四人の刺客
このゲームを終わらせる。
そのもっとも効率的かつ勝率の高い方法。
それは俺自身が介入して作ったキャラクターを魔族たちにぶつければいいだけのこと。奴らが刺客を放って巫女を殺したように、俺も奴らに刺客を送るのだ。
俺が直接重要キャラを消すと、代わりに役割を継承したキャラが生まれてしまう。これはエラーを回避するための仕様なんだと思う。
ゆえにこのゲーム内のキャラで魔族の親玉を仕留める。この方法以外ありえない。
だが能力をカンストさせたロリタ王女は魔王ジェーンに倒されてしまった。同じことを繰り返しても意味はない。
だから俺は次の一手を打つ。
創造主である俺だからこそできる、、最強の一手を。
「よしっ!」
今、すべての準備が完了した。
創造主である俺はあらゆるものを生み出すことができ、その配置すらも自由自在だ。
配置する場所は、魔王城。敵のいるラストステージすら、俺にとっては丸裸も同然だった。
そして、俺は『四人』の刺客を召喚した。
魔王城奥、玉座の間に近い廊下の一端。
刺客たちはそこに召喚された。
「ふっ、オルレアンを守っていたこの私が、まさか魔族の地で蘇生を果たすとはな」
白銀の鎧を身に着けたうら若き乙女。
オルレアンの聖女――ジャンヌ。
「流浪の巫女として世界各地を旅してきたあたしだけど、魔族の本拠地に来たのは初めてかな。ゆっくりできるなら観光したかったなぁ」
巫女服を身に着けた青い髪の少女。
流浪の巫女――マリー。
「ロリタ最強伝説! 始まるっ!」
活発に笑う幼い金髪ツインテールの女の子。
アングル王国第二王女――ロリタ=アングル。
「嬉しいのは分かりますがロリタ、私たちは大命を帯びているのです。誇りをもって挑まねばならないでしょう」
そしてロリタと同じく金髪でドレスを身に着けた少女。
アングル王国第一王女――リディア=アングル。
そう、俺は死んだ四人の巫女たちの設定を流用し、ステータスを弄って再登場させた。
もともとある程度戦闘のできたマリーやジャンヌはもとより、非戦闘要員であるロリタ王女やリディア王女もだ。
四人パーティーで敵を倒す。それが俺の作戦だった。
ジャンヌがタンク、ロリタ王女が前衛アタッカー、マリーとリディア王女は後衛アタッカー兼ヒーラーだ。もっとも、これは各個人の生前の性格に当てはめただけの役割設定であり、実際のところ全員の能力が同程度にカンストしているわけだが……。
しかし能力をカンストさせただけで心もとないことは偽ロリタ王女の件が示している。四人ならなんとか、とは思ってみたいが、偽ロリタ王女は圧倒的な力の前に倒されてしまった。その油断は危険だと思う。
「しかしこの剣や鎧はすさまじい業物だな。魔力というか霊力というか、武者震いを隠せない」
「あたしの巫女服、輝いてる見えるよ」
そう。
彼女たちは装備を新調し、俺の与えた伝説級の武具を身に着けてもらっている。リディア王女やロリタ王女のドレスや髪飾りも。
最強の能力に最強の装備を身に着けた……まぎれもなく勇者たち。これでどうにかならないはずがない。
いや……これでどうにかならなかったら……本当に。
スペック的には魔王のもとへと突撃させてもいいんだが、万が一ということもある。事故で殺されてしまったら元も子もない。
効果的かつ戦略的な一手。それはジェーンを無視して高位魔族を仕留めること。
リディア王女たちは廊下の近くにある部屋の中に入った。
俺は今、このタイミングで彼女たちを召喚したのには理由がある。それは今、彼がここに一人でいるからだ。
「き、君たちはっ!」
ぎょっとする青年風の魔族。
全知の将、ライオネル。
魔界三将の一角であり、魔王に次ぐ高位魔族である。
彼が驚くのも当然だ。ついこの間自分が皆殺しにした巫女たちがこうして現れたのだ。悪霊が復讐にやってきたと、気の弱い人間なら卒倒してしまうかもしれない。
「……戦う前に、聞いておきたいことがあります」
そう言って、リディア王女が前に出た。
「あなたが……ロリタの腕をあんなことにした張本人なのですか?」
ロリタの腕。
それはもちろん、異世界におけるロリタ王女のことではない。この世界で今、俺のマンションにいる本当のロリタ王女のことだ。
ジャンヌを殺したのはジェーンであり、マリーを殺した魔物はライオネルが召喚したもの。だからこの件の黒幕がこいつである可能性は少なからず存在する。
もちろん、知っててもしらばっくれる可能性がある。この言葉は反応を見るためのものだ。
果たして……。
「…………ふふっ、ふふふふふふっ!」
侵入者への驚きから一転、ライオネルが笑った。
「そうだっ! よく真実にたどり着いた!」
なにっ!
まさかこんなにも劇的に反応を示してくれるとは……。
「君の連れてきた勇者たちを皆殺しにし、この世界を魔族の支配下におくっ! そしてその次は、お前たちの異世界だっ!」
そ……そんな……。
「僕の『全知』を舐めるなよ創世神っ! お前のたくらみもこれまでだっ!」
創造主である俺のことを完全に認識している。ゲームのキャラとは思えない……知性。
かつてアダムとイブが知恵の木の実で知恵を得たように、このライオネルもまた俺の与えたスキルによって自我を身に着け……そして神に反逆するに至ってしまったということか?
スキル『全知』――すべてを知る力。
この世界がゲームの世界であり、俺の介入があることも……ライオネルは自覚していた? あるいはそのスキルによって、俺の刺客が攻めてくることも……?
「……だけど、知ってたからってどうなるんだっ!」
俺は叫んだ。
もちろん、叫んだからってゲームの中のライオネルに声が聞こえるわけではない。俺はただ大声で独り言を喋っている状態だった。
でも高ぶった気持ちを、声に乗せずにはいられなかった。
「ライオネルっ! 愚かにも最強パーティーを前に逃げ出さなかったお前の負けだっ! みんなっ! やってくれっ!」
俺の合図を知ってか知らずか、四人の巫女たちは動き始めた。
「――〈ラ・ピュセル〉っ!」
「――〈禍災白祓之舞〉っ!」
「――全力全開っ! 殺っっ陣っっ!」
「――ウォーターガードっ! アークミラージュっ! マルチレジストっ! ホーリープロテスっ! トリプルヘイストっっ!」
最強の武具、最強のスキル、最強のステータスにリディア王女の最強の支援魔法が重なり、もはや数値で測れるのかどうか分からないレベルにまで到達した最強の初手。
魔界三将として体力を盛ってあるライオネルを一撃で倒せるとは思っていないが、十分な大打撃と言ってもいい一撃だろう。
10……いや5回この攻撃をくらわせれば、ライオネルは倒せる。
そして俺の戦いも……終わって。
「――馬鹿げた話です」
不意に、部屋の中からその声が聞こえた。
「最強の防具をこの魔王城に配置するなどとは……。私たちに使ってくれと言っているようなものです」
そこには、伝説の盾アイギスを構えた魔族――魔界三将エドマンドが立っていた。




