大地の巫女マリー
オルレアンを守る将軍でもあった、シスターの死。
もはやあの地を守ることは難しい。そのため、かつてシスターがそう言っていたように、全員を王都へと避難させることになった。
アングル王国首都、城の玉座の間にて。
玉座に座る国王と、裕也が話をしている。
本当は皆斗たちもここにいなければいけないのだが、疲労と避難のためと主張して入城を避けていた。あまりこういった堅苦しい場所は好まないのだろう。
それは裕也も一緒なんだけどな。少しはまじめにやってほしい。
「まさか、こうも早く避難を完了させるとはな。勇者殿は本当に素晴らしい力を持っている」
「僕たちに力なんてありませんよ。もしそうなら、シスターさんが死ぬことはなかった」
あれから多少元気を取り戻した裕也だったが、やはりその表情は暗い。
「聖女の件は誠に無念じゃった。結界を守る巫女としても、オルレアンを守る将軍としても、我が国にとってかけがえのない存在であった」
泣いてこそいないが、国王の悲しみは俺にも伝わった。彼女は間違いなくこの国の優秀な人材だった。その死による損失は計り知れない。
「じゃがいつまでも悲しみに暮れているわけにはいかぬな。国王として、まだこの国で生きている民を守るため……打つべき手は打っておかねば……」
玉座に座る国王は数回の瞬きをしたのち、姿勢を正した。これまでの負の感情を振り払った様子で、執政者としての威厳が表情に現れている。
「さて勇者殿。三人目、大地の巫女についてだが……」
「居場所は分かったのですか?」
「……古文書を検討した結果、大地の巫女と名付けられた少女は、かの有名な流浪の巫女――マリーである可能性が高い」
「マリー? それは……」
裕也は首を傾げた。
この地の住人でない裕也であるから、有名人といっても分からないことが多い。
「マリーは流浪の巫女として全国を旅し、疫病や災害に見舞われた土地で祈りを捧げる仕事をしている。神のお告げに従い、目的地へと向かうと聞いている」
「その方をこの城に招けばいいんですね? 今、どこにいるんですか?」
「残念ながら国としても細かい目的地までは把握していないのじゃ。噂は届いているから、おおざっぱな地域は特定できるのじゃが、伝聞ではあまりにも広く、時間差もあり……」
「分かりました、じゃあ、僕たちも現地に赴いてそのマリーさんを探します。それでいいんですよね?」
「おお、すまぬな。本来ならば兵士たちを訪問させるべきなのじゃが、あの地は魔物どもが強く……」
……と、いうことで次の巫女は見つからず裕也たちはあっちこっちを探し回る……という展開なのだが……。
これ以上俺が用意した茶番で物語を長引かせるつもりはない。裕也たちにはさっさと魔族を倒してもらう必要がある。
俺の手で巫女を殺してしまえば物語は次のステージに進むのだが、さすがにそんな残酷なことをする気はない。リディア王女の時のように偽物を用意して、そいつを魔族に引き渡して……という流れがベストかな。
偽善者みたいなやり方だけど許して欲しい。
まずはマリーさんをこっちに連れてくる必要があるな。
俺はマップを検索して巫女のマリーを探すことにした。広大なマップを検索しなければならないのだが、特殊なキャラでればあるほど、特定は容易い。
そして、俺はすぐにマリーの情報を入手した。
のだが……。
「は?」
青い髪の美少女の顔とともに、ステータスウインドウが表示されている。そこには確かに、流浪の巫女であるマリーの名前が描かれている。
だが、そこには俺の全く予想だにしない情報が書かれていた。
死ん……でる?
状態、死亡。
俺の妹である伊瀬さくらと同じ状態。もう死んでいるということだ。
プレイキャラの勇者と違って、基本的にNPCが生き返ることはない。つまりアイテムを使って生き返るような疑似的な死ではなく、本当の意味で物語から脱落してしまった死ということだ。
「…………?」
ど、ど、どういうことだ? この大地の巫女マリーって、あちこち探しまわってた裕也たちとやっと出会ってそこでついてきてた魔族に殺されちゃうって話の流れのはずだったよな?
でもまだ裕也たちはマリーと会っていない。というか今探そうという話が出たばっかりだ。俺はまだ彼女に関しては何もしてないはずなのに、いったいどうして……。
まただ。
また俺の知らないところで巫女が殺されて、物語が変にスキップされてる。ジャンヌの代わりとなったシスターの時もそうだった。
あの時はジャンヌが死んで代わりの人間が役割を継承していた。だから多少のイレギュラーが起こったとしてもおかしくない状況だった。
でも今回のマリーにはそれがない。彼女は間違いなく俺が最初に設定したマリーというキャラそのものだ。ストーリーに沿っていなければおかしいはずなのだが……。
不気味だ。
あのロリタ王女を攫った奴の仕業か?
いや、そもそも俺がいろいろ介入しすぎた副作用なのか?
それとも皆斗たちが暴れまわったりしたせいなのか?
分からない。
だけど、この流れを止めることはできない。
俺は早くこのゲームを完結させる必要がある。たとえ別の思惑を持つ誰かの介入を受けていたとしても……だ。
早くこのゲームを終わらせなければ……。




