偽ロリタ王女
アングル王国、王都にて。
大地の巫女、マリーを探すよう国王から頼まれた裕也。話はそこで終わり、翌日案内役の兵士とともに王都を出発する予定だった。
しかし――
「な、なんじゃと! 巫女のマリーが魔物に殺されたと……」
王都、玉座の間。
今日出立の裕也たちに贈り物をして見送る予定であった国王。しかし伝令の兵士からの報告を聞き、彼は衝撃のあまり玉座から崩れ落ちた。
この伝令は俺が用意した。裕也たちがマリーを探しに遠くへ行ってしまったら、また余計な時間のロスになってしまうからな。結果は分かってるんだからショートカットさせてもらう。
「ゆ、勇者殿、誠に申し訳ない。昨日話していたマリーは殺されてしまったようじゃ」
「ええっ!」
「おいおい……マジかよ」
驚く裕也と、そして皆斗。今日は裕也以外の異世界人も勢ぞろいだった。
みんなに動揺が広がっている。
「まさか……こんなことが……」
動揺を隠せない国王だったが、やがてゆっくりと呼吸を整えて感情を押さえていく。
今、心を乱している暇などないのだ。
「…………彼女が死んでしまった以上、四人のうち最後――すなわち太陽の巫女が重要となってくる」
「…………」
「これは隠していたわけではないのじゃが……、最後の巫女は……我が娘にしてリディアの妹、すなわちロリタのことを指す」
「えっ!」
マリーが死んで戻ってきてから発覚する事実であるから、彼女の死によってその展開が早まったようだ。さっき用意した兵士の伝令と違って、初めからそういう設定だったということだ。
「この事実が発覚したのは今日のことじゃった。魔族の犠牲になる前に察知できたのは幸いというところじゃろう」
「随分と……急な話ですね」
「……したがって勇者殿には我が娘のロリタを護衛してもらうことになる。本来であればマリーをここに招き、その間は兵士たちに護衛を頼むつもりであったのじゃが……致し方あるまい」
「はい」
まあその勇者様たちよりもロリタ王女の方が何倍も強いんだけどな。裕也にエクスカリバー持たせても勝てないほどに。
「ロリタ、こちらに来なさい」
玉座の背後に隠れていたロリタが、ゆっくりと姿を現す。彼女は背が低いから、裕也たちの目線では国王に隠れその姿が見えていなかった。
「異世界人の皆様方、ごきげんよう。アングル王国第二王女、ロリタ=アングルです」
淑女然とした様子でお辞儀をするロリタ王女。
はて? なんだこの礼儀正しいキャラは? 別に設定弄ったりはしてないんだが。
俺としては大変違和感のある光景だが、裕也や皆斗たちはロリタ王女と初対面だ。彼女がリディア王女と同じような人物と思ってしまってもおかしくない。
「皆さまのような頼れるお方に護衛していただき、大変うれしく思います」
隣の国王陛下もなんだか不思議そうな顔をしている。俺と同じことを思っているに違いない。
「しかああああああああああああああああっし皆さん、ご心配なくっ!」
偽ロリタ王女は玉座を片足で踏んづけ、天井に向かって拳を突き上げた。
「このロリタ=アングル! 決して魔物ごときに遅れは取りません! あの方の下で鍛え上げた我が剣技に誓って、必ずや魔族を追い払ってみせますっ!」
「こ、これロリタよ。はしたない真似はやめなさい」
リディア王女とは違って、国王はロリタ王女を強く叱らない様子。娘には甘いんだろうな。
「僕たちも王女様と一緒に戦いますので、安心してください」
「はははっ、いいじゃんいいじゃん! 堅苦しくねーのは気に入ったぜ」
どうやら裕也や皆斗たちもロリタ王女のこの発言を冗談か何かと思っているらしい。
確かに、この偽ロリタ王女の性格は本物をベースとしているから、発言自体は本当の意味で体の弱いロリタ王女そのままだ。彼女自身としてもこの発言は冗談というか意気込みを伝えたかっただけとかそんなところだと思う。
しかしその実、ロリタ王女の能力は人類どころか世界最強。この世の誰も彼女に敵わないのだから、発言は決して不可能ではない。
つまりロリタ王女はそれ自体が最強のキャラでありながら、裕也たちの最強の護衛ともなり得るのだ。
もっとも、彼女自身は自分を多少鍛えたという認識はあっても世界最強という自覚はないのだが……。
さてと、お膳立ては整った。
来るなら来いよ俺たちの敵。お前の正体を暴いて見せる。
その日から、俺の戦いが始まった。
もちろん異世界にいない俺が直接剣を持って戦うことなどできない。魔族と、ではなくその背後にいる何もをかを突き止めるためにだ。
偽ロリタ王女の定期的な監視。
魔族戦の最前線、オルレアンの様子を確認。
魔王国の魔族たちの確認。
気になるリプレイ動画を検証。
ゲームの操作性はよいものの、さすがにスマホで様々な操作を行うのは手間でありそして疲労も重なる。だからこれは俺にとって間違いなく『戦い』であり、そして遊びでない真剣なものであった。
俺は学校を休み、睡眠時間を削って作業を行うことにした。
思えばこれまで、俺には真剣さが足りなかった。普通に学校に行って、気になる女の子をこっちに連れてきて、皆斗たちのことを気にしてはいたが……どこか遠くの世界の話であると思っていた。
だけど目の前でロリタ王女が傷つき、俺はやっと理解した。
おそらく、すぐに事態が動き始める。
その瞬間を、逃すわけにはいかないんだ。
たとえこの身を犠牲にしてでも。




