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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
ツクール編

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お手伝いさん


 朝食を食べた後、さっそく妹との相談が始まった。


「さくらさ、こういうゲームよくやるのか?」

「多少はね。でもそんなに詳しい方じゃないかな」


 いやだったらなんでこのアプリの作成時間を見抜いたんだよ。


「じゃあお兄ちゃん、スマホ貸して」

「は?」

「それないとアドバイスもなにもできないでしょ?」

「おいおい、俺だってスマホを使っていろいろやるんだから、手元にないのは困る。待ってろ、非公開設定でアップロードするから、パスワード入れてダウンロードしてくれ」


 妹に俺のスマホを触られたくない。

 そもそもそのために恥ずかしいがゲームを見せることにしたのだ。ここでスマホを渡してしまったら本末転倒だ。


「言っとくけど、まだ未完成だからな。とりあえず、前半部分だけは完成してるから、前編ってことでそこだけ見ればいいと思うぞ。プレイ時間はかなりかかるだろうけどな」

「ああ、大丈夫大丈夫。最初の方だけしかプレイしないから」

「そうなのか? まあ、さすがにそんなに暇じゃないよな。別に強要してるわけじゃないから、無理に見なくてもいいんだぞ?」

「何言ってるのお兄ちゃん?」


 違うのか?


「あたしはね、お兄ちゃんの作ったゲームの完全版をプレイしたいの。今、全部テストプレイしちゃったら全然面白くないでしょ」

「前半だけでも神ゲーかもしれないぞ?」

「ププッ」

「おいなんだその笑いは」


 ともかく、触りだけでも感想をもらえるならありがたいことだ。


 WI-FI経由でアップロード&ダウンロードが始まる。

 さてと、空いた時間は後半のゲーム制作に割り当てようかな。

 などと考えていたら――


 ピンポーン。


 と、インターフォンの呼び出し音が聞こえた。 


 手の空いてるときに客人とは、タイミングがいいな。

 俺はスマホをもったまま、モニターを覗き見た。ここにはマンション外に設置されたカメラの映像が映し出される。


 カメラに映りこんでいるのは、俺たちの良く知っている人物だった。


「誰?」

「お手伝いさんが来た」


 お手伝いさん。


 今ここにいない両親が、俺と妹のために用意してくれた家政婦だ。


 俺の声を聞いたさくらが立ち上がり、玄関へと向って行った。


「こんにちは」

「よろしくお願いします」


 さくらが連れてきたお手伝いさんに、俺も挨拶をする。

  

 俺も妹もこの手の作業を全くできないというわけではないのだが、『学生の本文は勉強』と豪語する両親によってこのお手伝いさんを無理やりあてがわれてしまった。

 当初は生活空間内に他人がやってくることに若干の息苦しさを覚えたものの、慣れた今となっては中のいい知り合いも当然だった。


 昼食、夕食、掃除、洗濯等様々な家事をお手伝いさんにやってもらっている。もちろん彼女に迷惑が掛からないようにある程度はこちらで済ませておくのだが、最近は慣れてきたせいか全部丸投げすることも増えてきている。


 許して欲しいお手伝いさん。俺は生来自堕落な人間なのだ。


 お手伝いさんが部屋の外に出た。まずは俺と妹の部屋を掃除する、というのがいつものパターンだ。


「あ、ダウンロード終わったみたい」


 WI-FI経由でのデータ受け渡しが終わったようだ。


「それじゃ、お兄ちゃんのゲーム、拝見しちゃいましょうか」

「お、おう」


 うっ……やはりちょっと緊張するな。


「やり方分かるか?」

「まってね、マニュアル見てみるから。ええっと……」


 手探りの状態でデータを触り始めた妹だったが、すぐにゲームらしき画面を開くことに成功した。初心者にもわかりやすい親切設計のようだ。


「ふむ、ふむ、ふむふむふむほー」


 さくらが俺のゲームを遊んでいる。

 まるでテストの採点をされているような心境だった。

 いや、俺は妹相手に何を緊張してるんだ? 別に怒鳴られたり殴られたりするわけじゃないんだぞ? 落ち着け……落ち着け。


 しばらくして、さくらが顔を上げた。

 

「思ったよりもずっと良くできてると思う」

「ほ、本当か?」

「でもねお兄ちゃん。ところどころ適当というか、いまいちというか。一番最初のイベントなんだけど、薬草を渡して槍を渡して香辛料を持ってきてって、一度に全部覚えきれないよ。会話のログも呼び出しにくいし……」

「ま、待て、今メモするから」


 貴重な感想だ。余すところなくゲームに反映させていきたい。


 俺はさくらの文句を事細かにメモした。


 これは……思ったよりもだいぶ修正箇所が増えるな。

 さくらはたった一時間程度しかこのゲームを触っていないのに、それでもこの調子なのか……。


「最初一時間プレイしこれなら、全体を通したらもっと間違いがあるんだろうな。なんだか気が重くなってきたな。俺、こんな駄作に長時間かけてたのか……はぁ」

「駄作だなんて、そんなことないよっ!」


 さくらが俺の手を握った。


「さくら?」

「あたしね、そんなにいっぱいゲームするわけじゃないけど、でも、このお兄ちゃんのゲーム、続きやってみたいなって思ったよ。いろいろ言ったけど、これから修正して改善していけばもっと面白くなるって思った」

「……そうかな。俺に……できると思うか?」

「できるよっ、お兄ちゃんならっ! あたし、完成版を楽しみにしてるから」

「さくら……」


 いいな。

 

 久しく忘れかけていた創作の喜びを思い出す。

 そうだな。ずっと一人で黙々と作っていた。誰からも褒められることなく、なんとなくこんなゲーム制作の仕事に就職できたらいいなー、とか思いながら流れ作業で頑張っていた。


 でも、今、妹に褒められて気が付いた。

 俺は……馬鹿だった。

 

 一人では間違いに気付けない。


 俺には協力者が必要だったんだ。さくらみたいに、一緒になって喜んで、文句を言って、成長を促してくれる存在が。


 俺、もっと頑張れる気がする。

 もっと面白くしよう。


 さくらを喜ばせるために。



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