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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
人魔大戦編

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時間停止の行方

 

 画面上のボタンを押して、再び異世界の時間を停止させる。

 リディア王女が思いついた奇策によって九死に一生を得た俺は、次なる手を打つことにした。

 すなわち、異世界の時間を巻き戻して、より有利な展開へと持っていくことだ。


 こうして俺は、〈リアルツクール〉を介して異世界の時間を巻き戻した。

 そのはず……だった。

 

「は?」


 しかし事態は、俺の予想だにしない方向へと進んでいたようだ。


 まず初めに気が付いたのは、ゾンビが……増えてることだった。

 アングル王国首都、防壁の付近にいるゾンビ。その数はなんと四体。時間停止前の四倍だった。 


 お……おかしい。

 

 裕也たちがゾンビと戦っている。

 時間を巻き戻す前もゾンビと戦っていたが、今の裕也たちは疲労困憊が甚だしく見える。まるで何十分も、あるいは一時間も二時間も連続で奮戦していたかのような、そんな雰囲気であった。

 

 お、俺は夢でも見ていたのか?


 そういえば以前、ライオネルは俺の時間操作に抵抗できていた。まさか今回も奴だけ俺の停止操作を脱して、その隙に……。


 いや待て、それはおかしいぞ?


 ゾンビを投げているのはジェーンだ。ライオネルだけ自由になっても何もできないはずだ。他のゾンビたちだって動いてるように見えるし、裕也だってそれに抵抗してこんなことになってるんだ。

 そもそも時間を巻き戻したはずなのに、全然戻ったような気配がない。まるで俺たちだけを残して時間が進んでしまったかのような……。


 そこまで考えて、俺はその可能性へとたどり着いた。


「まさか……時間を、止められた?」

「そんな……まさか……」


 リディア王女の顔が青ざめる。

 彼女も、そして俺も理解してしまったのだ。

 時間が止まっていたのは『異世界』ではなく、『俺たち』の側なのであると。

 だから時間を巻き戻しても手遅れになってしまった。

 

「ライオネルにその力があったとすれば、納得のいく話だ。俺たちの時間を止めて、、その間に向こうの世界を進める。ジェーンが島のゾンビたちをすべて投げ終えて、着地した奴らはアングル王国首都へと向って行く。裕也たちは頑張ったけど、敵の数が増えるたびに苦戦し始めている。もし俺たちが時間を止めようとしなければ……そんな流れになっていたはずだ」

「で、ですがこちらはすでに魔界三将の一体を倒したのですよ? い、今更時間を止めるなんて……エドマンドの死はなんだったのですか? 無駄死にではないのですか?」

「分かってる……分かってるんだ。だから俺も……戸惑っている」

「大和様……」


 もう、何が何だか分からない。

 俺は本当に異世界の創造主なのか? 誰かの手のひらで踊っているだけで、実はあの世界で何もできないただの人間だったんじゃないのか?

 だってそうだろ? 俺は人類を救おうとしたはずだ。そのために打てる手を打ってきたはずだ。それなのにいつの間にか魔族が暴れて、慌てて何かしようとしても後手に回って。


 あの世界は魔族が主人公の世界なんだ。俺たちはその逆転劇を彩る舞台装置でしかない。

 そう考えてしまった方が納得のいく話だった。


「うおおおおおおおおおおっ!」


 スマホから聞こえた裕也の声にはっとする。


 そうだ。

 向こうの世界で裕也たちは頑張ってるんだ。

 俺が落ち込んでどうする? あいつらは命を賭けて必死に戦っているのに、こんな平和なマンションでスマホを弄っている俺が……落ち込んでいる権利なんてあるのか?

 たとえライオネルが時間を止められるとしても、まだ、俺のできることは十分にある。落ち込むのはまず最善を尽くしてから。


「きゃあああああああああああああああああっ!」


 今までと毛色の違うその悲鳴に、俺は心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃を受けた。

 

 画面をスワイプして、様子を確認する。

 すると、裕也や皆斗たちが戦う後方で、事件が起きていた。

 サポート役に徹していた一人、旭川若菜が倒れこんでいた。


 おそらくはゾンビの一体に奇襲されてしまったのだろう。刀傷によって腹部を傷つけている。

 深い。傷があまりにも深すぎる……。

 化粧越しでも分かるほどに青ざめたその顔は、もはや死人と言っても差し支えないほどだった……。


 冷静に考えれば当然のことだ。

 ゾンビは四体。一体でさえ苦戦していたのに、四倍の苦労を強いるのであれば当然どこかでほころびが生じてしまう。


 そもそも俺が軽い気持ちで裕也以外を非戦闘職にしてしまった。それでもあいつらは機転を利かせて相手にダメージを与える方法を見出したり裏方に徹したり頑張っていたのだが、とうとう現実の脅威に対応できなくなってしまったか。


「う……うああああああああああああああああああっ!」

「若菜っ! 若菜っ!」


 若菜のクラスメイトたちが悲鳴を上げた。だが誰しもゾンビとの戦いに集中しているため、救命措置を取ったり回復魔法をかけたりなどということはできない。


「あ……う……」


 それが、最後に彼女――若菜が残した言葉だった。

 ステータスのHPははっきりと彼女の体力がゼロであることを示している。そして、生存であった彼女の状態が、別のものへと切り替わる。

 この世界で俺の妹――さくらがそうであったのと……同じ状態。


 とうとう、悲劇が起きてしまった。


 若菜が……死んだ。


 俺がこの異世界物語を開始して以降、初めて出た……異世界人の死者だった。

 俺のゲームが、人を殺してしまったんだ。


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