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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
王妹殿下来訪編

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氷壁

 

 ロリタ王女のリプレイ動画を見た俺は、彼女が最後にいた場所……すなわち公園へと向かった。

 まさかこれほど近くにいるとは思っていなかった。焦る気持ちから何も考えずに飛び出してしまったため、リディア王女には何も話をしていない。

 

 マンションの外に出て走れば二分でたどり着く近場だ。慣れた道で迷うこともない。


「ロリタ王女っ!」


 ……いない。


 すでに周囲はうっすらと暗くなっている。街灯が光っており、ギリギリ夜、と言っても差し支えない時間帯だ。

 公園にはロリタ王女を含めて誰もいないように見える。

 

「…………」


 あの動画は四時ちょうど、すなわち二時間以上前の出来事だ。その時あそこにいたロリタ王女が、今、同じようにこの場にいるとは限らない。

 冷静に考えればわかりきった話だ。だけど……彼女がここにいたことは事実。なら……手掛かりか何かが……残っていてくれないだろうか?


 木の陰、茂みの中、遊具の裏。障害物はいくらでもある。何か役に立つものは……。

 

 そう思い、俺は茂みの近くへ身をかがめようとして……。


 う……。

 なんだ、これは……。

 光が……。


「――〈ラ・ピュセル〉」


 その、瞬間。

 激しい閃光が俺の視界を覆った。

 混乱して後ろへと下がったことは不幸中の幸いだったのだろう。肌に感じたひりひりとした感触。それはあの光によって焼かれそうになってしまっていた俺の皮膚そのもの。

 もし、あの場にそのままとどまっていたら、強い光に肉が焼かれ……大変なことになっていたかもしれない。


 〈ラ・ピュセル〉。

 

 俺はその単語に聞き覚えがあった。この場に全くふさわしくない、そして聞くはずのない言葉だったはずなのだが……確かに俺はそれを知っていた。


 茂みの先、大きめの木からふらりと一人の人間が現れた。

 俺は彼女を……良く知っていた。

 白銀の髪に白い肌。まるで雪国の妖精のように幻想的で美しい、その少女の名は……そう……。

 

「お前は……ジャンヌ?」


 聖女ジャンヌ。

 俺があのゲームの敵として配置した、あの時……皆斗たちと戦っていたはずの少女だった。


「ど……どうしてお前がここにいるんだ? お前は俺のゲームの……オルレアンにいたはずだ! 俺はお前なんか呼んでない! 一体どうしてっ!」

「…………」

 

 無言のまま、ジャンヌは剣を振るった。


「……っ!」

 

 俺はとっさに回避した。


 空を切る剣。背の高い草の一部が切れ、ふわり、と宙を舞った。

 模造刀などではなく、明らかに真剣。避けなければ俺が死んでいたのだから、その殺意は本物。


 問答無用、といったところなのだろうか。


「お前がロリタ王女をさらったのか? 王女はどこにいる?」

「…………」


 全くの無言。そして俺への殺意は消えない。

 

 俺は……この子と戦わないといけないのか? 何の力もない、ただの学生なのに。皆斗や裕也たちのように……俺は……。


 ジャンヌはただの雑魚ではない。勇者たちが最初の都市から苦労してやっとたどり着く北の僻地――オルレアンに存在する重要人物でありボスでもある。

 その時点で、皆斗たち異世界人はある程度苦難を乗り越えレベルも上がっている。そんな彼らを打ち負かすジャンヌは、それ相応を強さに設定されている。


 対して力もない、当然魔法も使えない俺が勝てる相手ではない。

 普通ならば。


「……残念だったな!」


 なんという僥倖。

 今の俺には〈リアルツクール〉がある。

 

 いまだ扱い慣れていないところも多いが、何度か触る機会があった。何の力もない俺が異世界人と戦うには十分すぎる力だった。 

 俺は距離を取りながら〈リアルツクール〉を操作した。


「壁よっ!」

 

 マップ上でジャンヌの周囲をタップし、壁を出現させる。

 ただの土壁ではない。分厚い氷で強化され、四方を囲む高い壁だ。まるで巨大な地下牢のようにジャンヌを封じ込め、身動きを取れなくする。


「……すげぇな」


 以前、リディア王女が丘の上に城を生み出したことを思い出す。

 あの時と同様、これは明らかに規格外。そして城の時は土地の所有者ともめていたから、しばらく放置してたらまた誰かに文句を言われてしまうかな。

 あまり長い時間放置はできないが、ある程度時間に余裕はできた。


「……さて」


 これからどうする?

 突如としてこの世界に現れたジャンヌ。その処遇を決めなければならない。

 

 また異世界に送り返すか?

 いや、俺に襲い掛かるなんて、明らかに常軌を逸している。このまま向こうに戻って皆斗たちに危害を加えたら、本当の意味であいつらが死んでしまうかもしれない。

 じゃあリディア王女みたいにここに招く?

 この様子だとそれも危険だ。たぶんロリタ王女を攫ったのもこいつだからな。

 

 そうだ。話を聞いてくれるかどうかは分からないけど、まず、ロリタ王女の居場所を。


「おい」


 俺は氷壁に向かって声をかけた。

 その先には、囚われのジャンヌがいるはずだ。


「あんたに聞きたいことがある。アングル王国第二王女、ロリタ殿下を攫ったのはお前だよな? どこに隠した?」

「…………」


 聞こえていないのか、話す気がないのか。

 動画に残っていたロリタ王女の最後の言葉。目の前の女の格好を気にする発言。それは剣や防具を身に着けたジャンヌの容姿を見れば、納得のいく言葉だった。まず間違いなく、ロリタ王女を攫ったのはこの少女。そのはずなのだが……。

 やれやれ、この後一体どうするか……。

 

 などと安心しきって俺だったが、次の瞬間、一瞬にしてその冷静な思考が崩壊した。


「なっ!」


 ――一閃。


 閃光のような光の筋が氷壁を通り抜けたと思うと、その分厚い氷が斜めに崩れ落ちてしまったのだった。 


「嘘……だろ」 


 厚さは……一メートルは越えていただろう。仮にチェーンソーか何かを使ったとしても、完全に貫通させることは不可能だったはずだ。

 それを……この……少女は……。


「…………」


 剣を構えたジャンヌが、崩れ落ちた氷壁を乗り越えこちらに迫ってきた。

 

 だ……駄目だ。

 ジャンヌは強すぎる。壁で閉じ込めようだなんて無理な話だったんだ。

 俺は……やっぱり勝てないのか?


 ……違うよな?

  

 ある。

 あるんだ。

 この少女に決定的な勝利をもたらす方法が。ただ、それはずっと俺が考えないようにしていたことであり、ずっと避け続けていたことでもあった。

 あまりにも責任重大なその行為を……。


 だけど、もう、限界だ。

 この少女はロリタ王女に危害を加えた。

 そして今、俺に、そしてひょっとするとリディア王女やほかの関係のない人間に危害を加えるかもしれない。

 

 俺は……余計なことを考えている暇なんてないんだ。

 今こそ、最後の手段を用いてこの女を倒す。


 それが俺に課せられた……使命なのだから。


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