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聖騎士

 リディア王女。

 俺が設定したゲームのキャラクター。異世界人たちを召喚した張本人だ。


「わたくしの名前はリディア=アングル。このアングル王国の第一王女です」

「お、王女様?」

「魔王エドワードによって危機に瀕しているこの世界を、どうかお救いください。勇者様方」


 優雅に一礼するリディア王女。

 その美しい容姿と相まって、まるで映画か何かのワンシーンのようだった。


 皆斗も顔を赤めながら固まっていた。っていうかこいつ胸ばっかり見てんな。自重しろよ自重。


「まずは固有のスキルや職業への適性を調べたく思います」


 そう言って、リディア王女はあるものを取り出した。

 このスマホ型のプレートは皆斗たちの力を示すためのアイテムだ。もちろん俺がこのゲーム世界で設定したアイテムの一つだ。


 そして俺が設定した通りであるなら……。


「お、俺の力が……10? 防御力が……20? スキルはヒール? 職業……聖職者?」


 プレートを見た皆斗が絶望の声を漏らした。 


 そう……。

 俺はもともと皆斗みたいなやつを快く思っていなかったからこのゲームを作り上げた。そんな奴に異世界転移したからといって最強の力を授けるわけがない。


 いわゆるヒーラーだ。攻撃魔法はもとより武器を扱う力でも劣っている。決して役立たずの無能ではないが、奴の性格を考えればあまり嬉しくはないだろうな。なんでも自分でグイグイ解決していくタイプだから。


「俺が鍛冶屋?」

「農民って何よ農民って! 馬鹿にしてるのっ!」

「料理人?」


 鍛冶屋や農民、料理人。

 もちろん役立たずではないが、この世界において大活躍するにはいささか地味すぎる職業だった。これらはすべて俺の采配だ。


「僕が……聖騎士?」

 

 逆にいじめられていた裕也に対してはかなりのハイスペック職業――『聖騎士』を用意していた。それに合わせて各ステータスやスキルも破格のものとなっている。


「攻撃力、2400、防御力……1500、魔力……1800」


 まさに勇者と呼ぶにふさわしいステータス。皆斗たちとはけた違いだった。


「くそがよっ!」


 皆斗の機嫌がどんどん悪くなっていく。原因はもちろん、優遇された裕也と劣った自分の能力を見てだろう。

 憤怒の表情を浮かべながら、皆斗は裕也の胸倉を掴んだ。

 

「おい裕也、お前の能力俺に寄越せっ! お前なんかが魔法やスキルをうまく使いこなせるわけねーだろ! 俺がうまく使ってやる」

「え、で、でも、そんなこと……」

「口答えすんなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 うわっ。

 皆斗の奴、裕也を殴ったぞ。


「ゆ、勇者様っ!」


 さすがに暴力は止めねばならないと思ったのだろうか。リディア王女が慌てた様子で二人の間に割って入った。


「落ち着いてください勇者様。ステータスやスキルの譲渡は不可能です。ステータスは経験を重ねて上昇していきます。スキルと職業は……変えられませんが……。一人一人がこちらの世界の平民や兵士たちに勝る、素晴らしい才能を持っているのです。どうか全員で協力して、わたくしたちに力を……」


 リディア王女としては皆を落ち着かせるためにそう言ったのかもしれない。

 だが嘘はつけなかったようだ。その事実は彼らにとって絶望以外の何物でもなかった。


「職業もスキルも、変えられない?」

「嘘よ、あたし……ずっとこのままなの?」


 皆の裕也を睨みつける視線が険しい。


「ひぃ、ご、ごめんよみんな。許して……」


 裕也は震えながら土下座した。


 現実は……うまくいかないものだな。

 裕也はこの世界において最強格の存在だ。その気になればヒーラーの皆斗程度力で簡単に突飛ばせるはずなのに。

 でも、裕也はそうしようとしない。


 元の世界ではいじめられてきた裕也だ。突然殴るとか叩くといった選択肢は思いつかなかったのかもしれない。

 ましてやこれは異世界で突然付加された能力だ。今、いきなり現実世界に戻ればこんな最強設定なんてなくなってしまう。そうなれば裕也はまた皆斗にいじめられてしまうだろう。

 ここで頭を下げている裕也は、ある意味正しい。俺だって本当にクラス転移が起こるだなんて知っていたら、こんな安易な設定にはしなかった。


「み、皆さまお疲れのようですね!」


 パンッ、と両手を叩いたリディア王女。不自然なほどに大きな声は、この嫌な空気を霧散させるのに一役買ったかもしれない。


「初めての世界で戸惑うことも多いでしょう。ですがご安心ください。我が国、アングル王国は勇者様方を歓迎いたします。一人一人、お部屋へご案内します。時間になりましたら歓迎会もご用意しております。まずはゆっくりと疲れを癒し、この世界に慣れていただきたいのです」


 案内され、逃げるように部屋からいなくなっていく裕也。


「ちっ」

「…………」


 それを不満げに眺めながらも、案内されるがままにこの場を立ち去っていくクラスメイトたち。

 

 ……こんなところか。


 俺はスマホをポケットの中にしまった。

 まだまだ気になることは多い。が、もうすぐ授業が始まってしまう。


 今日は体調不良で早退ということにして、もう少し……この〈異世界ツクール〉について詳しく確認しておきたい。

 

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