偽ロリタ王女の抵抗
魔王城にて。
魔物によってこの地に連れされてしまったロリタ王女。鎖で両手両足を拘束され、身動きが取れない状態だ。
「うう……うう……」
魔物によって床へと投げ出された彼女。
目の前には玉座に腰かける魔王ジェーン。その左右には、魔界三将と呼ばれていた二体の魔族が立っている。
全知の将ライオネル。
全謀の将エドマンド。
まず前に出たのは、エドマンド。
「はじめましてロリタ=アングル王女。僕の名前はエドマンド。幼いあなたでは知らないかもしれないですが、これでも魔族たちに命令を下せる立場にいるものです」
「…………」
「大地の巫女マリー、星の巫女ジャンヌ。この二人は即座に殺しましたが、あなたとリディア王女はここに連れてきました。なぜだか分かりますか?」
「……分から……ない」
「それは、あなた方が王族だからです」
反論を決して許さない、冷たい言葉。
「王族は良い見せしめになるということです」
「…………え?」
「私はあなた方王族の二人を盛大に処刑し、魔族たちの士気を高めるつもりです。あなた個人としては大変に理不尽で、そして苦しい展開ということになります。しかし王としてこれまで裕福な暮らしをしてきたあなたたちです。このような不幸を背負ってしまうのは運命だったと諦めるのですね」
「そ……そんなの」
「…………?」
「そんなの、絶対に嫌だ」
偽ロリタ王女が震えている。
すでにデバフは解いてある。だがロリタ王女にはその自覚がなかったから、今まで抵抗らしい抵抗を見せていなかったというだけのこと。
「ああああああああああああああ!」
偽ロリタ王女が手錠を引きちぎった。
「なっ」
「このまま殺されてしまうくらいなら、お姉ちゃんのために、ロリタは……戦うっ! 戦ってみせるっ!」
死を覚悟した自暴自棄。
だが能力をカンストした偽ロリタ王女は、世界最強でありどんな魔族にも匹敵する強さを秘めている。
解き放たれた彼女に、敵はいない。
「うわあああああああああああっ!」
それは、子供が泣き叫びながら手を振り回しているような動作だった。
しかしその攻撃を受けたエドマンドは、打たれた胸を手で押さえながら、明らかに狼狽している様子だった。
「じ、冗談ですよね。ど、どうして……こんな力が」
人間でいえば、肋骨が折れているレベルの一撃だったのだろう。魔族の身体構造は良く分からないが、エドマンドはかなりのダメージを負っているように見える。
ジャンヌやマリーはゲームのキャラに殺された。そして代替として継承者が生じることもなかった。
つまりここで、ゲームのキャラである偽ロリタ王女が魔族たちを殺せば、裕也たちがここに来ることなく決着がつくかもしれない。
このゲームを、終わらせることができるっ!
俺は勝利を確信した。
だが――
「おらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
その叫び声とともに、偽ロリタ王女が消えた。
戦斧を構えた魔王――ジェーンが代わりに現れる。
つ、強い。
こ、こいつ、一体何なんだ? 偽ロリタ王女は防御力だってカンストしてたんだぞ?
「あたいの部屋で暴れるだなんて、人間のくせにいい度胸してるね。魔王を舐めんじゃないよっ!」
画面をスワイプして偽ロリタ王女を確認しようとした俺。しかし彼女の姿はどこにも見えない。
代わりに見つかったのは、鮮血のこびりついた壁だった。
まさか……これが?
激しい衝撃に肉も骨もすべて潰れて、壁に血だけが残ってしまったのだと……したら?
……こ、こいつ。
偽ロリタ王女を、殺した。
し、信じられない。
偽ロリタ王女は間違いなく世界最強の力を持っていた。本人に自覚がなかったにしても、あの魔王エドワードですらかなわないほどの実力者だった。
なぜ、こいつにそれだけの力が?
魔王になったからか?
いや、魔王になってもステータスは変わっていない。他に一体どんな違いが。
あ……。
その時俺が注目したのは、ステータスウインドウに表示されているスキルの欄だった。
スキル〈全武〉。
俺は魔界三将という魔族たちの幹部を生み出した。
その時、上位の魔族として箔付けを行うため、それにふさわしいスキルを付加した。
〈全武〉、あらゆる武人に勝る。
〈全知〉、すべてを知る。
〈全謀〉、あらゆる謀略を超越する。
これらのスキルはゲームの設定上何の意味ももたない。ジェーンはそもそも攻撃力が高いし、エドマンドやライオネルは知力のパラメーターが高く設定されている。これはスキルのせいではなく、俺がそういうキャラだと意識して設定したからに他ならない。
そう、このスキルはゲームに役立つものじゃない。ただ俺が見栄えのためだけに生み出したスキルのはずだった。
だがもし、このスキルが説明文通りに作用していたとしたら?
ジェーンはすなわちどんな武人にも負けない……世界最強の存在という意味だ。それはカンストしてるだけのロリタ王女を上回っているかもしれないことを意味している。
ジャンヌを殺せたあの規格外の投擲技術も、スキルによって生み出されたものだとしたら? そもそも最近ゲームの流れがおかしかったのも、このスキルのせいなんじゃないのか?
「…………」
ただ、ゲームを作っているときはそれでよかった。こんな強そうな説明文があれば、それだけでボス感が出るだろ?
このスキルは……俺の設定した能力値の概念をはるかに超えているのかもしれない。
でも、どうすればいいんだ?
能力をカンストさせた偽ロリタ王女が敗れた。その相手に……いったいどうやって戦えば……。
その後、不安を覚えた様子のエドマンドは、見せしめの宣言を反故にして偽リディア王女を殺害した。
こうして四人の巫女が殺され、人類を守る結界が消失した。




