表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
ツクール編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/85

異世界からの来訪者

 

 俺は皆斗とともに世界を渡った。

 前の世界。その前の世界。そして今いるのが、かつて皆斗と裕也が暮らしていた五つ前の世界だった。


「ここが、皆斗たちのいた世界か?」


 瓦礫や争いの声が目立つ。治安の悪そうな……戦争中のスラム街のような場所だった。

 

 事前に聞いた話によると、この世界の俺は敵である魔王によって感情を操作され、望まぬ虐殺に加担していたらしい。

 これだけ聞くとこの世界では完全に犯罪者っぽいが、正気を取り戻してからはそれなりに大活躍したらしい。


「大和っ! お前、大和かっ!」


 知らないおっさんが、驚いた様子で俺に駆け寄ってきた。


「本当にすまなかったっ! 家族を人質に取られていたとはいえ、お前に……あんな仕打ちを……。俺は……ずっと……お前に謝りたくって……うう……ううう……」

「…………あの、俺は」

「皆斗から全部聞いてる! だけど言わせてくれっ! 俺は……俺は……」


 俺の前でおっさんが泣いている。

 こんなことを繰り返してきた。俺の記憶にない、この世界で俺に助けられた人ということらしい。

 

 はっきり言って俺は全然覚えていないんだが、それでもこの人たちにとっては謝ったり後悔を乗り越えたりといった何かの前進になるのだろう。

 

 さくらから俺を救い出してくれた皆斗のためだ。これで少しは恩返しできただろうか?


 ここが、最後の町だと聞いている。

 つまり、俺の別世界への旅行もここまでということだ。


「それじゃあ、ここでお別れだな。皆斗」

「ああ……感謝するぜ。記憶もねぇのに付き合わせて悪かったな。リディア王女も」

「わたくしもよい人生経験になりました。感謝しています」


 今度こそ、本当に皆斗とお別れということだ。

 もちろん、世界の管理者としてこれから何度か顔を合わせるかもしれない。しかし、もう一緒に行動することは……ないかもしれないな。

 

「お前はこの世界に残るんだよな。これから、どうするつもりなんだ?」

「裕也と……話をしてくる」


 裕也か……。

 かつて無能だと罵られた過去を思い出す。皆斗はともかく、俺にとって奴は間違いなく異常者だった。


「分かってると思うけど、同情しすぎて変な失敗をするなよ? お前に端末を集めたみたいに、あいつがお前の端末を奪ったら……すべてが」

「おいおい、馬鹿にするんじゃねーよ。俺を誰だと思ってんだ?」


 皆斗は裕也に対して同情的な部分も多いが、決して無能というわけではない。俺がわざわざ心配するまでもないか。


「んじゃ、さよならだ。範囲指定して送還するから、リディア王女ともっと近くに寄ってくれ」

「ん、ああ」

「はい」


 一応恋人同士になったんだよな。なんだか、皆斗の前で恥ずかしいな。


「み、皆斗さんっ! 大変だっ!」


 今、まさに帰還しようとしていた俺たちの前に現れたのは、見知らぬ男だった。


「なんだ、どうした! 何があった?」

 

 この世界の皆斗の知り合いか?


「こ、この人が変なことを言っていて。世迷言かと思ったが……念のためにと思って。もしかすると……まずいことが起きたかもしれない……」

「この人? どいつだ?」

「は、はい。お、おいっあんた! 早くこっちに来てくれっ! この人が皆斗さんだっ!」


 男に連れられ、建物の影から現れる謎の人物。

 

 鎧を着た金髪の男だ。


 異世界人っぽいな。

 しかし当然のことながらこの世界の住人でない俺の知る人物ではない。そして周りの様子を見る限り、皆斗の仲間たちも彼のことを知らないらしい。


「お前……誰だ?」


 皆斗も知らないのか? 

 なら……一体こいつは……。


「私の名は……アーサー、前の世界で将軍を務めていました」


 前の世界?

 この世界が皆斗の住んでいた世界。ここより前の世界とは、すなわち俺も皆斗も知る術のない未開の世界だった。


「前の世界……だと? お前、どうやってここまで来た?」

「私の世界の端末を使って……。今は……裕也に奪われてしまいましたが……」


 は?

 端末を……裕也に奪われた?


