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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
ツクール編

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リディア王女


 皆斗たちと別れた俺は、そのまま家に向かっていた。 

 

 前の世界。

 皆斗とライオネル。

 そして、リディア王女。


 考えることはいっぱいだった。俺は神にも等しい相手になすすべもなく、記憶も世界も何もかも奪われこの地にやってきた状態だ。

 ライオネルなんかよりもよっぽど悪い状況。黒幕は〈異世界ツクール〉似のアプリを100%使いこなしている可能性だってある。毎日こつこつゲームを作っている俺なんかとは……年季が違うのかもしれない。


 このままでは……まずい。

 ただ当の皆斗が詳しく話をしてくれない以上、俺は今まで通りゲームを作っていくしかない。

 どこにチャンスがあるかは分からないが、皆斗に期待して待つことにしよう。


 平常心。

 平常心。

 平常心。


 ライオネルやエドマンドだって、俺に策略を隠し通せていた。二十四時間すべてを監視することは難しいんだ。疑われず大人しくゲームを作っておけば、とりあえずは安全なはず。


「あっ、お兄ちゃんお帰りー」


 玄関のドアを開けると、さくらが手を振って出迎えてくれた。

 

 さくら。

 そう、ここにいるさくらは俺の妹じゃない。俺の本当の妹は、交通事故で死んでしまったんだ。

 いや、そもそも前の世界の妹ですら、本当の妹じゃないのかもしれない。

 その事実を理解するだけでも冷静でいられなくなりそうだ。あいつは……どこまで俺の心をかき乱せばすむんだ。


 でも、今、目の前にいるさくらに罪はない。余計なことを考えちゃ駄目だ。

 自らが死ぬ直前まで起死回生の策を隠していたエドマンドのように、俺も……感情をコントロールしなければならないんだ。


「もー、今日はどこ行ってたの?」

「悪い悪い、少しゲーム制作のこと考えててな。部屋の中にいてもいいアイデアが浮かばないだろ?」

「声をかけてくれたら一緒に散歩したのに。むー」

「ははっ、今度一緒に散歩しような」


 さくらの頭を撫でながら、俺は自分の部屋に戻ろうとした。

 が、突然目の前のドアが開いた。

 お手伝いさんか?


「失礼します」


 そう言って、横を素通りしようとするお手伝いさんを見て、俺は……。


「り、リディア王女っ!」


 思わず、その手を掴んでしまった。


「え……」

「リディア王女! リディア王女だよなっ!」


 ドレスもティアラも身に着けていない、どこにでもいそうな一般人の普段着を身に着けた少女だったが、今にして思えば金髪でエメラルドグリーンの瞳は明らかに周囲から浮いていた。


 お……俺は……、どうして気が付かなかったんだ?

 何度も会っていたはずだ。この家で、何度も挨拶して、すれ違って、気が付く機会はあったはずなのに。


 くそっ、くそっくそっくそっ! 

 

 悔しいが、ライオネルに感謝するしかない。あいつから激しい憎しみを浴びせられ、動揺して、初めて思い出すことができたのだから……。


 だけど、もう、俺は思い出した。


「俺、全部忘れてた。向こうの世界のことなんか何も覚えてなくて、この世界で何も考えずゲームを作っていた。ごめんっ! 俺にもっと力があれば、ロリタ王女やあの世界の人たちを助けられたかもしれないのに……」

「大和……様……」

「どうして声をかけてくれなかったんだっ! 皆斗とは違って、俺のこと……忘れちゃってたのか?」 

「あ……あの……わたくし……」


 青ざめるリディア王女。

 ひょっとして、ライオネルに詰め寄られた俺みたいに動揺してるのか? いや、でも今俺のことを『大和様』って。


 と、ここまで来て俺は唐突に気が付いてしまたった。

 後ろにはさくらがいたんだ。急に豹変した兄の姿を見て、変な心配をされたら困るよな。


「ああ、ごめんなさくら。急に変な話を始めちゃって。少しゲームの構想を話してただけだから、別に気が触れたわけじゃないぞ」


 そう言いながら、俺は振り返る。


「…………」


 さくらはスマホを操作していた。


「さくら? やめろよ、『兄がおかしくなりました』ってSNSに写真でもあげてるのか? 返事ぐらいしてくれてもいいだろ。なあ」


 そう言って、さくらの隣に寄りかかった俺は、そのスマホを見て……言葉を失った。


「さ……さくら……?」


 さくらはスマホで動画を見ていた。

 それは、俺が喫茶店で皆斗と話しているときの動画だった。


 なんでこんな動画が? さくら、俺を尾行して盗撮したのか?

 いや、そうじゃない。

 まるでその場にいたかのような鮮明な映像。近くで撮影していないと撮れないレベルだ。

 それよりも、もっと……分かりやすい解がある。

 

 思い出したのは、前の世界で大地の巫女マリーが死んだとき。

 俺はゲームの製作者としてすべてを創造し、物語の進行を操ることができた。だけどライオネルや皆斗たちの介入によって、通常起こりえない奇妙な状況になっていることがあった。

 

 そういうとき、俺はどうしていた?

 そう、確認していた。

 〈異世界ツクール〉を起動して、リプレイ動画を見た。前後で何が起こっていたのか? 犯人は誰なのかを確認するために……。


 まさか……そんな……、じゃあ……この……さくら……は……。


 さくらがスマホを操作し、見たことのない画面を表示する。それをタップすると――


「……なっ!」


 突然、目の前についさっき別れたはずの皆斗が現れた。


「……うっ!」

「……どういうことだ?」

 

 軽く怒気を孕んださくらの声は、今まで俺が聞いてきたかわいらしい妹の声とは似ても似つかないものだった。

 

 驚いた皆斗は、俺とリディア王女を見て何かを察したらしい。すぐにその場に座り込んで、土下座を始めた。

 さくらよりもはるかに大柄で筋肉もあるはずの皆斗が、完全に震えあがって委縮している。


「ち、違うっ! 俺は裏切ってなんかいねぇっ!」


 驚いた様子の皆斗は、必死の様子で頭を下げている。

 俺は……何も言えずその光景を見ていることしかできなかった。


「お、思い出せよ前回の世界を。大和はゲームに対して真剣さが足りないから、大規模な変更を躊躇したり適当に名前を付けて怠けてたりした。お前がジャンヌを大和にけしかけて緊張感を出したみたいに、俺はこの世界の真実を伝えて同じことをしたんだっ! 大和だって俺の話を聞いてまじめにゲームを作り始めてただろっ! 俺は悪くないっ! 俺の暴露でこの世界は確実に良い方向へ向かったっ! そうだろっ!」


 必死の皆斗。

 不機嫌そうなさくら。


 さくら、お前がそうだったのか?

 魔王エドワードを名乗りすべてを裏で操っていた……黒幕。俺の本当の敵。

 まさか……妹がそうだったなんて……。


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