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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
人魔大戦編

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エドマンドの絶望

 

 時間停止。

 〈異世界ツクール〉によって生み出されたゲームの世界。リディア王女の提案もあり、俺はあの世界の時間を止めることに成功した。

 止まらぬ進撃を続ける魔界三将に、とうとう有効打を打つことができた。

 やっと、やっと……。

 

 俺はゆっくりと脱力した。

 イベントに次ぐイベントで疲れ切っていたのだ。休む暇がなかった。


「おめでとうございます大和様。これでわたくしたちの世界も……きっと救われるのですね」

「ああ、ここまでうまくできたんだ。必ずそうしてみせる」


 さて。

 リディア王女が見ている手前だ。いつまでも休んではいられない。


「まずはこの時間操作について詳しく見てみようか」


 シークバーを前にずらして、時間を巻き戻すことは可能か、ということだ。


「…………」


 俺は指を這わせてシークバーを動かしてみた。


「おおっ!」


 時間がマイナスを示し、そして画面も過去のものへと切り替わってた。

 どうやら、巻き戻し機能もあるらしい。

 だが端まで巻き戻しても時間はマイナス60分以上動かなかった。どうやら過去に戻るのにも限界があるようだ。


「60分、か」

「ロリタの偽物が倒される少し前、ちょうど魔界三将が城から出てきたあたりということですね」

「ああ……」

 

 欲を言えば遥か彼方の過去まで戻ってすべてをやり直したかったのだが、やはりそううまくはいかないか。もしかするとそういう機能があるのかもしれないが、そこまでする必要はない。

 

 まずは魔界三将を……。


「なっ……」


 画面を見た俺は、一瞬だが冷汗をかいた。

 

「ら……ライオネル」

 

 時の止まったはずのゲーム内で、ライオネルが少しだけ動いていたのだ。

 万全の状態には見えないが、ゆっくりと、しかし確実に腕や足が動き始めている。まるでスローモーション映像のようではあるが、時が止まったあの世界の中では明らかに異常だった。


 こいつはやはり別格だ。この件の黒幕として、他の奴とは違う何かを持っている気がする。

 だが今の奴はたった一体の魔族。この動きで満足に何かできることはないだろう。


「まずは各個撃破が作戦の基本かと。大和様、決断を」


 リディア王女はライオネルの様子に気が付いていないようだ。まあ、微々たる動作だから少し離れていて気が付かないのは当然か。

 さて……各個撃破か。


 二体、あるいは一体をどこかに遠ざけた後、孤立した方を偽ロリタ王女で囲んで叩く。これがベストだろうな。


 得体の知れないライオネル。

 圧倒的な武力を持つジェーン。


 この二体を隔離したところで意味がない。ジェーンは自力で脱出して合流してしまいそうだし、ライオネルは俺が思いつかないような何かをしてくる不気味さがある。


「エドマンドだ」


 俺はそう結論を下した。


「こいつが一番手を付けやすそうだ。三体のうち一体を削って、確実な戦力低下を狙っていきたい」

「ですがエドマンドは全謀の将と恐れられる軍師。何らかの策略を使って大和様の攻撃を打ち破る可能性も……」

「たとえどんな作戦を立てたとしても、たった一体では倒せない。これ以上奴らを前進させるわけにはいかないんだ。ここで……出鼻を挫いておく」

「大和様がそう仰るのなら」


 結論は決まった。


 俺は停止状態にあるキャラクターたちに操作を行った。

 まず、魔王城から遥か北にある海に孤島を作り出した。ここは戦場から遠く離れており、かつ海によって切り離された場所だ。

 ここにジェーンとライオネルを移動させた。

 体が動き出しているライオネルは若干不安だったが、何の抵抗もなく移動させることができた。

 

 これで孤島に二人を隔離できた。もっとも、ジェーンの力があれば海を割って戦地に戻ってくるかもしれない。

 だが時間は稼げる。

 

 エドマンドの立つ場所の周囲を海で覆った。これで奴もまた孤島に隔離された状態となり、オルレアンにいる配下の魔族たちと共闘できない。

 そして最後の仕上げに決戦兵器の偽ロリタ王女を配置する。前回と同じ轍を踏まないため、攻撃対象は魔族であったりエドマンドであったり、回復アイテムの取得を優先させたり回復を優先させたりと、個々の偽ロリタ王女に差を持たせて対応した。これで何か特定の作戦で全員が失敗してしまうことはないと思う。


 それでももし何か不具合があればまた時間を停止すればいい。

 

 さあ、準備は完了だ。

 時間を進めるぞ。


 俺は開始ボタンを押し、時間の流れを進めることにした。


「え……?」


 驚愕、そして絶望へと染まるエドマンドの顔。

 無理もない。

 彼の視点ではいきなり仲間がいなくなって周りを敵に囲まれたのだ。しかも自分だけではどうしようない相手。発狂してもおかしくない。


「な、なんで……み、みんなは?」

「〈殺陣〉っっっっ!」


 怯えるエドマンドの声に耳など貸すわけもなく、偽ロリタ王女が無慈悲に必殺技を放った。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 エドマンドは必死に抵抗した。

 最初と同じく魔族化を試して偽ロリタ王女の同士討ちを試みた。しかしそれは対策済みなので不発。

 自分の名前を変えようとしたり呪いを使って回復アイテムを無効化しようとしたりアイテムを使って逃亡を試みたり、最後には魚に変化して海に逃げよとすらしていた。俺ですら思いつかなかったような奇想天外な策を次々と打ち出していたのは、さすが軍師として魔王軍に君臨しているだけあると感心した。

 だがそれでもこの絶望の地から逃れる方法はなかった。


 やがて、無数のロリタ王女によって剣を突き刺されたエドマンドは、とうとう動くことすらままならなくなってしまった。


「こ……こんな……こんなことが……。私は……こんなところで死ぬ……のですか? せめて、せめて一矢報いることができたら……」


 エドマンドは必死に手足を動かしているが、もはやハリネズミのように剣の突き刺さったその身体で、何かを成すことは不可能だった。


「ああ……ライオネル……ジェーン。すまない。君たちを残して……逝ってしまう。私は……魔族の理想の世界を……誓って……? 誰に……誓って? う……うう……う……」


 そして、絶命。

 

 全謀の将エドマンド、死亡。

 以前魔王を消した時とは違う、ゲームのキャラクターによって始末された完全な死。誰かが彼の役割を継承した気配はない。間違いなく、俺はエドマンドに勝ったのだ。

 そう、勝ったのだ。

 だけど。


「やりましたね大和様。とうとうわたくしたちの苦労が報われて……」

「なんか……あいつ、かわいそうだったな」

 

 エドマンドの断末魔の様子を見ていた俺は、なんだが、ちょっとだけ心が痛んだ。

 思えばこいつも俺が生み出した世界の被害者なんだよな。それなのに訳も分からずいきなり敵に囲まれて嬲り殺しにされたわけだ。

 

 だけどこれは必要な犠牲だ。

 俺を恨んでくれて構わない。だけど、俺にも守るべき人や世界があるんだ。


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