「私が……騙されていたんです。自分の世界を救いたいと、世界移動の経験を持つ裕也を紹介されたのが始まりでした」


 皆斗に親しい人たちは、俺たちの活躍をよく知っている。そんな彼らが異世界人を目の前にしたとしたら、同じ経験を持つ裕也を紹介してしまうかもしれない。

 その時皆斗は俺と一緒に別の世界にいた。この判断を責めることは……できない。


「私は彼を信頼し、彼に私の端末を託した。しかし裏切られ、端末を持った裕也はこの世界から立ち去ってしまった。端末の持つ、世界移動の権限を使って」

「世界移動の権限っ!」


 皆斗の顔面が蒼白になる。

 俺も……きっと同じような表情をしているだろう。


「裕也はあの女……君たちが伊瀬さくらを呼ぶ黒幕を復活させようとしている。奴が閉じられた世界を脱し、過去の世界に戻ってこれるようになれば……」

「お前えええええええええっ! なんっつうことしてくれたんだよおおおおおっ! ふざけてんじゃねえぞぉおおおっ!」

 

 まるで俺の世界で粗暴だったころのように、皆斗はアーサーを蹴り上げた。しかし、全身に鎧を身に着けた彼にとって、その衝撃はたいしたものではない。むしろ普通のスニーカーで足を叩きつけた皆斗の方が……痛そうだった。

 俺には……皆斗の気持ちがよく分かる。


 もし、裕也がさくらを復活させたとしたら?

 この世界に戻ってくるか? いや、それよりももっと恐ろしいことが起こるかもしれない。

 

 さくらは、すべてを消してしまう可能性がある。

 かつてそうであったように、すべての世界を記録だけにして、なかったことに……。 


 くそっ、なんでこんなことに……。

 俺も皆斗も油断していなかった。裕也のことは十分に警戒しているつもりだった。

 だけどまさか……第三者の介入があるだなんて……。


「あ……あの女が戻ってきたら、せっかく俺が再構築した世界が全部……、また、なくなっちまうっ!」

「申し訳ない……本当に、私は……」

「うっ……」


 突然、皆斗が倒れこんだ。


「み、皆斗っ!」


 駆け寄った俺は、すぐにその異常さを理解した。

 皆斗が……消えかけている。

 ゆっくりと体が透明になっている。まさか……これは……。


「皆斗、お前……まさか……さくらに」

「裕也の奴っ! 俺のかけた催眠を解きやがったなっ! ちくしょうっ!」


 皆斗が最後までさくらに消されなかったのは、〈リアルツクール〉を用いて催眠状態にしていたからだ。だがもし、裕也がそれを解いたとしたら?

 さくらは敵である皆斗に容赦しないだろう。


「じ、時間がねぇ。念のため……〈リアルツクール〉で構築した『抵抗レジスト』が効いてるようだが、耐えられそうにない。俺は……あと、少しの時間で、消される……」

「み、皆斗。本当に、どうにもならないのか? お前は……それに、この世界は……」

「いいか、落ち着けっ! お前は消されねぇっ! 記憶を消すとしても、こんな訳の分からない世界に放り出す真似はしねぇはずだ。まだ……時間がある」


 消えかけるその身体で、皆斗はポケットから必要なものを取り出した。

 これまでずっと彼が持っていた、過去の世界の端末たちだった。


「いいかっ! あいつを封じた世界に戻って、今度こそ止めてくれっ! 裕也は……殺してくれ。俺が……そうするべきだった。すまねぇ、本当に……すまねぇ……」

「皆斗……皆斗おおおおおっ!」

「頼むっ! お前だけが……最後の――」


 そう言い残して……。

 

 皆斗が、消えた。


「あ……あ……」


 皆斗。

 隣のクラスの男子で、さくらの手下で、俺やライオネルを助けてくれた……本当の勇者。世界を救ってこの世界に凱旋した……そのはずだったのに。

 まさか……こんなどんでん返しが待ってるなんて……。


「……嘘だろ、皆斗……」


 俺は……気が付けば泣いていた。

 悲しくて、そして恐ろしかった。今、こうしている間にも……裕也やさくらの手によって俺の記憶が封じられ、世界が滅んでしまうかもしれない。

 

 こうして、皆斗が……消えた。 

 あっけない、あまりにもお粗末な最期だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