決着
「うらああああああああああっ!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
ジェーンと裕也。
まるでバトル漫画を見ているかのような熾烈な攻防が、画面の中で繰り広げられている。
最強の剣、エクスカリバーを持つ裕也と、折れた戦斧を持つジェーン。
しかし数十、数百と切り結んでいくと、徐々に形勢が明らかとなっていった。
ジェーンの斧が、劣化している。
裕也が剣を振るたびに、刃が、柄が、少しずつ傷つき、砕かれ散っていく。一つ一つは小さな傷だったが、時間とともにその穴は広がり、徐々に……しかし確実に無視できないほど大きなものとなっていった。
そして、ついに。
「ぐううううううううっ!」
とうとう、裕也はジェーンの戦斧を完全に破壊した。
刃こぼれだらけの斧は手で持てないような形状に砕け、とてもではないが斧として……否、鈍器としても使用できない形になっていた。
「これで……終わ――」
「舐めてもらっちゃ困るねぇええええええええええっ!」
剣を振り下ろした裕也。
素手のジェーンに防ぐ術はなく、ここで勝敗は決したかと思ったが、どうやらそう甘くはないらしい。
「斧なんざ必要ないねぇ! この拳こそ最強の武器っ!」
ジェーンはその手刀で、裕也のエクスカリバーを受け止めた。
「え……」
光り輝くジェーンの拳。
おそらくは闘気のようなものを拳に集中させ、硬度と強化しているのだろう。そんな設定はなかったはずだが、常軌を逸した彼女の力が……俺の決めたルールを完全に上回っている。
裕也の剣を振り払ったジェーンは、すぐさま後方へと跳躍した。
「まだ終わっちゃいない。まだ終わっちゃいないよっ! あたいは勝つっ! あんたも、あんたの後ろの奴らも全員殺して、この世界を魔族のものに……」
「もう、絶対に、そんなことはさせないっ!」
ついさっき死んだ、仲間のことを思い出したのか。
あるいは、守れなかったこの世界の住人のことを思い出したのか。
光を纏った裕也の剣が、さらに輝きを増していく。
「…………」
急に、全身で興奮を表現していたジェーンが……静まった。
裕也の怒りに気圧された……ようには見えない。その姿は怯えるものというよりは、むしろ戦う者のそれだ。
だが武道の達人が奥義を見せるときように、今、ジェーンはすべての力を拳に手中させ、あらゆる煩悩を払っているように見える。
「……来るのかい?」
「……はい」
ジェーンも裕也も悟った。
次こそ、この戦いのクライマックスなのであると。
後ろに控えているクラスメイトたちが、固唾をのんで二人の様子を見守っている。
そして、画面越しにそれを見ている俺たちも同様だ。
波の打つ音だけが、周囲に響き渡る。
一分か、十分か、三十分か、時の流れを錯覚してしまうような緊張の中、俺たちはただ……見守ることしかできない。
「行きますっ!」
まず先手を打ったのは裕也。
大きくその足を前に進め、ジェーンとの距離を詰める。
対するジェーンは拳を構えたまま、その場に静止。
カウンターを狙っているように見える。
やがて、裕也の剣がさらに輝きを増してそして――
――光。
スマホの画面が真っ白に染まってしまった。
「…………」
何かのぶつかる音が聞こえる。
裕也の剣がジェーンを切り裂いたのか?
あるいは、ジェーンの拳が裕也を打ち砕いたのか?
その場にいない俺は、ただ、この光が収まるのを待つしかなかった。
十数秒の後、光が弱まり……結果が露わとなった。
そこには、剣を突き立てる裕也と、地面に倒れこむジェーンがいた。
「いいね……いいねぇ……」
自らに刺さる剣を愛おしそうに撫でながら、恍惚の笑みを浮かべるジェーン。かなりの痛みを覚えているはずなのに、とても苦しそうには見えない。
「あたいは満足だよ。こうして思う存分戦えて、そして死ぬ。武人にふさわしい最後だったさ」
「…………」
「ああ、そうさそうさ。あたいは武人で……将軍なんだ。魔王なんかじゃない、魔王……なんかじゃないんだよ。それなのに……どうしてこんなにも窮屈な…………こと……を…………」
そこから先は、言葉が続かなかった。
魔王ジェーン、死亡。
かつて俺が消した魔王エドワードの代替としてこの世界に収まった、魔族の王。彼女の死はすなわち魔族の敗北を意味しており、人類の勝利を決定づける出来事だ。
「うおおおおおおっ!」
壁の残骸を乗り越えたクラスメイトたちが、歓喜の声をあげながら裕也に駆け寄っていく。
「お前、お前やりやがったな裕也っ!」
「すごいわ一ノ瀬君! こんなことになるなんて……私……」
「万歳っ! 裕也万歳っ!」
裕也はもみくしゃにされながら、みんなに祝福されている。彼は魔王を倒したこの世界の英雄であり、そしてクラスメイトたちにとってもまた危機を救った勇者なのだった。
「やったな、裕也」
俺はスマホを机に置いて、深いため息をついた。
やはり俺の判断は正しかった。
ここは裕也に任せて正解だったんだ。
規格外の力を持つ魔界三将を倒すには、同じようにあの世界で成長して強くなっていく存在……すなわち裕也のような協力者が必要だった。
そして、裕也は見事俺たちの……そして世界の期待に応えてくれた。
「や、やりましたね大和様。わたくしたちは……もう、魔族に怯えなくて良いのですね?」
「…………そうだな」
リディア王女が歓喜の涙を流している。
「ありがとうございます。本当に……ありがとうございます」
「お礼は裕也に言ってくれ。俺はなにも……いや、むしろ……」
そう。
俺は何もしていない。
しかも、二人犠牲者を出してしまったことは何の言い訳もできない。
もしあいつらがこの世界に戻ってきたとして、俺は……一体どうやって言い訳をすればいいんだろうか?
いや、そもそもあいつらは本当に戻ってこられるのか?
このゲームを終わらせれば戻ってくるかもしれない、というのは俺の勝手な願望だ。そうである可能性がないとはいえないが……そのままあの世界に残ってしまう可能性だってある。
それにまだあいつ……全知の将ライオネルがいる。俺と同等の力を持つあいつが残っている以上、まだ……すべてが終わったわけではない。
ジェーンは間違いなくあの世界最強の存在だった。だから、今の裕也に倒せない敵なんていないと思う。
だがなんだ……この不安は?
俺は何か、とんでもない思い違いをしているんじゃないのか?
戦斧なんかねぇよ
うるせぇよ
黙れよ
拳こそが正義
ただしいのはあたい




