二人のサポート
裕也が、消えた。
俺が勇者として異世界に召喚した裕也。
俺のことを敵視し、嘲り、馬鹿にしていたように見える、俺と同等の力を持つ男。
そいつが、消された。
俺が魔王エドワードと呼んだ、この男のせいで。
「あんた、裕也を消したのか?」
「ああ、君がかつて向こうの世界の魔王エドワードを消したようにな。奴はこの世界でも、そして向こうの世界でも存在しなかったことになっている」
「そ……そんな……」
「ジャンヌやエドワードは必要な人材だったから代わりの人間があてがわれたが、もうあのゲームは終わったからそんな必要もない。裕也に代わりの人間はいない。ただのクラスメイト、ただの異世界人なんていてもいなくても同じだからな」
本当に、裕也は……死んだのか?
いや、死んだなんて生ぬるい。存在自体がなくなったことになってるって、そんなひどいことが……。
「すまなかったな」
「え?」
「言っただろう? 俺はお前を応援してると。皆斗と裕也はお前をサポートするために用意したんだが……あのバカは何を勘違いしたのか……」
あ?
サポート?
裕也が俺を? いやそれよりもあの皆斗が?
俺は部屋の隅で無言のまま腕組みをしている皆斗へと目線を移した。
「ちっ」
あまり機嫌がよさそうには見えない。裕也に同情しているのか、それとも自分にまで火の粉が飛んでくることを恐れているのか知らないが、その態度は明らかに下っ端か何かのそれだった。
「俺と裕也は、この物語が円滑に……そして面白くなるようにクラスメイトたちを導いていた」
そっと、しかしはっきりと皆斗がそう答える。
あまり話したいようには見えない。しかし魔王エドワードのことをちらちら見ているところから察するに、あいつもまた裕也と同じように生殺与奪を握られているのだろう。
「裕也は主人公として、俺はその影として。俺は汚れ役担当としていくつも悪事を犯した。あの世界に飛ばされる前、つまり裕也をいじめていたことを含めてだ。お前には……言うまでもないと思うがな。本意じゃないぜ」
汚れ役、担当?
じゃあ、リディア王女が襲われそうになったのは、全部物語を盛り上げるため? 俺をサポートするため?
なんだよそれ、訳が分からない……。
「俺は全然助けられなんかいない。お前らのせいで何度も悩んだ。多くの人が死んで、苦しんで、どうすればいいか必死に悩んでた。それなのに助けたとかサポートしたとか、お前らが何言ってるのか全然分からないっ! 頭がおかしいんじゃないのかっ!」
「裕也は馬鹿な奴だったが言っていることは間違っていない。すべてはお前の話がつまらなかったからだ」
皆斗に引継ぎ、魔王エドワードを名乗る男がそう答えた。
「だから俺はこの地にジャンヌを召喚し、お前と戦わせた。異世界の住人を倒し、殺し、消してしまう勇気をお前に持って欲しかった。このつまらない物語を変えて、より愉快に、痛快に導いていく決断をお前に求めていたんだっ!」
「……っ!」
勇気。
その言葉に、俺は……ほんの少しだけ納得してしまった。
俺は今まで、何度も悩んでいた。異世界を大きく変えて、争いを鎮めることができるかもしれない機会は何度もあった。
だが俺はそのたびに躊躇した。それは異世界で暮らす住人に、神のごとき力を行使してしまっても良いのだろうかという良心だった。
気に入らない誰かを消したり、操ったり、あるいは勝手に動かしたりなんて、本人からしてみればあまりにも理不尽な行為だ。
ライオネルが俺に憤りを覚えていたのは当然だった。
奴は異世界人の敵だったから何かをしても罪悪感はほぼなかったが、もし、同じ怒りを人間から向けられたとしたら?
「だから……俺がつまらないゲームを作ったから、なんだって言うんだよ」
「…………」
「ああそうさっ! 俺は裕也の言うように無能だったかもしれないっ! つまらない、無駄の多いゲームを作ったかもしれないっ! なら俺じゃなくても良かっただろっ! 他の才能のある奴に〈異世界ツクール〉渡して、楽しいゲーム作らせればよかっただろっ! なんで俺なんだよ……」
「お前は俺の用意したゲームメーカーなんだ」
「だから、他の奴にそのゲームメーカーってのをやってもらえばいいだろっ!」
「お前は俺がゲームを作るために生み出した唯一無二の存在だ。代わりはいない」
その、言葉に。
俺は不穏な何かを感じた。
生み出した? 唯一無二の存在?
「生み出した? お前が、俺を?」
「そうだ」
「俺は両親から生まれた。お前は俺の親か何かか?」
「リディア王女も自分が両親から生まれたと思ってるぞ? そういうことだ」
「いやだってそれは……」
それは、俺がそう設定したからで……。
いやでもリディア王女には親がいて妹もいて、それは俺がそう設定したからで違和感を持ってなかったよな。
だったら同じことが俺に起こってたとしても……。
「……こ、ここは現実世界だぞ? そんなのおかしいだろ」
「お前が現実世界と呼んでいるここは、俺が作り出した世界だ。お前に、ゲームを作ってもらうために用意した、小さな箱庭だ」
「そんなバカなっ!」
「疑問に思わなかったのか? 家族が住めるファミリータイプのマンションに、たった一人で住んでいたその不自然さを。お前は生まれてまだ一年もたっていない。あの日、教室で、チャイムの音で目を覚ましたその時、すべてが始まったんだ」




