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リディア=アングル


 翌日。

 俺は学校へと向かっていた。


「いつまでもサボってられないからな」


 皆斗たちには悪いが、俺にだって現実の生活がある。


 今日家に帰ったら、皆斗たちのレベルを上げてみようか? レベル上・能力上げのアイテムを用意することは簡単だ。それで魔王をすぐ倒せるくらいにステータスを引き上げてしまえば……。

 いややっぱり魔王を直接消してみるか? それでゲームクリアになるかどうかは分からないけど、敵の一人消したところで皆斗たちに何か影響があるとは考えにくいし……。


 そんなことを考えながら学校の前にたどり着いた俺は……。


「は?」


 我が目を疑った。

 

 別に意識したわけじゃない。いつも通り校門のを過ぎ去り、玄関に行って廊下を歩いて教室へと向かう。そんななんてことのない日常に組み込まれた行動を行うだけだった。

 だが俺は見つけてしまった。

 校門前をぼんやりと歩いていて、なんとなく見つけてしまった。


 校門左、石質の四角い柱のにはめ込まれた……銘板。そこに……。


 アングル高校。


 と書かれていたのだ。


「え?」


 あまりの驚きに俺は、何もすることなくその場に立ち止まってしまった。

 

「は?」

 

 理解が追い付かなかった。

 なんだこの変な名前は? うちの高校って城南高校って名前だっただろ? 誰かのいたずらか?

 などと微妙に眠かった頭を完全に覚醒させながら考える。

 

 っていうかアングルって、俺のゲームの国の名前だろ? なんで俺の……。

 

「……っ!」


 そこまで考え、俺はさらなる異変に気が付いた。

 みんなが身に着けているブレザーの制服。そこに刺繍された制服の校章が変わっていた。

 そう、この剣と縦の紋章は……まぎれもなくアングル王国の国旗だった。

 

「嘘……だろ」


 今日の朝からずっと……前からこちらに向かって歩いてくる生徒がいなかったから、胸のあたりにある校章を直視することができなかった。

 だが今、俺はそれを見つけてしまった。


 慌てて周囲を見渡すと、男女全員、すべての生徒たちが同じ校章の制服を着ている。

 これは……いたずらじゃない。

 本当に……この高校がアングル高校という名前に……変わってるのか?


 い、いや、アングルってなんだよ。普通高校の名前って地名とか山とか寺とか一とか二とかそういう漢字当てはめるだろ?

 みんな疑問に思ってないのか?  



 焦りを悟られぬよう、俺は自分の教室へとやってきた。

 教室の中には何一つ変化は見られない。みんなが普通に話をしたり、椅子に座ったり、勉強をしていたり。

 ただ一つ違うのは、高校の名前が変わったこと、ただそれだけだった。


 ま、まあ、日常生活で高校の名前なんてそうそう話題に上がらないよな? も、もしかすると俺の勘違いだったのかもしれない。この学校は初めからこういう名前だったんだよきっと。そうだ、そうに決まってる……。


 そんな言い訳を自分に言い聞かせながら、いつものように教室で授業を受けようとしていた……のだが。 


「えー、突然ですが、今日は皆さんに転校生を紹介します」


 へー、転校生か。よくこんな生徒が失踪した高校にやってくるよな。

 いや、もう決定してて変えられなかったのか? かわいそうな奴だ。


 ぼんやりと眺めていると、教室の入り口から転校生が入ってきた。

 

 まだ制服を用意できてないのかな? ドレスっぽい服を身に着けて……ティアラを身に着けた……金髪の少女?


「リディア=アングルさんです」


 は?

 

 それは……明らかに、リディア王女だった。

 

 嘘……だろ?

 なんで?


 リディア王女は俺が作ったゲームのキャラなんだぞ。 それがなんでこの世界に?

 ……いや、偶然だよな?

 たまたま、他人の空似だったって話だ。キャラクター作成ツールで作ったんだから、パーツはある程度限られている。


 キョロキョロと教室を見渡すリディアさんと、俺の目があった。


 え? え?


 嬉しそうに笑ったリディアさん。転校生定番の自己紹介を無視して、俺の席に駆け寄ってきた。

 そして、俺の手を握った。

 

「神様っ!」

 

 彼女のエメラルドグリーンの瞳が、俺の瞳と触れ合うほどに近づいている。


「お会いしたかったです神様っ! まさか本当に、現実の存在だっただなんて。わたしく……わたくし感動で涙が……」

「え? あの……」

「わたくしです! アングル王国第一王女、リディアです!」


 ざわざわと、周囲のクラスメイトたちが騒ぎ始める。

 当然だ。

 これだけき綺麗な美少女転校生が、冴えない俺に突然話しかけてきたのだから。俺が他人だとしたら気になって仕方ない。

 おまけに『王女』だとか『神様』だとか、正直な感想を言わせてもらえば頭がおかしいとしか思えない。ゲームを現実と混同している、なんて言われてもおかしくない。

 まあ、それはまさに今の俺……なんだがな。


「あなた様のことは存じておりました! こうして直接お会いできたのも、すべては運命。ああ、なんという記念すべき日なのでしょうか。お父様と妹に良い土産話が……」

「ちょ、ちょっと待てってっ!」

「きゃっ!」


 俺はリディア王女の腕を掴んでそのまま教室から逃げ出した。



 教室から逃げ出した俺たちは、そのままの勢いで屋上へと駆け込んだ。

 ここなら誰にも声を聞かれる心配はない。


 俺は額の汗をぬぐいながら、ゆっくりと話を始める。


「えっと、急にごめん。俺もいろいろと混乱していて」

「はい」

 

 そうだ、まずは話を聞かなきゃ。


「ど、どういうことだ? あなたは……俺が作ったゲームキャラのリディア王女なのか?」

「げーむ? というのはよく分かりませんが、あなた様が生み出した存在であることは事実です」

「…………」


 な……なんだこれ?

 頭が混乱してきた。

 この子はゲームの中に出てきていたリディア王女なのか? 俺がゲームで作り出したあの子と同じ容姿、同じ服、同じ声。

 確かに彼女以外にあり得ない。俺をからかうために整形して服まで用意して、なんてのはどう考えてもありえない展開だからな。


「……と、とりあえず分かった。あなたが俺の作ったリディア王女……だと理解しよう。そうしないと話が進まない」

「はい」

「じゃあそのリディア王女がどうしてこの世界に来てるんだ? 俺の作った世界の俺の作ったキャラが、どうやって俺の世界にやってきてるんだ?」

「それは……これですっ!」


 リディア王女はそう言って、懐からあるものを取り出した。

 それはかつて皆斗たちのステータスを表示していた、水晶のプレートだった。

 その板を俺にかざす王女。

 そこにはステータスが書かれているわけではなく、例えるなら……俺のスマホみたいな画面構成になっていた。背景があって、アプリがあって、そんな見慣れた配置だった。


 リディア王女はその中のアプリらしき一つを起動させた。

 画面全体にでかでかと表示されたそのタイトルは……。 


「〈リアルツクール〉……」


 リアルツクール?

 なんだよ、それ。

 


 俺は、この時初めて理解した。

 自分が、支配者気取りの愚か者だったことを。


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