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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
人魔大戦編

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時間停止


 俺が異世界に召喚した隣のクラス。

 いじめられていた裕也。

 そして、彼をいじめていた皆斗。


 決して心を通わせるはずではなかった二人が、今、共闘をしている。

 

 しかもそれだけではない。



「薬草はあたしがっ!」

「武器は俺がこの場で打ち直してやるっ!」

「私が動物を操って囮にするわっ!」


 若菜が、直史が、美咲が……。

 俺の知っているクラスメイト達が、裕也を軸として完全に協力体制を取っている。


「僕が、この国を……守るんだあああああっ!」

  

 確かに、このゾンビは強い。

 偽ロリタ王女をベースとしたそのゾンビは、ゾンビ化の影響によって低下した体力と防御力を除いてほぼ生前の力を引き継いでいる。 

 だがそれは、個々の個体としての力だ。

 何人も何十人も、ある程度まとまった戦力と集団で戦うとなれば、この最強ゾンビに十分勝利は可能だ。


 あるいは俺のように何体も何体も偽ロリタ王女を召喚することができたら、話は変わっていたかもしれない。しかし今のところこいつらの補給方法は、ジェーンによる不正確な投擲のみ。このアングル王国の首都に至るまでには時間差が存在する。


 共闘さえ保てば……勝利できる。


 …………。

 なんてことだ。

 最後の最後で、こんなイレギュラーだらけの危機的な状況で……。仲直り……するなんてな。

 いや、だからこそか。


 余裕がないから協力し合ってる。そしてそういった困難に立ち向かうところから、友情や信頼が芽生えていくのかもしれない。

 

 もちろん、この戦が終わったら再び元の関係に戻る可能性はある。でも、一度心を通わせたんだから、きっとあいつらは分かり合えると思う……。

 死んでいなければ、の話だが。


 勝機は見いだされが、誰かが死んでもおかしくない。その時、俺の用意したプレイヤー蘇生の設定は果たして上手く機能するんだろうか? こんな形で試したくはなかったな……。


「…………」


 くそっ!

 それに比べて今の俺はなんだ?

 あいつらは死を覚悟して戦ってるのに、元凶の俺は……なんて情けない姿なんだ。

 せめてあいつらを援助できるように、これから来るゾンビたちを消したり足止めしたりして……。


 ――キーンコーンカーンコーン。


「へ?」

 

 聞こえてきたのは、学校のチャイムの音だった。


「大和様」


 リディア王女がスマホっぽいプレートを手に持っていた。彼女が所持していた、この世界のすべてを操る〈リアルツクール〉。あのチャイム音は……この間設定した世界改変の合図音だったはず。

  

「私の〈リアルツクール〉で、大和様の〈異世界ツクール〉を停止してみました。いかがですか?」

「停……止?」


 スマホを見ると、確かに画面が静止している。

 これはまさしく、俺がついさっき時間停止をした時と同様だった。


「なるほどな、この発想はなかった。このスマホアプリ自体を停止する……か」


 回りくどい、でも俺が思いもつかなかった発想の勝利、といったところか。

 

「勝手なことをして申し訳ありません。ですが、わたくしはどうしてもあの世界を、家族と国民を守りたくて……」

「俺だっておんなじ気持ちだった。謝ることなんてないさ。むしろよくやってくれたと思うよ」

「……ありがとうございます」

「アプリ自体が停止してるから向こうの世界に介入はできないけど、考える時間はできたな。あっ、そうだ。時間を巻き戻したりできないのか?」

「おそらく、ここを動かせば……」

「おおっ!」


 かつて俺の〈異世界ツクール〉がそうであったように、この〈リアルツクール〉にも動画再生のシークバーのようなものが配置されている。

 こいつを巻き戻せばいいんだな……。

 よしっ! やるぞっ!


