が見ていない間に何かあったのか?
リディア王女が期待するようなまなざしでこっちを見ている。当然事情を知っているだろう、と目で訴えている。
でも俺は何も知らない。
弱ったな。召喚しておいて何も知らないなんて言いにくいし……。
過去の映像を見る機能みたいなのはないんだろうか? ありそうなんだが……。
「少し待ってくれ」
えーっと。
お、あったあった。
リプレイ動画がアーカイブに保存され、いつでも再生できるようになっていた。
量は膨大だが場所や出演者によってタグ付けされており、検索をかけやすくなっている。
俺が見ていない、寝ていた間の時間帯。リディア王女の言い方から推測するに一人の話じゃなくて複数人の異世界人が関わる話だ。
これ……かな?
俺はリプレイ動画を再生した。
カルネ村、午前一時。
カルネ村は城のある城下町から門を出て東に4kmほど進んだ場所にある。首都にかなり近い村だ。
勇者たちが最初期に寄る予定の村ということで、簡素な宿泊施設や弱めの武器・防具屋などが設定されている。
物語上の重要性はそれほどなく、物資の補給や休息の拠点として利用するためだけに生み出された……静かな田舎。
そのはず……だった。
しかし今、この村は燃えていた。
他ならぬ……俺が呼び出した勇者たちの手によって。