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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
人魔大戦編

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世界改変通知


 四日間。

 俺は集中的に〈異世界ツクール〉を監視、調査した。

 その結果、多少役に立ちそうな情報を得たものの、黒幕へと迫るものは皆無だった。


 偽ロリタ王女はいまだ健在。そして彼女を護衛している裕也たちもまた王都に張り付けられたまま。わがまま姫に振り回せれ、ほほえましい日常を謳歌しているように見える。


 暗い自室でスマホを凝視している俺とは雲泥の差だった。


「……朝か」


 わずかにカーテンから漏れる光によって、俺は夜が明けたことに気が付いた。

 睡眠、二時間ぐらいだったか。

 

 俺は太陽の光を浴びようと思い、椅子から立ち上がった。

  

「く……めまいが」


 思わず、机にもたれかかってしまう。

 集中力が切れないよう、短い睡眠時間は確保するようにしているのだが……。どうやら俺はショートスリーパーには向いていないらしい。


「やっ、大和様」


 タイミング悪く部屋の中に入ってきたリディア王女が、倒れそうな俺をそっと抱きかかえた。

 しばらくシャワーを浴びてないんだが、臭いは大丈夫だろうか?


「あ、ありがとうリディア王女。なんだか突然、ふらっとして」

「少しお休みになったほうが良いのでは?」


 心配そうなリディア王女を見ると、胸が痛む。


「ごめんなリディア王女。でも、今、一番重要なところなんだ。ここで手を抜くわけにはいかない」

「……ロリタの件で心を砕いていただけるのは感謝しています。しかしそれで大和様自身が倒れてしまっては元も子もありません。わたくしがこの地に初めて訪れたとき、あなた様は平日に学校に行って、授業を受けて、ご飯を作って、休日は遊んで……そんなどこにでもある日常を過ごしていたはずです。どうか……、ご自身のことを優先してください」

「…………」


 確かに、リディア王女の指摘はもっともだ。

 調べるべき情報は大量にある。だが俺にはそれを精査するだけの技術も時間もない。だからこんなにも苦労しているわけだが、それが思った以上に負担になっていたのかもしれない。

 

 マリーの件は先を越されてしまったが、今、すぐにロリタ王女がどうにかなる気配はない。そろそろ俺も長期戦を覚悟して、日常に戻った方がいいのか?

 いや、監視や調査は続けたい。そのあたりは〈リアルツクール〉を使ってうまく調整できないだろうか? たとえば、俺の体力を回復してみたり、手伝うためのロボットを作ってもらったり、時間の流れを変える……のは難しいかな。


 考える時間が欲しいな。


「大和様、わたくしたちのことは忘れてどうかお休みください」 


 まさか、ゲームの世界の住人にこんなことを言われるなんてな。創造主としては複雑な気持ちだ。

 とはいえ、指摘が正しいのは事実か。


「分かったよリディア王女。確かに……俺自身も少し疲れて集中力を欠いていたと思う。今日はとりあえず今すぐ寝て、午後からは普通の生活に戻ってみる。それでいいよな」

「はいっ!」


 現実問題として、いつまでもロリタ王女のそばで護衛しながらスマホを弄っているわけにはいかない。

 この休息を経て、もっと効率の良い方法を考えてみることにしよう。



 午後。

 五時間という長期の睡眠を経て、俺は目を覚ました。

 その後は昼食を食べ、宣言通り日常生活に復帰してみることにした。

 

 今日は平日、すなわち学校だ。

 昼からというのは初めてだったが、体調不良を言い訳にしていたから問題なくいくことができた。

 そして俺は授業を受けた。


 正直言って、怠かった。


 もちろん、これまでだって授業が楽しいと思ったことはなかった。体育は肉体的に辛いし、数学や英語は分からないし、古文や歴史は将来役に立つのかと思うとやる気が起きない。そういう意味では確かに苦痛だった。

 だけど今俺が感じているのはそんな生易しい感情じゃない。こうしている間にも向こうの世界が……という誰にも理解されない焦燥感だけだった。

 