 ――キーンコーンカーンコーン。


 そうして。

 世界が。


 ――停止した。



 *************


 ――キーンコーンカーンコーン。


「う……あ……」


 魔界三将、魔族ライオネルは呻いていた。


 また世界が止まった。 

 隣のジェーンは完全に動きを止めている。それどころか、風も波も雲の動きも、自分以外のありとあらゆるものが静止している。


(いったい何が……なんて考えるまでもないよね。僕たちにこんなことをできるのは……神以外に考えられないのだから) 


 神。

 それはこの世界の創造主であり、すべての事象を操ることのできる存在。今自分がこうやって苦しんでいるのも、そして突然魔王エドワードが死んだのも、すべてはこことは違う世界で干渉してくる神のせいだ。


 だが、それを知っていたところでライオネルにはどうすることもできない。

 それほどまでにこの神の力は絶対的だった。


「っと、大丈夫か?」


 瞬間、体が軽くなった。

 まるでどろどろしたはちみつの中を動き回っているかのように動きが鈍かったのだが、今、ライオネルは普段と何ら変わらないように動けている。それは目の前の『彼』が自分を助けてくれたからに他ならない。


「ああ……助かった。助かったよ」

「礼はいいって」

「ところで、一体何が起こってるんだい?」

「分かってんだろ? 神が力を使って世界の時間を止めようとしたのさ」


 彼はそう言ってため息をついた。迷惑で面倒だが、しかしそれほど苦にはならないといった様子。

 世界の時間を止める、というのは明らかに常軌を逸した力だ。なのにそれすらも歯牙にもかけないと言いたげな彼の様子に、ライオネルは恐怖すらも覚えるのだった。


「じゃ、じゃあ、またこの前みたいに何かこっちが不利になる細工をされるってことなのかな? た、大変だ、でも一体どうすれば……」

「だから俺が向こうの時間を止めた」

「は?」


 一瞬、ライオネルは彼が何を言っているのか分からなかった。


「時間を……止めた? どういうこと?」

「鐘の鳴る音が聞こえなかったか? あれは向こうの世界に干渉する合図だ。俺は奴らが時間を止めようとするのを確認したちょうどそのあとすぐに、奴らの時間を止めた。ああ、範囲とか対象とか絞る時間なんてなかったからな、あの世界丸ごと全部停止したぜ」

「そ……そんなことが……でも……」


 ライオネルは困惑を隠せなかった。

 確かに、彼は自分を助けてくれた。敗北必死だった魔族たちにとって、まさしく救世主のような存在だった。

 しかし――


「君のおかげでエン将軍を無力化できた。その件は感謝しているよ」

「ああ……エン将軍か」


 エン将軍を思い出したらしい彼は、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。


「かわいそうな男だ。神の手の内で踊る、物語を彩るための道化」

「…………」

「ああはなりたくねぇよな? だったら、どうすりゃいいか分かってんだろ?」

「それは分かってる……けど……」


 言わなければならない。

 どれだけ不気味な存在であろうと。自分より上の存在であろうと。


「一つ、言わせてもらえないか?」

「ん? なんだ?」

「確かに、君はすごい力を持っている。そして僕はその力に縋るしかない」

「そうだぜ、何も間違ってねぇよな?」

「だがエドマンドが死んだっ! 神と同等の……いや、それ以上の力があるなら、助けてくれても良かったんじゃないか? たとえ僕たちが勝てたとしても、死んだエドマンドや魔王様は戻らない。なのに、なのに僕たちを見殺しにして……」

「甘えんなよ雑魚が……」

「うっ……」


 その言葉に、ライオネルは思わず声を止めてしまった。


「戦いに犠牲はつきもんだろ? お前らこれまで何人の人間を殺したんだ? それを仲間が死んだからボスが死んだからって、ぐちぐちうるせーよ。何の犠牲もなく勝利を得られると思うな? 今から時間停止を解除して、お前ら全滅させてやってもいいんだぜ」

「そんなことをされたら……僕は……」

「はははっ、真に受けんなよ魔界三将。冗談に決まってんだろ」

「…………」

 

 反吐が出る、とはまさにこのことなのだろうか。

 冗談には聞こえなかった。彼にとって、魔族が生きていようが死んでいようが……どうでもいいのかもしれない。

 

 それはさながら、エドワードやエドマンドの命を奪った神のようで。


「俺はいつでもお前らのことを応援してるぜっ! がんばれよっ! 勝利は目前だっ!」


 陽気にライオネルの肩を叩く彼。そこだけ切り取れば、気の良い仲間のように見えるが。


(本当に……これで良かったのかな? エドマンド……君に、相談できれば……きっと……)

 

 もはや存在しない仲間のことを思い、ライオネルは悲しみに暮れるのだった。


 


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