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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
人魔大戦編

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最後の魔界三将


 魔王ジェーン、死亡。

 裕也たちはその戦果を喜び、歓声を上げた。

 

 しかし、しばらくしてすぐに祝うのを止め、前へと進み始めた。

 魔王を倒してもまだ、魔族たちは残っているのだから。


 最後に残った魔界三将の一体、ライオネル。有象無象の魔族だけなら、普通の兵士たちでもなんとか倒すことができるが、この魔王軍の幹部だけはそうでない。

 裕也たちが倒しておかなければならない、強敵なのだ。 


 裕也たちの進軍に、障害はほぼなかった。

 ジェーンをなくした魔族たちはあまりにも無力だったからだ。

 それは彼女があまりにも規格外だったからでもあり、それを倒した裕也たちが強すぎるということでもある。多少強い魔族がいたのかもしれないが、今、城の中に入った裕也たちは難なく前進を続けていた。

 そしてここ、玉座の間へとたどり着く。


 裕也視点では扉しか見えていないが、俺にはその先にいるライオネルの様子も見えている。

 ライオネルは玉座の前に立ってて、他は誰もいない。不安げに視線をさ迷わせたり、無駄にうろうろとしたりしているがそれだけだった。

 ジェーンに全幅の信頼を寄せていたのだろうか? まあ、仮に敗北を疑ったとしてももう彼女以上の駒は用意できないんだ。 

 多少不安はあってもここで迎え撃つつもりなのだろう。


「いくよ、みんな」

「ああ……」


 裕也が、ゆっくりと扉を開いた。


 雨雲渦巻く魔王城の部屋は、窓ガラスがあっても薄暗く……そして妙な威圧感のある場所が多い。ましてやここは玉座の間として、数々の調度品とステンドグラスによって彩られている。その場にいるものの緊張感は相当なものだろう。

 

 何十人も収容できる、広い部屋。しかし今この場にいるのは、たった一体だけ。


 全知の将、ライオネル。

 

 この長い異世界物語の最後を彩る、最後にして最大の敵。


 扉の開く音を聞き、ライオネルは勇者たちの存在に気が付いた。 

 

「なん……で……」


 焦り、失望、戸惑い、怒り、悲しみ。あらゆる負の感情を一緒くたにしたその表情は、うまく言葉で表現することができない。


「な……なんでこんなことになってるんだよっ!」


 ライオネルは無人の玉座を叩き、絶望を露わにした。


「こんなはずじゃなかったはずだ! 僕は将軍で、魔王様がいて、仲間がいて、みんなでうまくやっていた。夢も希望もあったはずだ! こんなの……こんなの認められるわけがないっ!」


 おそらく、ジェーンの帰還を期待していたのだろう。だが裕也たちの姿を見て、彼もとうとう確信してしまったようだ。

 自分が、最後の魔界三将なのであると。

 

 しかしそれを認めようとせず泣き叫ぶ姿は、まるで駄々をこねている子供のようだ。

 

 諦めろよライオネル。もう、お前は終わったんだ。


「僕は魔王様の……エドワード様の敵を取りたかった」

「…………」

「だから神を挑発した! 助言通り、あいつを煽って、僕が黒幕だって騙して! そうすれば勝てるって、そう言ってたじゃないかっ!」


 その言葉に、俺は鈍器で頭を殴られたような衝撃を覚えた。


 神……とはすなわちこの世界を生み出した俺自身のこと。

 騙した? 俺を? 黒幕だと? そうすれば勝てる? 

 

 かつて俺は刺客を通してこいつに質問した。『ロリタ王女を殺したのはお前か?』と。その質問に奴はYESと答え、それこそが黒幕である何よりの証だったはずだ。

 だが今、その前提は完全に崩されてしまった。自らの敗北を察したライオネルに、今、変な嘘をつくような余裕があるようには見えない。


 心の中で薄っすらと勘づきながらも考えないようにしていた……最悪の事態が起きてしまった。


 ライオネルは……黒幕の駒だ。


 奴は俺みたいに真の黒幕に襲われた犠牲者なのか? 頭の中に声が響いて、今、どこかにいる本当の黒幕とコンタクトを……。


「返してよっ! ジェーンを! エドマンドをっ! それに本当の魔王様をっ! 僕たちはただ夢を見たかっただけなんだっ! それだけの力があるなら、僕たちをっ!」


 泣き叫ぶライオネルが、抗議の声を上げている。


 その姿に、俺は……違和感を覚えた。


 どこかでこの話を聞いてる、真の黒幕? 異世界にいる俺みたいに、モニターかスマホ越しに様子を見ている?


 違う。

 違うぞこれ。

 そうじゃない。

 

 以前、俺はエドワードを名乗る黒幕と接触し、奴から一方的に声をかけられた。スピーカー越しに聞こえてきたその声は、明らかにその場にいない第三者。俺はその正体を魔王だと思い込み、話をすることしかできなかった。 

 ロリタ王女を傷つけられた恨みも、憎しみもあった。そして得体の知れない恐怖もあった。しかしその場にいない誰かに怒りをぶつけることは難しい。だから奴が魔王ではないと知った時は、ただ困惑することしかできなかった。


 だがこのライオネルの様子は、あの時の俺とは少し違って見える。

 独り言を叫んでいる様子でも天に向かって言葉を吐きつけている様子でもない。

 明らかに、目の前にいる人間たちに向けて言葉を放っている。


 そう、ライオネルは抗議している。


 目の前の……異世界人たちに。


 つまりそれは――

 

「何言ってるの? あの魔族?」

「こっちに話しかけてるのか?」


 クラスメイトたちは困惑しているように見える。

 けど……。


 あの中に……いるのか?

 この一連の事件の……真の黒幕が。


「…………」


 にやにやと笑いながら、一同の前に出てきたのは皆斗。

 どういうつもりだあいつ? 非戦闘職のくせに、こんな前に出て殺されるぞ? 

 いや……もしかして……まさか。

 まさか……。

 

「魔界三将ライオネルっ!」


 一方、裕也はこれまで魔族たちを相手してきたのと同様に、剣を構えて前に出る。


「…………くくく」


 裕也を見て、皆斗が笑った。

 まさか……お前が、そうなのか? 皆斗?


 まずいぞ、裕也の奴。皆斗のことに気が付いてないっ!


「裕也っ! 危ないっ!」


 俺は思わずそう叫んでしまった。

 皆斗は何も武装などしてないが、もし、俺と同等の力があるのだとすれば、裕也を攻撃することなど造作ない。

 

 だが所詮は異世界にいる者の叫び。俺の声が向こうの世界に響くことはなかった。  


「言う通りにすれば……魔族が勝てるって……、僕のことを、応援するって……」


「これで……最後だあああっ!」

 

 迫る裕也。 

 笑う皆斗。

 そして――


「君たち二人・・が、そう言ったんじゃないかああああああああああああああああああっ!」


 ライオネルがそう叫んだ、瞬間。


 裕也の剣が、ライオネルの腹を貫いた。

 


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