 なんだか、授業が遠い世界のように感じた。あの世界に行ったのは皆斗たちなのに、俺もまた引きずり込まれてしまったかのような感覚だ。


 世間一般的に見れば、俺はスマホ依存でゲーム依存のどうしようもない奴だ。改めて冷静に自分を見つめなおしてみると、将来が不安になってきた。


「リディア王女、ロリタ王女」


 校門前で俺を待っていた二人。

 声をかけるとすぐに駆け寄ってきた。


「お兄ちゃんっ!」


 ロリタ王女が俺に体当たりしていた。いや、本当は抱き着きたかったんだと思うが、腕の動かない今の彼女ではどうしてもこうなってしまうようだ。

 ……動かない腕を見ているとどうしてもあの日のことを思い出してしまう。


「ロリタね、お兄ちゃんのお料理が食べたい! お姉ちゃんの作る料理はね。薄味であんまりおいしくないの!」

「こらこら、あまりお姉ちゃんを困らせるなよ」

「早く、早く買い物して帰ろ!」


 先行して走り出したロリタ王女。そしてそれを見守りながらゆっくりと歩き始めるリディア王女。


「家では何もなかったか?」

「はい」


 ロリタ王女が一人留守番していてはこの前みたいな悲劇が起こってしまうかもしれない。そう思い、今日はリディア王女に留守番してもらったのだった。

 

「〈リアルツクール〉を使って、わたくしはこの学校から転校したことにしました」

「えっ?」

「ですからもう心配はありません、大和様」


 い、いつの間に……。

 

「……俺もそろそろ本腰入れて向こうの世界について考えないといけないよな」

「大和様、それは……」

「たとえばさ、俺を学校から卒業扱いにするとかさ」


 自分でも都合のいいことを言っているのは分かる。しかし圧倒的に時間が足りない。授業中、多少スマホを弄る程度ならともかく、ずっと向き合って操作しているなんて不可能だ。


「そうすればもっと〈異世界ツクール〉を触れる。あの世界をもっと良いものにできるし、ロリタ王女を傷つけた犯人も……」

「勉学に励み、試験を合格し、交友関係を築き、そうやって初めて学校を卒業したといえるのではないですか?」

「う……」

「大和様、こうして今学校で学んでいることは、あなた様の将来にとってとても重要なことなのです。どうかわたくしたちのために人生を犠牲にするなどとは考えないように」


 そ、そんな母親みたいなこと言わないで欲しい。


「でもこのままじゃあ時間が……。それに疲れて学校から帰ってそこから〈異世界ツクール〉だなんて、俺の体力がさらに減ってしまうだけに……」

「そうですね、この世界にも回復薬や回復魔法があれば……」


 まあカフェイン系飲料とかエナジードリンクとか、そういうものがないわけではないんだが、本当の意味で体力を回復させてくれるわけじゃないからな。


「ああ、回復薬や回復魔法というのは良いアイデアかもしれませんね。わたくしの方で用意しておきます。ロリタの護衛も用意しておいた方が良いかもしれませんね。もっと大和様の手を煩わせないためにも」

「〈異世界ツクール〉でか?」

「……はい」

「…………」

 

 なんだか不安になってきた。

 さっきの学校退学の件もそうだが、俺の知らないところでリディア王女が〈リアルツクール〉で何かを改変するのは不安になる。

 最初のころ城みたいな建物を作ったりしてたことを思い出す。あの時は地主とか税金とかいろいろもめてたからな。


 俺たちは簡単に世界を改変することができる。しかしその細かい影響まで調整できるわけじゃない。

 だから安易にリディア王女に世界を変えられては困るんだ。たとえそれが真っ当な善意に基づく行動であっても。


 少なくとも、何か改変があったことを理解しておきたい。


「リディア王女、少しいいか?」

「はい」

「アップデートで改良された『通知機能』は知ってるよな」


 通知機能。

 何かの変更を行う際に通知を送る機能だ。

 スマホの通知はもちろん、別のスマホやPCにも情報を送るため、メールによる通知機能が追加されている。


「俺のメールアドレス教えるから、そこに通知できるようにしておいてくれ」

「……はい?」

「って……できるよな?」


 リディア王女が持っているのはスマホっぽい水晶プレート。ひょっとして俺のスマホみたいにメールを送ったりアプリを入れたりできない?

 いや待て、確か〈リアルツクール〉を触った時、そんな機能のアップデートを確認したような……。


「あ、ああ~。分かりました、わかりましたよ大和様。ここに文字を入力すれば良いのですね」


 どうやら大丈夫だったらしい。

 俺は口頭でリディア王女にメールアドレスを伝える。


 よし、これで……。


 ――キーンコーンカーンコーン。


 学校から、チャイムの音が聞こえた。


 そうだそうだ。

 確か俺のスマホにもこのチャイムにそっくりの着信音があったよな。あれをこの世界改変通知に設定して、リディア王女からのメールを瞬時に察知できるようにしよう。

 今のままだと他のどうでもいいメールに埋もれちゃうからな。


 俺、かしこい!


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