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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
人魔大戦編

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エン将軍


 結界を守る巫女たちの死。

 それは異世界に重大な変化をもたらした。

 

 大陸北方、オルレアンの海岸。

 巨大な地震とともに突如として出現した細長い陸地。まるで橋か何かのように海を二つに分け、遥か北の島へと繋がっている。

 すなわち、魔族と人間の住処が陸続きとなったのだった。


 間髪入れず、魔族の大軍が細長い陸地に殺到し始めた。

 これまでも結界の隙を突き何度か高位の魔物が送られてきたことはあった。しかし魔族たちの本拠地である北の島から直接大軍が押し寄せてくることはなかった。

 これまで散発的に魔族を狩っていた人類にとって、あまりにも酷なこの展開。

 アングル王国民を絶望の淵へと叩き落すには十分であった。


 不幸中の幸いと言うべきか、島と大陸を横断していた海峡はそれなりに距離がある。魔族の大軍が押し寄せているといっても、おそらくこちらの大陸側に到達するのはしばらく後の話だろう。

 だが、先延ばししたとしても未来は変わらない。


「な……なんということじゃ……」

 

 アングル王国王城、玉座の間にて。

 国王はこの悪夢にただただ恐怖を覚えるばかりだった。


「北の島と大陸が陸続きになってしまうなど、前代未聞。もはや人類は終わ……。いや、すまない。今のは失言じゃったな。ここだけの話にしてくれ」


 失望のあまり、国王は指導者にあるまじき発言をしてしまったようだ。だが国のトップに立つものとしてすぐに正気を取り戻した。


「僕に……もっと力があれば」


 うなだれる裕也。

 皆斗や若菜たちは何も言わない。やる気もないが逃げる場所もない。この国の国民がそうであるように、彼らもまた地獄に取り残されてしまったのだ。


 正直なところ今のエクスカリバーを持った裕也なら一体一体は難なく倒すことができる。ただ本人にはその自覚はないだろうし、何百何千の魔族を一気に倒すことは不可能だ。


 つまりは、八方ふさがり。


「おいおいおいっ! なんだこりゃ。戦争始める前から葬式の準備か? なさけねぇ奴らだなぁおいっ!」


 現れたのは、巨大な蛇矛を構えた髭面の大男だった。


「エン将軍っ!」


 エン将軍。


 この国に数名いる将軍の一人。 

 美少女であったジャンヌほど大衆に人気はないが、内陸地では堅実に軍務を遂行し、これまでこの国を良く守ってきた。


「おお、エン将軍! ロリタを守らせるために帰還命令を出していたのじゃな。しかし、この状況では、もう……」

「辛気臭ぇこと言うなよ国王様っ! 足止めは俺たちに任しときなっ! 俺たちがオルレアンの前で奴らを食い止めるっ!」

「……し、しかしエン将軍。陸地が狭いとは言え、相手は魔族の大軍。いかに将軍といえど、あまりにも多勢に無勢……」

「戦わなけりゃみんな死んじまう。だったら誰かが犠牲にならなきゃならねぇ。そうだろ?」


 エン将軍は巨大な蛇矛を構えた。


「勇者のガキどもっ! いいかっ! 俺らが時間を稼ぐ! その間になんとかしやがれっ!」

「なんとかって……」

「くだぐだ抜かすなっ! こっちぁ命張ってんだっ! 死ぬ気で考えろっ!」

「…………」


 命、と言われると裕也は何も言い返せなくなってしまった。



「どうしよう……」


 裕也は頭を抱えていた。

 玉座での話し合いの後、エン将軍とその配下の軍人たちはすぐに北方へと旅立った。すぐに魔族たちと戦いを始めることになるだろう。

 死を覚悟した出陣。ほぼ間違いなく全員がこの地に戻ってくることはないだろう。


 そして彼が魔族のすべてを倒すわけではない。彼が敗れた後大陸で魔族たちと決戦に挑むのは、残った兵士たちであり……そして勇者である自分たちなのだ。


 ここは玉座の間の前にある長い廊下の前。裕也たちは部屋に戻ることもなく、かといって外に出ることもなく、力なく床に座り込んでいた。


「無理だよ……絶対に」

「そうだ……無理に決まってる」

「そうよね」


 珍しく皆斗たちも裕也の独り言に同意している。たとえ正義の心があってもなくても、どうしようもないという気持ちには変わりがないのだ。

 しかも地理に疎い彼らに逃げ道など存在しない。戦闘職でない皆斗たちであればなおさらだ。


 八方ふさがりのこの状況に、全員が絶望する以外なかった。

 

 ふと、目の前に壁に突然光が生じた。

 突如として出現したその光は徐々に収束し、やがて人の形を作っていく。


「あなたは……まさか……」

〝お久しぶりです、皆さん〟


「り……リディア王女?」

 

 壁に映し出されたのは、半透明の姿をしたリディア王女だった。


「うっ……」

「…………」


 皆斗たちが顔を青くしている。

 無理もない話だ。

 かつて奴らがリディア王女に行った仕打ちを考えると、とてもではないが顔を合わせることができない。


 しかしこのリディア王女は俺の設定した死後のキャラであり、NPCとしてイベントにしか登場しない。セリフも決まっており、皆斗たちに余計な恨み言を放つことはないと思う。


〝魔族により殺されたわたくしの魂は天に上り、そして神々の力によって精霊へと転生しました。すべては滅亡の危機に瀕した人類を救うため〟

「王女様が……精霊に」

〝異世界の勇者たちよ、力を手に入れるのです。世界最強の聖剣エクスカリバー、聖鎧レガリア、聖盾アイギス、聖兜ロンバルディア。そして古代神聖魔法に神聖スキル。わたくしが精霊の力をもって、神々の知恵をあなた方に授けます〟


 エクスカリバーはもう裕也に渡してしまったんだけどな……。まっ、二本あって困るわけでもないか。


 こうして裕也たちはエン将軍が足止めをしている間に準備を整え、決戦の地へと赴く。

 というのが、俺の設定したこのゲームにおける流れだった。


 さて、順当にいけば裕也たちは強化されて魔族たちを一掃できるわけなんだが……。

 ただ相手はあの魔王ジェーンだ。

 かつて殺されたジャンヌや偽ロリタ王女を思い出す。


 もし、規格外の力で裕也が殺されてしまったら?

 もし、ゲームの仕様通りに生き返らせることができなかったら?

 

 その時こそこの世界の真の終焉であり、俺は本当の意味で人殺しになってしまうということだ。

 その展開だけは絶対に避けなければならない。

 

 しばらくはイベント通り、裕也たちには強化装備や強化スキルを身に着けてもらう。ただそれはあいつら自身の身を守るためであり、魔族と戦わせてすべてを終わらせるためではない。


 俺自身の手で、裕也たちを勝利に導く必要がある。偽ロリタ王女は失敗してしまったが、方法としては間違ってなかったと思う。


 なりふり構ってはいられない。

 俺はこのゲームを終わらせなければならないのだから……。


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